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#昼時々可愛い


「もしかして私、早河さんに嫌われているのかしら?」


 昼休み。姫宮と俺は化学準備室で一緒に昼食をとっていた。どこかの江戸っ子猿や、なんちゃってギャルの邪魔も入らない、学校生活の中では数少ない平穏なひと時。


「…………えぇ?」


 ……なのだが、唐突に投げかけられたその問いに、思わず間抜けな声を漏らしてしまう。


「彼女いつも騒がしいから、あまり気にしていなかったのだけど。私にだけは何だか言葉が強い気がするのよね。特に、“暴言女”と言うのは頂けないわ。まるで、私がやたらめったら他人を罵っている迷惑な女みたいじゃない」

「そうだな。姫宮が他人を罵る時は、ちゃんと明確な意図と指向性があるもんな」

「特に、瀬羽君と一緒に居る時はよく絡まれるわね。体育とか選択授業で私が一人の時は全く話しかけて来ないのに」

「……気のせいだろ?」

「確かにそうかも。それ以外の時は大体、貴方と一緒に居るから。たまたまかもしれないわ」

「おうふ……」


 う〜ん事実だけど改めて言葉にされると死ぬほど照れるんですよねぇ〜。俺キモぉ〜い。


「ならやっぱり、私個人の問題かしら? ……まあ昔から、同性からは特に嫌われて来たから、今更一人増えた所で何とも思わないけれど」

「それは違う」

「え?」


 この思考は良くない。ただでさえ、彼女は他人と共に行動するメリットを感じていないのだ。デメリットの方が大きいと判断すれば、また外に出なくなってしまう。


「姫宮が特定の個人を攻撃する時は、先に相手から攻撃された時だけだ。自分から誰かを傷付けていない奴に非があるなんて事は、断じて無い」


 ま、レスバが強すぎて過剰防衛オーバーキル気味なのは否めないが、今それを言う必要な無いだろう。


「………そう。ふ〜ん……あむっ」


 表情は変わらないが、一先ずは納得してくれたのか、姫宮は食事に戻った。

 こうして黙って食べていると、大人しい小動物にしか見えないんだけどなぁ。


「ま、早河のアレは気にしなくて良いぞ。多分姫宮の事が嫌いとかじゃなくて、ただ構って欲しいだけだ。程よくボコボコにして追い返しとけば、後はツレのギャル達が面倒見てくれるよ」

「程よくボコボコ……難しいわね」

「いつも通りで良いってことだよ。クラスの連中だって、お前らの口喧嘩を名物扱いしてるくらいだしな」


 主に猿渡とか。


「見せ物にされるのは不本意なのだけど……まあ、周囲に迷惑を掛けていないなら良いわ」

「かわっ……優しいんだよなぁ、ホント」


 あっぶねぇ。普通に『可愛いなぁ〜』とか口走りそうになった。でも可愛い。すごく可愛い。

 自分がどう思われるかは気にしないくせに、自分のせいで他人が不利益を被るのは看過出来ない。……まあ、自分が悪意に鈍感だから、その分他人がどんな言葉で傷付くのかも想像できないんだけど。


 不器用なのにいじらしくて、独善的なのに愛らしい。

 

 『姫宮 奏』とは、そういう女の子なのだ。


「ふふっ……そう言えば、さっきの猿渡君は面白かったわね」

「は? どこが? あいつが面白かった瞬間なんて0.1秒も無いだろ?」


 ふと、上品に口元を隠して思い出し笑いをしながら、猿渡の名を口にした姫宮。

 ……我ながら狭量だとは思うが、彼女の屈託無い笑顔を引き出したのが俺じゃないと言う事実に腹が立って、反射的にに猿渡を貶してしまった。とは言え、正直あまり罪悪感は無い。本人の前でも全然言えるし。

 ただ……姫宮に、『友達の悪口を言う奴』だと思われるのは、嫌だ。


「猿渡君の話が面白いとかじゃ無いわ。いつもよく分からないこと言ってるし。そうじゃなくて、私に『友達』って言われて、オドオドしていたでしょ? 悪口を言われてもいつも通り飄々としているのに、あまりに普通の事で動揺するんだもの。それが何だか可笑しくって」

「あ、ああ、そういうね……。まあ、あいつは一見スポーツ少年風、ってか実際そうなんだけど、性格は俺等以上に捻くれてるからなぁ。何の他意も無いストレートな好意とかには弱いんだよ」

「『俺等』って、私、別に捻くれているつもりは無いんだけど?」


 ムスッとしてこちらを上目遣いに睨む姫宮。可愛い。……じゃなくて、危ない危ない。ちゃんとフォローしないとな。


「失礼。言葉の綾だ。姫宮は素直で正しいよ。ただ、世の中が歪んでて間違ってるだけだ」

「……何故かしら。正当な権利として訂正を求めた筈なのに、何だか私のせいで瀬羽君がとても痛々しい人になってしまったような罪悪感があるわ」

「誰が厨二病か」


 俺も言ってからちょっと思ったけども。でも仕方ないじゃん。真実なんだもの。


「自覚が無いのかしら? 貴方、ちょくちょく恥ずかしい事言ってるわよ?」

「姫宮こそ、もっと自覚してくれ。俺が恥ずかしい事を言うのは、お前だけだ」


 俺はキメ顔でそう言った。姫宮は無機質な表情のまま目を伏せた。


「そう……ごめんなさい。気持ち悪いわ」

「うん。俺こそ何かごめんね?」


 半分ジョークのつもりだったんだが……まあ良いや。いつもの事だし。


「貴方と猿渡君て、似ているようで何だか正反対よね。仲が良いのが不思議」

「俺とアイツが? いやまあ、俺も同類では無いと思ってるけど。あと、仲が良いと思われているのは不本意だ」

「猿渡君は多分、自分の感情がよく分かっていないせいで表面的な言葉しか出て来ない。瀬羽君は、自分の感情に正直過ぎて逆にリアリティが無いくらい率直な言葉で話す。でも、それだけ根本が真逆なのに、何故か噛み合っている。本当に不思議」


 興味の対象は偏ってるけど、良く見てんだよなぁ。


「お互い、相手にどう思われようと気にして無いだけだよ。だから、致命的に関係が拗れることも無い」

「へぇ……でも、瀬羽君は私にどう思われるか、いつも気にしているわよね? なのに致命的に関係が拗れないのは、どうしてかしら?」

「それはっ………あ〜、お陰様で?」 


 こればっかりはストレートに言葉にするのが恥ずかしくて、思わず誤魔化してしまう。


「ふふっ……」

「な、何だよ?」


 またもや可笑そうに口元を隠して上品に笑う姫宮に、思わずジト目を向ける。

 すると彼女は、柔らかく微笑んだまま俺の方を見て、こう言った。


「……可愛い」


 ………………………っっっっっお前がなっ!!




分かる人には割と分かる某物語シリーズのパロディが一部入ってしまいました。どうしても使いたくなって……。


お読み頂きありがとうございます。

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