#密会???
「お〜、お姫ちゃん。お疲れさん。あり? 一人かい? いつもくっついてる彼氏……変態はどうしたんだい?」
「私も薄々そう思っているけれど、多分言い直す順番が逆だと思うわ。猿渡君。瀬羽君ならさっき担任に呼び出されて職員室に行ったわ。物凄く嫌そうに。あと、その呼び方やめて」
放課後の教室。宿題をしながら瀬羽君を待っていた私の元に、クラス委員の仕事を済ませて荷物を取りに来た猿渡君が歩み寄って来る。
「まだ薄々なのかい……。こりゃ手遅れかねぇ」
「どういう意味かしら?」
意味不明な呟きを漏らした猿渡君に私は半眼を向けるが、彼は肩を竦めるだけで説明する気は無いらしい。
「まあ良いわ。丁度良いから、少し相談しても良いかしら?」
「え? お姫ちゃんが、俺に? 何だか怖いねぇ……」
「私より目立たないだけで、貴方ってナチュラルに失礼よね。とは言え、内容は半分ホラーみたいな物だから、私も少し怖いのだけど……」
自分で言うのも何だけど、私にしては珍しく言い淀む。
「ま、言ってみんさい。どうせ瀬羽の兄さんの事だろうから多分力にはなれねぇけど」
「察しが良いのは助かるけど、一応全部聞いてから諦めて」
「諦めて良いんか〜い」
猿渡君の投げやりなツッコミは無視して、私は意を決し本題に入ることにした。
「その、瀬羽君なんだけど、友達が居ないみたいなの」
「目の前に親友が居るぜ?」
「彼は貴方のこと、害虫……じゃなくて、雑音が出るオブジェくらいに思ってるみたいだけど」
「おっと、流石に生き物だとすら思われてなかったとは、流石の俺も驚いたねぇ」
「全くショックを受けてるように見えない辺り、確かに人間味は薄いかもね」
「まあ冗談はさておき」
「私は一言も冗談なんて言ってないけど、どうぞ続けて」
「結論から言うと、そりゃ認識の問題だな。おたくの彼氏には、友達が居るとも言えるし、居ないとも言える。そう言う話だ」
「………ごめんなさい。もう少し噛み砕いて説明してくれるかしら」
うまく理解できなかったが、いつもの煙に巻くような言動とは少し違う気がして、私は真剣に問いかけた。
「要するに、定義が違うんだよ。お姫ちゃんと、ついでに俺と、瀬羽の兄さんじゃ。基準、て言い換えても良いかね」
「なるほど……何となく分かって来たわ」
「お、流石の頭の回転だねぇ。まあここまで話したし最後まで言っちまうが、例えばお姫ちゃんが見てる世界の中じゃ、瀬羽の兄さんに友達は居ねぇ。俺の見てる世界じゃ、間違いなくこの猿渡健友こそが唯一無二の親友だ。……そんで、あのイカれた変態の世界じゃ、一度でも会話して顔と名前を認識してて、自分の敵にも邪魔にもならない相手は大体友達、ってとこかね」
「何それ怖い」
「いやぁ改めて口に出すと、マジでホラーだわなぁ」
「うん。貴方も含めて」
まさかあんな冷めた目を向けられておきながら、本気で自分が彼の親友だと思っているなんて……。やっぱり、この人も大概おかしいわ。友達やめようかしら。
「とは言え、友達の定義なんて大概曖昧なもんだぜ? それこそ、おたくらカップルみたいに毎日一緒に登下校する友達も居りゃ、数年に一回しか会わない友達だって居るしよ。学校では付き合いあっても、休みは彼女や地元の友達と遊ぶから会わないなんてのもザラだ」
「……そう言われると、瀬羽君が普通の人みたいに思えてくるから不思議ね」
「いや本当に。俺とお姫ちゃん以外には実際そう見えてるんだから、怖いったらねぇや。まあそもそも、瀬羽の兄さんは無自覚に他人を利用価値で見てるとこあるからなぁ……。極端な言い方すりゃ、お姫ちゃんとの楽しい学校生活を円滑に過ごす為に役に立ちそうなら友達。そんな感じの認識なんじゃねぇかな」
「どうして彼は……そこまで、私を価値観の中心に置きたがるのかしら。付き合ってからどころか、出会ってからまだ一年も経っていないのに」
分からない。彼が私に好意を抱いているのだとしても、友人関係を含めた私生活の全てを捧げる程の価値が私にあるとは、到底思えない。
「それは………ああ〜、まあ俺の主観で言う事でもねぇから、明言は避けるけどよ。代わりに一個だけ懺悔させてくれや」
「何? 唐突に……」
