まだ息がある……頑張れテンプレ!(下)
「けれど、早河さんが私の友達になってくれるなら、話くらいは聞くわ」
……………は?
「……………は?」
俺の内心と同じ間抜けなリアクションを、早河が目の前で体現した。
……いや、その隕石みたいな言葉をブッ込まれたのは早河なのだから、俺が早河と同じ反応をしたと言うべきか。いや何言ってんだこれ。何も言って無いけど。
「常々思っていたの。あの教室で直接私に話しかけて来る女子って、早河さんだけなのよ。自分で言うのも何だけど、毎回割と冷たい対応をしているのに、全然めげないし。だからいっそ、友達になってしまえばお互い都合が良いかなって」
「………いや、いやいやいやごめん。ちょっと待って。全然頭が追いつかない」
「どうぞゆっくり考えて。アイスも溶けそうだし、パフェを食べて糖分を摂取しながら整理すると良いわ。私はコーヒーのお代わりをもらうから気にしないで」
混乱し過ぎて逆に冷静になった早河と俺を置き去りに、姫宮は涼しい顔でマスターに「美味しかったです。ブレンド以外にもお勧めがあれば試したいのですが」と、慣れた様子で注文する。マスターは嬉しそうにコクコクと頷いていた。さっきからちょいちょい顔がうるさくて邪魔だなあの爺さん。どっか行ってくれないかな。
「瀬羽君。せっかく美味しいコーヒーなのに、氷が溶けたら勿体無いわよ?」
「コーヒーの心配に割く心の余裕が無くてな……」
ただでさえ、『高校デビューして俺を切り捨てた幼馴染ギャル(笑)が実は俺を好きだったかもしれない件について』、とか言うラブコメラノベのタイトルみたいな特大地雷が埋まっている可能性を聞かされた状況で一歩も動けなかったのに、『俺の彼女と幼馴染が修羅場ってたのに何故か友達になりそう』とか言うシュール系ギャグラノベみたいなブッ込み絨毯爆撃されて息の根が止まりそうなのだ。後者のタイトル聞き覚え通り越して懐かしさすらあるな。
「大丈夫よ。私、嫌われるのは慣れているもの」
「この状況で心配されてるのが自分だけだと思えるそのメンタル何なの……?」
「良いツッコミね。友達ポイント一点追加よ」
「何で私がアンタと友達になるためにポイント稼いでるみたいになってんの!?」
「頼むから俺がスタンス決めるまで静かにしててくんない? ……いやごめんやっぱ喋っててくれ。黙られる方がキツいわ」
何であの流れからちょっと仲良くなってんだよ。早河の方はツッコんでるだけだからともかく、姫宮が微妙に好意的なのがマジで意味分からん。暴言女だの何だのと、教室ではひたすら罵倒されてばかりだと言うのに……いやまあ、全部返り討ちにしてるからダメージ無いのは分かってるんだけど。最近ではもはや対決というより調教みたいになってるし。
「珍しく優柔不断ね。いつも何でも勝手に決めて私を巻き込むくせに」
組んだ手の上に顎を乗せ、少しだけ意地悪そうに目を細めて俺の方を見ながら微笑む姫宮に、思わずキョトンと目を丸くしてしまう。
「え? そんなことないだろ。何かしたり出かけたりする時は、いつもちゃんと相談してから決めてるぞ?」
「……そうね。本当に不思議。最初は適当に聞きながしているのに、何故か気づいたら貴方の言う通りに行動しているのよね」
「あ、それ超分かる。何かふわっとした感じで提案して来るのに、こっちが文句言ったりあれこれ注文付けても、気付いたら全部コイツの思い通りになってて後からゾワって寒気がするんだよね」
「お前ら絶対教室で意気投合するなよ? 人聞きが悪すぎる。せめて計画性があるとかプレゼン力が高いとか言ってくんない?」
まるで詐欺師でも見るような胡乱な目を二人揃って俺に向けて来る姫宮と早河。甚だ遺憾である。俺はただ、相手が損に感じない提案を心がけているだけだと言うのに。
