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#まだ息がある……頑張れテンプレ!(上)


 

 姫宮が頼んだコーヒーとチーズケーキ、そして早河が何故か対抗するように頼んだカフェラテとパフェ、そして俺が頼んだアイスコーヒーをトレーに乗せて運んで来たマスターは、気不味げに目を泳がせる。

 因みに席割は四名掛けのテーブル席で、姫宮と早河が隣同士、俺は早河の正面だ。何でだよ。俺が姫宮の隣に座るべきだろ……と、声を大にして言いたかったが、姫宮は注文して早々に早河の隣に座ってしまったので、今更席替えを提案するのは流石に気が引ける。


「え、ええと、じゃあ先ずは……初めましての彼じっ、お嬢さんから出させてもらうね!」


 マスターは長年の経験を全く感じさせない冷や汗ダラダラの緊張した様子で、姫宮、早河、俺の順で配膳する。新人バイトかよ。

 声が上擦ったのは、様子のおかしいギャルに変なタイミングで睨まれたからだろうか。

 ……いつもはそれっぽい雰囲気醸し出しながら配膳して、渋い声で「どうぞ」と一言だしか言わないくせに。


「冷めない内に頂きましょう」

「いや凄いなお前。今どのテンションなん?」


 この三ヶ月に限っては、姫宮の事を誰よりも身近で観察し続けている自負がある俺も、流石にこの突飛な行動は予想出来なかった。その異常なまでのアクティブさに反して、ごく自然にコーヒーを飲み始めてるのも違和感が半端無い。


「ちょっと! アンタ何で此処に居るのよ!? てか、瀬羽? こいつに此処の場所教えたの?」

「いや、俺は近所の喫茶店に行くとしか……」

「早河さん。貴方、静かに会話する事が出来ないの? せっかく落ち着いた良い雰囲気のお店なのに、声を荒げている人が居たら美味しいコーヒーも香りが濁ってしまうわ」

「なっ!? こんのっ……ギリリッッ!」


 皮肉と呼ぶにはあまりにストレートな姫宮の諫言に、早河は青筋を立てるものの、実際これ以上騒ぐのは店にも他のお客さんにも迷惑だと自覚があるのか、何とか歯軋りで威嚇するにとどめた。いやウサギかお前。

 ……てか、マスターも微妙に嬉しそうにしてんじゃねぇよ。ジジイがモジモジしてんの見てらんねぇんだわ。よく聞いたら具体的な部分何も褒めてないし、ただの社交辞令だろ。


「私がこの場所をすぐに特定出来たのは、マップを見て瀬羽君の家から一番近かったから、と言うだけの事よ。違ったら違ったで、散歩がてらこの辺りの喫茶店巡りというのも良いかと思っていたのだけど、あっさり一軒目で合流出来たわね」

「何そのお洒落なストーキング。怖くないかも」

「いや怖いでしょ!? アンタまで正気失ったら私はどうすりゃ良いのよ!?」


 しまった。仄かに微笑んだ姫宮に思わず見惚れて流されるとこだった。助かったぜKANSAIJIN。標準語だったけど。


「ゴホン……そ、それにしても、あのメッセージ見てから来たにしては早かったな?」

「そこ? いやそこも怖いけど。確かに、メイクはあんましてないみたいだけど、服とか髪型バッチリだし……」


 早河に言われて改めて姫宮の姿をじっくり見ると、確かに素晴らしい出来栄えだ。


※以下キモいモノローグの為読み飛ばし推奨


 髪を編み込みでハーフアップにしている事で、普段は隠れている小さな耳がちょこんと出ていて可愛らしさをより引き立たせつつも、純白にレースがあしらわれた膝丈のワンピースは彼女の清楚なイメージをより上品にグッと押し出しており、まるで純文学に出てくる避暑地で出会ったご令嬢のようだ。

 何が言いたいかと言うと、めちゃくちゃ可愛い。ぶっちゃけ写真撮りたい。千枚くらい。絶対嫌がるからやらないけど。

 昨日の健康的なファッションも普段のイメージとギャップがある少女らしい愛らしさで実に良かったが、ガッツリこれだけハマる格好をするのは言うまでも無く素晴らしい。とても良い。凄く良い。せめて目に焼き付けておこう。


「午前中に外でちょっとした用事を済ませていたのよ。そしたらタイミング良く彼からメッセージが来たから、たまには私から会いに行ってあげようかなって」

「うっわ、何その上から目線……」

「ありがとうございます」

「何その下から目線!?」


 何か言っている早河を無視して、俺はしっかりと腰を折って頭を下げながらも目線を一切姫宮から動かさずに礼を口にした。いやだって、こんな可愛い格好してる時に会いに来てくれるとか、最高過ぎだろ。理由は忘れたけどマジで喫茶店来て良かった。


「どう致しまして。それはそうと、瀬羽君? 休日は私と会っている時以外は勉強に費やしていると言っていたのに、今日はどうして早河さんと会っていたの?」 

「ああ、それは……あれ? 何でだっけ?」

「おかしいでしょ!? こっちが元々メインなんですけど!?」


 一瞬本気でド忘れした俺に、早河はとうとう我慢の限界と言わんばかりに掴み掛かる。幸い、俺たち以外のお客さんはちょうど皆帰った所なので、営業妨害にはなっていない。何かマスターも微妙に楽しそうにソワソワしてるし。マジで何なのあの爺さん。