珍しくどこか気不味そうな表情を浮かべる猿渡君に、私は首を傾げる。
「瀬羽の兄さんがお姫ちゃんと付き合うって聞いた時よ………俺、反対したんだわ。『やめとけ』、ってよ」
「っ! ……懺悔なんて大袈裟な言い方するから何かと思ったら、別に、友達として当然の事を言っただけじゃない。私みたいにクラスで浮いてる女子と付き合うなんて言い出したら、普通は止めるでしょ」
そう言うと、何故か彼はキョトンと目を瞬かせて、慌てたように言葉を継ぎ足す。
「え……? ああいや! そうじゃねぇんだ。お姫ちゃんがどうこうじゃなくってよ、単純に、俺が嫌だったんだわ」
「は? ………え? あ、ああ、そういう? ごめんなさい私、察しが悪くて。その、何だか申し訳無いわ。今まで、見せつけるようなことをしていたみたいで……。勝手に友達だと思ってるだなんて、図々しかったわね……」
「ん? んん〜? あ、いやいや!? 違う違う違うっ! 俺にそっちの気は無ぇから! 確かに言い方が悪かったが、そう言う意味じゃねぇから!」
「何だ、違うのね……」
「何でちょっと残念そうなんだい……」
別に残念という訳ではないけれど、友情と恋愛感情と言う違いはあるとして、彼の片想いだと言う意味では少し面白いと思ってしまったわ。私、性格悪いのかしら。
「単純によ、『つまらねぇ奴になっちまう』、と思ったんだわ。普通の男子高校生みたいに恋して、特定の誰か一人に執着する瀬羽の兄さんなんて、面白くねぇってな。……ま、結果は真逆だったけどよ。そもそもあの変態が、まともな恋愛なんて出来る訳ねぇって話だわな。お陰様で俺は毎日楽しいぜ」
「その言い方だと私までまともじゃ無いみたいなんだけど」
「俺は毎日楽しいぜ!」
「どうして二回言ったの? 私の思ってる通りの意味なら……」
「意味なら?」
「瀬羽君に言い付けるわ」
「冗談でもやめてくれ。俺はまだ楽しい人生を送っていてぇ」
「語るに落ちたわね」
そんな風に微妙に私たちの間で殺伐とした空気が流れたところで、ガラッと音を立てて教室の扉が開いた。
「悪い、遅くなった……って、猿渡?」
少し息を切らせて教室に入って来た瀬羽君は、私と猿渡君を交互に見ると、歩いているのに走っているよりも速い速度で一気に歩み寄って来て、猿渡君の胸ぐらを掴んだ。
「踏み潰してやるから地べたに這いつくばれ。害虫野郎」
「お、今日は生き物として認識してくれてるねぇ。こりゃめでてぇや」
一切抑揚の無い声で殺害予告をした瀬羽君に、猿渡君は嬉しそうに笑いかけた。何この文書。
「姫宮に何を吹き込んでた? と言うか何二人きりで話してんだ? あ? 死にたいなら毒入りの団子でも食って人様の視界に入らないドブの底にでも沈んでろ」
「悪魔で彼に害虫として死んで欲しいのね。瀬羽君、猿渡君を離してあげて。私が彼を引き留めて少し話し相手になって貰っていただけよ」
「姫宮が……? 分かった。救急車を呼ぶから少し待っていてくれ」
「頭がおかしくなった訳じゃ無いから落ち着いて。ね?」
そう言って私は立ち上がると、彼の手を取った。
「……何もされなかったか?」
「瀬羽の兄さん。そいつはある意味害虫扱いより傷つくぜ? 親友の女に悪さするほど落ちぶれちゃいねぇよ」
まるで猿渡君の声が聞こえていないかのように、瀬羽君は真剣な表情で私の目をじっと見つめる。
「うん。寧ろ私の方が彼を脅迫していたくらいだもの。だから安心して」
「そっか……なら良かった」
「ははっ! やっぱイカれてらぁこのバカップル」
どこか投げやりに天井を仰ぎながらよく分からない事を言っている猿渡君を放置して、私達は荷物を持つと、手を繋いだまま教室を出た。
「じゃあね、猿渡君。また明日」
「二度とその面見せんなよ」
思い思いに挨拶をして、私と瀬羽君は教室を後にした。
「おう! また明日な! ……ふっ。何だかんだ良い感じじゃねぇの。変態の被害者ってのは、お互い様かねぇ」
爽やかなスポーツ少年のような顔で挨拶を返した猿渡君が最後に付け足した呟きは、既に階段の曲がり角まで歩いていた私達の耳に届かなかった。
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