#鈍感主人公?
私の彼氏、瀬羽君は少し……いやもしかしたら凄く、頭のおかしい人だ。
けれど、その事に気が付いているのは多分、私と猿渡君ぐらい。
学校の人達は、瀬羽君が社会不適合者の私の面倒を見ている、と思っているだろう。別にその認識は間違いでは無いし、わざわざ否定する気も無い。けれど、少しズレているな、とは思う。
そもそも私は、通学する事に何の価値も見出していない。昔は知らないけれど、今の時代は別に通信制の学校でも卒業資格は取れるし、何なら学校を卒業していなくても、仕事の選択肢なんて山のようにある。食事も買い物も家で済むし、適度に日光を浴びて運動していれば不要に外出する理由も無い。
生きていくだけなら、家から出て他人に会う必要など無いのだ。……だから、自分の言動が他人を不快にするのなら、集団生活なんてしなくて良いと。私は思っている。
けれど、私の周囲の環境はそれを許さない。多分、その環境は成人しても、呪いのように纏わりついて来るだろう。
そんな、自身の信条と現状の狭間で悩んでいた時に、彼は現れた。
『なら、集団じゃなくて俺とだけ付き合えば良い』
最初は、彼が何を言っているのか分からなくて、ただただ戸惑った。そんな私を可笑しそうに眺めながら、彼はペテン師のようにツラツラとひたすら私に都合の良い言葉を紡いだ。
『彼氏彼女、って事にしよう。別に姫宮は俺を好きにならなくて良いし、なったって良い。無理に恋人っぽく振る舞う必要も無いぞ? 立場がハッキリしてる方が、対外的に印象が良いってだけだからな。姫宮が誰かを傷つけそうな時は、彼氏の責任として俺がフォローする。姫宮が間違っていないのに誰かに謝らなきゃいけない時は、俺が代わりに頭を下げよう』
あまりにも意味が分からなくて……いえ、意味は分かるけれど。そんな提案をされる理由が思い至らなくて、私は間抜けにも、罠にかかる獲物の如くその問いを口にしてしまった。
『………そんな事をして、貴方に何のメリットがあるの?』
何に怯えているのか自分でも分からなかったけれど、私は恐る恐る、そう問いかけた。
すると彼は、一瞬キョトンとしてから、まるで理を説くかのようにサラリとこう告げた。
『世界一可愛いと思った女の子の彼氏を名乗れるんだから、そのくらい安いもんだろ?』
頭が、真っ白になった。
当然だ。今までクラスメイトと言う事以外、何も知らなかった男の子に、いきなりこんな事を言われたのだから。
『………え? えっ、と……それは、私の顔が好きだから、アクセサリーみたいに側に置けるなら面倒を見てやる、と言うこと?』
混乱した頭で最初に言語化出来た疑問は、私らしいと言えば私らしい、そんな率直な問いだった。
『まあ、ルックスも可愛いと思ってる事は否定しないけど、どちらかと言えば性格かな。今みたいなストレートでエッジが効いてる物言いとか、その割に意外と周りを気にしてる所とか、正しいと思った言葉には素直なとことか。まあ、無理矢理言葉にするとこんな感じだけど、とにかく全部まとめて死ぬほど可愛いと思ってる』
『っっ??? ………そ、そんな風に言われたのは初めてだわ。私が言うのも何だけど、貴方、変わってるわね』
『そうか? 特に目立たない至って普通の高校生男子だと自分では思ってるけど』
私の言葉に不快になるどころか、ただただ不思議そうにそんな自己評価を口にする彼が、私の目には酷く異質に映った。端的に言えば、少し気持ち悪かった。
『そう……その、これって告白、なのかしら?』
私は基本的に学校では他人に、特に同性には嫌われがちだったけれど、中学に上がってからは年に一、二度、男子に告白される事があった。その経験から、私の容姿や望んで孤独でいる姿が、どうやら一部の男子にとって魅力的らしい事は知っていた。もちろん、全て断っていたけれど。
だから、この遠回しなのかストレートなのかよく分からない彼の行動も、少し変わっているけど一種の告白なのかと思ったのだ。……いや、冷静に考えればやっぱりそうだと思うのだけど、騙されてしまった今となっては後の祭りだ。けれど、仕方が無いでしょう?
だって……この時、彼があまりにも堂々と、こう答えたのだもの。
『え? 違うけど』
私の頭は、再び真っ白になった。
そんな私の混乱に付け込んだのか、はたまた天然(サイコパス?)なのか、彼はこう問い返して来た。
『だって、全然興味無い俺に告白されたところで、姫宮は断るだろ?』
『え、ええ、それはまあ……』
『ほら。だから告白なんてしないよ』
至極当然のような口ぶりの彼に無自覚に流され、私はコクりと自信なさげに頷く。
『だから、これは提案だ。姫宮は俺を学校生活に置けるフィルター、言わば道具として利用すれば良い。その代わり、俺は姫宮の彼氏と言う立場、一番近くに居る権利を貰う。ただそれだけの事だ。さっきも言ったけど、俺を好きなる必要も、恋人らしい行為をする必要も無い。ただ一緒に学校に行って、近くで過ごして、一緒に帰る。それだけで、姫宮はリスクを回避出来て、俺は楽しい。誰も損しない、Win-Winな契約だろ?』
そう言って、彼は片手を私に差し出して笑った。
『………分かった。じゃあ、明日からよろしく』
彼の言葉が持つ正体不明の説得力に納得して、それが何故だか少し悔しくて、ムキになった私は気付けばぶっきらぼうにそう告げて、彼の手を取らずに背を向けた。
……それからは、例の如くペテン師のような彼の言葉に流されて、自然と連絡先を交換し、家まで迎えに来るようになり、送って貰うようになった。
ごくたまにだけど休みの日も、何かと口実を付けられては外に連れ出されている。誘って来るその間隔もまた絶妙で、ギリギリ鬱陶しく無いくらいの間を空けて来るのが腹立たしい。
私達は、キスも、セックスもしていない。
けれど、他の人達から見たら確かに、私は彼の彼女で、彼は私の彼氏だ。
きっと私も、他の人達も、彼に騙されているだけだ。
自分は溢れんばかりに好意を押し付けて来るくせに、私からの好意を一切求めない彼のことを、気持ち悪いとも思っている。
でも……騙されているのに、気持ち悪いのに、離れられない。離れたいとも思わない。
だから、改めて私は、こう心に誓った。
詐欺とか、気を付けよ。
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