「ふむ。同じ彼の被害者同士、やっぱり友達になれそうね。友達ポイント二点追加」
「そんな歪んだ絆で繋がるの嫌なんだけど……あとそのポイントやめろ」
「その前に俺を歪みの元凶みたいに言うのやめてくれる?」
「「それはそうでしょ」」
「親友かよ」
共通の敵(俺は認めない)を得てどんどん仲良くなっていく二人に、俺はどんどん気力を失って遠い目でツッコむ事しか出来ない。何で二人で俺を打倒しようとしてんの? 少年漫画の熱い展開みたいな感じで敵同士だったのに手を取り合うのやめて欲しい。本当に俺が悪者かと思っちゃうだろ。
と、俺が再びスタンスに彷徨っている所へ、マスターがお代わりのコーヒーを持って来た。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう」
「何でもツッコむと思ったら大間違いだからな? あとマスターはマジでどっか行ってくれ」
「マスターなのに!?」
まるで執事と令嬢のようなやり取りを自然にするマスターと姫宮に、俺は呆れを通り越して怒りが湧いて来た。普通逆だろ。
「うぅ……ホント何なのよコイツ。私今どんな顔してれば良いの?」
「美味しい物を食べて飲んでいるんだし、笑顔で良いんじゃない?」
「どっからツッコめば良いのよっ!?」
「ホンそれ」
にしても早河は律儀だな〜。散々嫌ってたくせにちゃんと全部拾ってツッコんで。幼馴染ポイント一点やろう。口に出したら発狂しそうだから言わないけど。
「で? どうなの? 結局、早河さんは瀬羽君の事が好きなの?」
「やめろその普通の恋バナみたいな聞き方。本当に友達かと思っちゃうじゃん」
「あ、じゃあ俺帰って良い? 女子会の邪魔するのもアレだし」
「「良い訳無いでしょ」」
「親友過ぎる……」
ダメかぁ……いつ帰る? 今でしょ! とか思ったのに。何か凄い塾行きたい。うち放任主義だから行った事無いけど。
「そもそも瀬羽君の方はどうなの? 中学までは仲良しな幼馴染同士だったんでしょ? 異性としての好意もあったんじゃない?」
「この流れで俺に振るのは流石としか言いようが無いが、敢えて断言するぞ。無い。それこそ物心ついた頃から一緒に居たし、家族っつーか、妹みたいな感覚だったな」
「だ、そうだけど、この答えを踏まえてどう? 早河さん」
「ディベートみたいなノリで進行するな! この状況で答えたらどっちだったとしても私の負けみたいになるじゃん! はぁ、はぁ……アンタに女友達居ない理由、良く分かったわ……」
ツッコミ疲れてスタミナ切れした早河は、座っているのに肩で息をしている。そういやコイツ、全然体力無いんだよな。見た目がいくらアクティブそうなギャルになっても、中身はやっぱりそのまんまだ。
「ふむ。明言は避けたい、と言うことかしら。でもそれってほぼ答えを言っているようなものじゃ……」
「ち、ちゃうし! そんなんじゃ無いから! ……ウチだって、ショウちゃんのこと、なん、か……あ、あれ……?」
「っっ、ハルッ!?」
唐突に、崩れるように机に突っ伏しそうになった早河を、俺は思わず以前の呼び方で叫びながら支える。
「早河さん……?」
「馬鹿っ、興奮し過ぎだ! ……落ち着いて、ゆっくり息を吸って吐け」
呆然とする姫宮に構う余裕も無く、俺は早河の肩を支えながらソファーの背もたれに慎重に戻し、耳元で声を抑えて言い聞かせる。
「っ……すぅー………はぁ……すぅー……ごめん、ちょっと目眩がしただけやから、大丈夫」
「……良いから、落ち着くまで喋るな」
大丈夫と言う割に、青い顔のまま口調も関西弁に戻ったままの彼女は、とても余裕のある状態とは言えない。だが、それを指摘して余計に興奮させるのはもっとダメだ。
