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#テンプ、レ……?


「何で着替えたのに部屋着よりダサい格好なのよ……」


 玄関で律儀に(?)待っていた早河は、そんな不機嫌丸出しな声を漏らした。


「分かりやすくしたんだよ。ただのご近所付き合いだってな」


 ヨレヨレの無地Tシャツにスウェットの短パンと言うギリギリ外に出れるくらいの格好をした俺は、サンダルに素足を通した。


「どうする? 文句があるなら、別に俺は行かなくても良いけど」

「くっ……良いわよ別に! しょっ、瀬羽のファッションセンスになんて期待して無いし!」


 ヤケクソ気味にそう吐き捨てた早河は、ズカズカと俺を追い越して先に進んでしまう。


 ……このまま俺が一歩も動かなかったら、アイツいつ気付くかな?


「ったく。いくら幼馴染だからって、女子と出かけるんだからもうちょっとマシな格好するのが普通でしょ? 彼女持ちとか言ってもまだ三ヶ月かそこらのくせに……」

「………」

「私の方が全然付き合い長いし、そりゃ高校からは距離置きたいとは言ったけど、そこまで他人行儀にする事無いじゃん。そもそも、あんな暴言女のどこが良いわけ? まあ確かに顔は可愛いし、華奢で女の子っぽい感じはするけどさ?」

「  ………」

「む、胸なら私の方が大きいし? 自分で言うのもなんだけど、一軍? て言うの? 良い感じのグループに居るし? べ、別に私がどうこうって訳じゃ無いけど、どうせ付き合うならそういう感じの女子の方が良くない? みたいな?」

「    ………」

「てか、あの子すごい真面目ちゃんだけど、アンタらどこまで……ん?」


 あ、気づいた。


「なっ、何してんのよアンタぁぁぁっ!?」

「どうどう。悪い悪い。勝手に歩いて行ったから、放っといたらいつ気付くかと」

「ウチの事何やと思っとん!?」

「多分、幼馴染?」

「何で疑問系やねん!?」

「いや何となく」


 凄まじい勢いで駆け戻って来て怒涛のツッコミをかます早河。流石はお笑い戦闘民族KANSAIJINの血筋。俺の小ボケにここまでオーバーなリアクションが取れるとは。


「はぁ、はぁっ……な、何で、ウチにばっかそんな意地悪なんよ……」

「……悪かったって。今日は奢りで良いから、拗ねんなよ」


 俺はそう言ってポンと軽く早河の頭に手を乗せ、今度こそ喫茶店に向かって歩き出す。


「っっ……何よ、ホンマに」


 プイッとそっぽを向きつつも、大人しく後ろに着いて来る早河。こういう所は昔から変わらない。拗ねたり泣いたりしても、少し餌をやれば何だかんだで最後は大人しく言うことを聞く。扱いやすくて大変結構な事だ。


 そうして、散歩とも言えない距離をものの数分も歩くと、目当ての喫茶店に辿り着く。

 二階より上がマンションになっている、やや古びたビルの一階。色褪せた看板や、窓から見える年老いたマスターが歴史を感じさせる物の、内装は数年前にリフォームしたばかりで小綺麗だ。

 住宅街にあるからか、子連れやラフな格好のお年寄りが主な客層で、俺みたいな気の抜けた服装の学生でも気軽に入れる。


「こんちわ」

「ん? おお、翔兎くんか。久しぶりだね。少し背が伸びたかな? そっちは、また新しい彼女かい?」


 歳の割に背筋がピンと伸びた白髪のマスターは、俺の顔を見ると人好きのする笑みを浮かべた。口にしてる内容は人聞き悪いことこの上無いが……。


「また……? え、何? もしかして、あの暴言女以外にも弄んでる女がっ!?」

「からかわれてんだよ……主にお前が。マスターも、こいつにブラックジョークが通じるようなコミュ力無いの知ってるだろ。勘弁してくれ」

「ハッハッハッ! すまんすまん。遥ちゃんも久しぶりだね。随分と派手な格好してるけど、人見知りは相変わらずかい? そんなんじゃ、高校デビュー失敗するぞい?」

「っっ!? よ、余計なお世話だし!」


 愉快そうに声を上げて笑ったマスターは、手振りで俺たちを空いているテーブル席へ案内して、冷たいおしぼりを持って来た。


「それにしても、男子三日会わざれば何とやらとは言うが、翔兎君も変わったね」

「そうか? 背は確かに多少伸びたけど、殆ど変わって無いでしょ。それこそ、早河に比べたら。てか、マスター良く分かったな? こいつ、化粧でもう殆ど別人なのに」


 遠い過去を懐かしむように目を細めたマスターに、俺は首を傾げる。

 久しぶりとは言っても、中学の頃は割と頻繁に来ていたので、せいぜい数ヶ月ぶりだ。誰かさんみたいに全力で高校デビューした訳でも無いので、地味な男子と言う印象はそのままだと思うんだが。