「そ、そうそう。俺の家、今親居なくて、それを世間話で聞いたコイツの母親が余計な世話焼いて弁当持たせたんだよ。それでまあ……受け取る受け取らないで例の如く揉めてな。流石に家に上げる訳にはいかないから、仕方なく喫茶店で落ち着かせようとしてたんだ」

「なるほど。でも全然落ち着いているようには見えないわね?」

「アンタのお陰様でねっ!」


 キョトンと小首を傾げる姫宮に早河が食い気味で皮肉を返す。……何かこうして眺めてるだけなら、普通の友達同士に見えないことも無いな。


「ふっ」

「は? 何笑ってんの?」

「ん……瀬羽君。女性二人を前にしていきなり気持ちの悪い笑い声を漏らすのは、ちょっとした通報案件よ?」

「流石に酷くない? 笑うくらい許してくれよ。人間だもの。あと通報はちょっとした事案じゃないからな」


 俺に迫力満点の顔でメンチを切る早河と、コーヒーを一口飲んでから淡々と社会的に殺そうとして来る姫宮は、対照的なようで酷く息が合って見えた。


「幼馴染のこと忘れて彼女といちゃつき始める奴より酷く無いけど?」

「被告人の分際で随分と生意気ね」

「お前ら、俺が悪者だと仲良く出来るんだな……」


 正直意外だ。仮に早河が以前の引っ込み思案な妹のようなキャラのままだったとしても、この二人は相入れないと思っていた。

 女子二人から罵倒されるのは気分が良いとは言えない。が、姫宮がどこか楽しそうに見えるせいで、強く反論する気になれないんだよな。


「仲良くなんてしてないし!」

「まるで仮定のように言うけど、貴方はれっきとした悪者でしょう?」

「はいはい。もうそれで良いっす」


 意味分からん状況だけど、いつもみたいに二人が正面切って言い争いしているよりはずっと微笑ましい。


「……むかつく。アンタって昔からそうよね。一歩引いた所で大人ぶって、何でも分かってますって顔してさ」

「は? 何だよ唐突に……」

「瀬羽君が、一歩引いている……?」

「そのリアクションもちょっと傷付くんだが」


 ほぼ毎日好きな女の子と一緒に居て、手を繋ぐ以上は何もしない健全な高校生の鏡のような男だと言うのに……。


「他人の気持ちなんて、少しも分かって無いくせに」

「はぁ? そりゃ超能力者でもメンタリストでも無いし、気持ちなんて可視化出来ないもんが分かるわけ無いだろ?」

「分かろうともせんやん!」

「なっ……」


 方言に戻ってしまう事も構わず、感情的に荒げた早河の声は、少し掠れていた。その瞼には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうになっていて、俺は反論の言葉を失う。


「そうやって、口先で理屈ばっか捏ねて、少しもこっちは見てくれん! ウチが……ウチがどんな気持ちでショウちゃんに距離置こうって言ったんか、少しは考えたん!?」

「そ、そりゃ、高校デビューするのに俺みたいな地味な奴が側に居たら邪魔になるから……」

「違うっ! やっぱり何も分かって無いやん! ウチはっ、ウチは……っ!」

「っ……」


 最早流れ落ちる雫は止められず、嗚咽で言葉を続けられなくなった早河に、俺も何と声を掛ければ良いのか分からない。


 ……と、酷く気不味い時間が続くかと思ったその時、姫宮が唐突に口を開いた。



「早河さんは、瀬羽君の事が好きなの?」



 ………………………………………………。


 数秒、或いは数分か。まるで世界の時が止まったかのように、空気が凍りついた。

 姫宮の言葉を聞いた瞬間、早河はまるで心臓が止まったのかと錯覚するほどピタリと嗚咽を出さなくなり、怒りに震えていた肩も石のように固まっている。

 俺も目を見開くばかりで、それ以上は何も出来なかった。


「……何、それ?」

「いえ、ただ気になったから聞いてみただけよ。深い意味は無いわ。やけに感情的になっているから、もしかしてそうなのかなって」


 普通に考えれば、深い意味しか無い問い。けれど、恐らく姫宮は本当に何の他意も無く、ただ情報としての興味だけで問うたのだ。


 純粋。それはこの世の何よりも透き通った美しさと、残酷さを表す形容詞。

 そして、『姫宮 奏』を表す言葉だ。


「っっ………もし、万が一そうだとしたら、アンタはどうするのよ?」


 早河は俯いたままで、どんな表情をしているのか分からない。どうして、そんな仮定の話をするのかも。


「特にどうも。私に出来る事なんて無いもの」


 淡々と、視線すら向けずコーヒーカップを傾けながら姫宮が口にした答えは、俺の予想通りだった。

 ……仮に、もし仮にそうだとしても、他人が出来ることなんて何も無いのだ。


 早河の言葉を借りるなら、これは“気持ち”の問題。他人の行動に影響を受ける事はあっても、根本的な問題は本人にしか解決出来ない。いや、そもそも解決なんて永遠にしないのかもしれない。

 妥協して、紛らわせて、消化したと言い聞かせて、折り合いを付ける。気持ちとは、そうして自分で処理しなければならないのだ。パソコンみたいに頭の中にもゴミ箱があれば、どれだけ楽だろうか。



「けれど、早河さんが私の友達になってくれるなら、話くらいは聞くわ」



 ……………は?



※長くなりそうなので上下に分けました。


今話もお読み頂きありがとうございます。

ご意見、ご感想等、励みになりますので宜しければお願いいたします!


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