「ごめんなさい。私……」
「いや、俺の方こそ配慮が足りなかった。最近は元気に騒いでる姿しか見て無かったから、油断した。ハル……早河は小さい頃、虚弱体質でな。興奮し過ぎたり、過度に運動するとすぐ貧血や目眩を起こしてたんだ。中学からは体調も落ち着いて、そう言う事も少なくなってたんだが……」
俺の対応で早河の状況を察したのか、申し訳無さそうに謝罪を口にした姫宮の言葉を遮って、事情を説明する。この事態は十分に予想出来た事だ。早河が息を切らせ始めた時、すぐ落ち着かせなかった俺にこそ非がある。
「翔兎君。温かいおしぼりを持って来たから、遥ちゃんの首に当ててあげなさい。すまないね。私も彼女の体質は知っていたんだが、すっかり大人っぽくなっていたから、克服したものと思い込んでしまった。二人を良く知る大人として、本当に申し訳ない」
誰よりも冷静な対応をしていながらも、最後に深々と頭を下げたマスターに、思わず俺も姫宮も目を丸くする。
いくら子供の頃からの馴染みとは言え、俺たちはただの客だ。体調管理なんて自己責任だし、客観的に見てマスターに非は無い。だと言うのに、『大人として』、こうも潔く自身の責任だと言えるマスターの人柄は、きっと尊敬に値するものだ。
「はぁ……二人とも、大袈裟過ぎ。こういうの久々だったから、私もちょっとびっくりしたけど、別に大したこと無いから。姫宮も、謝んないでよね。別にアンタの責任とかじゃないし」
「……分かった。でも、今度からはもう少し気を付けるわ」
知らなかったとは言え、やはり自分の言動が早河を興奮させた事に負い目を感じているのか、姫宮は憂いの晴れない表情のまま頷いて、そう付け足した。
だが、早河はそんな彼女の様子が気に入らないらしく、胡乱な目を向けて鼻を鳴らす。
「はぁ? 何よ『気を付ける』って。らしく無い事やめてよね。いい加減、私だってアンタの暴言には慣れてんだから、変に気ぃ使われる方がキモいっつーの。今日はちょっと早起きして寝不足だったから、たまたまクラっと来ただけ。別に病気とかじゃ無いし、これくらいのこと一々気にしてらんないわよ」
「っ! ……ふふっ。古き良きツンデレみたいな言い方だけど、よく分かったわ」
「誰がツンデレよ!」
「おい……」
早河の顔色こそ戻ったものの、すぐに漫才のようなやり取りを再開した二人に、俺は反射的に咎めるような声を漏らしてしまう。
だが、彼女達はそんな事お構い無しに、すっかり二人の世界を形成していた。
「それじゃあこれからも、お友達としてよろしくね」
「図々しい……何しれっと今までも友達だったみたいに言ってんのよ」
「あら。瀬羽君曰く、私たち親友らしいわよ?」
「知ってる? 彼氏の言葉間に受けるタイプの女に限ってすぐ浮気されんのよ?」
「質問に質問で返すのは良く無いわ。友達ポイントマイナス一点」
「別にいらないけど死ぬほど腹たつ……」
すっかりいつもの調子で涼しい顔のまま言いたい放題な姫宮と、一周回って落ち着いたのか淡々とツッコミや皮肉を返す早河は、側から見ていると本当に腐れ縁の友達みたいだ。
……でも良かった。取り敢えず、心配は無さそうだな。
「こういう顔が気に食わないわよね」
「分かる。今私もイラッとした」
「ねぇ良い感じだったじゃ〜ん? 俺のことオチ要員にしなくても十分仲良しだってぇ〜」
「「キモい」」
天井を仰いで投げやりな声を漏らした俺に、お嬢とギャルは仲良く容赦無い評価を下した。
そして、すっかり氷の溶けたアイスコーヒーを、マスターは無言でそっと交換してくれた。
マイペースな更新ですいません……。
今話もお読み頂きありがとうございました。
ご意見、ご感想等、励みになりますのでよろしくお願い致します!