「ちょっと? “化粧で”ってのが余計なんだけど?」

「ふふっ。相変わらず仲が良さそうで安心したよ」

「そうでも無いんすけどね」

「っ……ふんっ!」

「思春期なんてそんなもんさ。今ままで名前で呼び合ってたのが、急に周りの目を気にして苗字呼びしてみたりね。私の若い頃も……っと。年寄りの長話が始まる所だった。すまんすまん」

「別に良いよ。俺が一人で来てた頃は、散々構って貰ったし」

「ほう……」


 俺の言葉に何を思ったのか、マスターは深く長い息を吐いて、コクコクと一人で納得したように頷いた。


「……本当に変わったね。ああ、見た目の話じゃないよ? 内面がね。元々落ち着いている子だったが、あの頃と違って今は余裕と活力を感じる」

「ええ〜? ホント? 前よりお喋りになってキモくなっただけっしょ。服もダサいし」

「台無しかよ。あと服装根に持ちすぎだろ」


 マスターが醸し出した良い感じの雰囲気をぶち壊す早河に、俺はジト目を向けてツッコむ。


「実際そうじゃん。毎日毎日飽きもせず、あんな暴言女にデレデレしちゃってさ」

「はははっ。遥ちゃんの方は、格好と一緒で口調も随分と強気になったねぇ。オドオドしながら方言で話してた頃も可愛らしかったのに………ん? そう言えば、さっきからちょいちょい出て来る“暴言女”って言うのは?」


 キョトンと目を丸くするマスターに、俺は少し面倒くさく感じつつも説明する。


「こいつが勝手にそう呼んでるだけで、実際は素直で良い子ですよ。少し正直過ぎるだけで。ああ因みに、一応俺の彼女です」

「んん? 遥ちゃんがかい?」

「いやいや、その暴言女こと、同級生の姫宮って子が」


 首を傾げたマスターに、分かりやすく手を横に振って訂正する。


「………マジかよ」

「いや若いなリアクション」

「マジなのよ! ほんっと趣味悪い!」


 あんぐりと口を開けて若者言葉で愕然と驚きを露わにしたマスターに俺がツッコみ、早河は何故か涙目でヤケクソ気味に吠えた。仕事しろよKANSAIJIN。


「そ、そうか!? 余裕と活力……つまり、翔兎君。いや、翔兎さん。男に、なったんだな?」

「何となく意味は分かるけどやめてくれる? 一応ここに女子もいるんだぞ?」


 ピシャーンッ! と雷に打たれたように何かを閃いたマスターは、それまでの老獪な雰囲気が嘘のようにアホな事を言い出した。


「へ? どう言う意味?」

「このファッションビッチが。そんな格好して突発性ピュアガール発症してんじゃねぇよ」

「何でいきなりそんな悪口言うん!?」


 アホな顔して首を傾げる早河にイラッとして、俺は強めの言葉でツッコんだ。


「あのなぁマスター、勘違いしてるみたいだが俺と姫宮は別に……」

「酷い風評被害ですね。瀬羽君は知りませんが、私はまだ清い体のままです」

「そうそう。俺はともかく姫宮は……って、ぅえ?」


 唐突に、ひどく聞き覚えのある声で挟まれた抗議。


 流れで同意してしまったが、落ち着くとそのあまりの違和感に思わず間抜けな声が漏れる。


「は? ひ、姫宮ぁぁぁっ!?」


 驚愕する早河の大声で、ようやく俺もこの現実を理解し……いや全然理解出来ないけど? え、何が起きてんのナウ?


「こんにちは。早河さん。他のお客さんに迷惑だから、声のボリュームをもう少し落とした方が良いわよ」


 涼しい顔で挨拶をした此処に居る筈のない彼女の姿に、俺は思わずあんぐりと口を開けて絶句した。


「おまっ!? 何っで……??」

「あら、ちゃんと言ったでしょ? 楽しみにしてるって」

「え? いや、えぇ……?」


 さも当然と言わんばかりの顔をする姫宮の様子に、ますます俺は混乱する。

 確かにメッセージのやり取りはしたが、合流するとは一言も聞いていないような……。


「取り敢えず、コーヒーとチーズケーキを頂けますか?」


 さらりと髪を手で払いながら、ごく自然にマスターへ注文する彼女のあまりに堂々とした姿に、今度こそ俺たちは開いた口が塞がらなかった。



今話もお読み頂きありがとうございます!

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