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地味令嬢の工房を潰した王国の末路~国宝級錬金術師とは知らずに追放ですか? はい、明日から美容液もポーションもライフライン全部製造中止ですね~

作者: リーシャ

 アカデミーの卒業パーティー。そこでアーリアンナは完璧なほどの絵に描いたような、断罪ごっこのヒロインを演じさせられていた。


「アーリアンナ! お前のような地味で華のない女は、我が国の王妃にふさわしくない!」


 叫ぶのは婚約者である第一王子エグハード。腕には異母妹コルリスがこれ見よがしに抱きついている。コルリスは燃えるような赤い髪と扇情的なドレスで、今夜のパーティーの悪目立ちする花だ。


「そうよ、お姉様! 王子様の隣には輝く存在……私こそふさわしいの! お姉様はネズミ色のドレスみたいに、いつも隅っこで薬草くさいフラスコばかりいじってて……地味な!」


(薬草いじり、ね……)


 内心で冷笑した。工房でいじっているフラスコの中身が国の経済と軍事を支えているなど、愚かな二人は夢にも思っていない。スキルは神錬金術。

 国で流通する騎士団が使用するSランク万能ポーション。コルリスや王妃が愛用する永久美肌の美容液。 王城の冬を支える半永久魔力暖炉。

 全てを謎の天才錬金術師AAという偽名で、匿名で王家御用達の商会に卸していたのだ。


「エグハード様! この地味姉を追放して! 私を婚約者に!」


「うむ! コルリスこそ、我が国の太陽だ! アーリアンナ、貴様との婚約を破棄しお前を王都から追放する!」


 父である公爵もコルリスの美貌に完全に魅了されており、冷たい目で見ている。


「アーリアンナ……王家への不敬、一族の恥だ。アルベルト公爵家からもお前を勘当する」


(ああ、助かる。これでやっとあの面倒な卸し先との契約を切れるわ)


 感情の読めない地味な笑顔を貼り付けたまま、完璧なカーテシーをした。花道が目の前に見える。


「──御意のままに。皆様、どうぞお幸せに」


 その場で婚約指輪(安物)を床に捨て、たった一つの見た目は地味なトランク、中身は無限収納だけを持って王都を去った。


 アーリアンナが追放されてからわずか三日後。王国は確実に崩壊を始めた。


 崩壊一日目、美容。


「いやあああっ! なんなのこれ! 私の顔が!」


 コルリスの絶叫が王城に響いた。毎日使っていた永久美肌の美容液が、今朝からプツリと届かなくなったのだ。

 薬が切れた肌には、隠されていたシミやソバカスが浮き出て、見るも無惨な状態になっていた。王妃も同様。


 崩壊二日目、軍事。


「陛下! ポーションが! 騎士団のポーションが届きません!」


 騎士団長が血相を変えて駆け込んできた。


「魔物討伐で負傷した騎士たちが、回復できずに苦しんでいます! 商会に問い合わせてもAA様からの納品が停止したの一点張りで!」


 崩壊三日目、経済とインフラ。


 季節は冬。王都全域の魔力暖炉が一斉に停止した。


「寒い! 寒いぞ! なぜ暖炉がつかん!」


 王都の物流、照明、全てがAAの供給する魔力結晶で動いていたことがここで初めて発覚した。


「探せ! 天才錬金術師AAを何としてでも探し出せ!!」


 王子は凍える玉座でガチガチと震えながら叫んだ。彼らは突き止めた。AAの正体が王都の片隅の工房でいつも地味な作業服を着ていた、追放したアーリアンナ本人であったことを。


「ば、馬鹿な……! あの地味なアーリアンナがAAだと!?コルリス! お前のせいだ! お前があの女を追い出さなければ!」


 肌が荒れ果て醜く老けたコルリスを蹴飛ばし、エグハードは慌ててアーリアンナの行方を追わせた……だが、全てが手遅れ。



 その頃、アーリアンナは隣国、シュシーンハイト帝国の玉座のある部屋にいたからだ。もう手が届かない。


「アーリアンナ殿。よくぞ来てくれた。貴女のような才能を我が国は国賓として、いや、俺の妃として迎えたい」


 目の前にいるのは帝国を史上最強に導いた若き賢帝、ジュリアス。アーリアンナの才能と、地味だが実直な人柄にとっくの昔から気づいていたのだ。そこへみすぼらしい使者、エグハード王子一行がやってきた。


「アーリアンナ! 戻ってこい! お前を許す! だからポーションを! 美容液を!」


 エグハードはまだ王子の自分が優位だと勘違いしている。アーリアンナは賢帝ジュリアスの隣で、完璧に仕上げた永久美肌の美容液で輝く肌のまま見下した目で冷ややかに告げた。


「お断りいたします、エグハード元殿下。ポーションと美容液は全て帝国のために使われます。ああ、それと私が開発した魔力爆弾も帝国の軍備に加わりました。貴国との国境に昨日、配備が完了しました」


「ま、魔力爆弾……だと……!?」


 エグハードはその場にへたり込んだ。もう、どうにもならないとわかったのだろう。


 ──その後。


 ローゼリア王国はアーリアンナという最強の心臓を失い、急速に衰退した。コルリスは美貌を失い、エグハードに捨てられスラム街で「昔は美しかった」と過去を語るだけの老婆になる。

 エグハードは地味な女一人に国を傾けさせられた愚鈍王子として廃嫡され、凍える北の修道院に幽閉された。


 一方、アーリアンナは。帝国で錬金の聖女と呼ばれ、賢帝ジュリアスと結ばれた。開発する魔道具で帝国は空前の繁栄を迎え、地味ではなく最も知的で美しい皇妃として末永く幸せに暮らしたという。


 地味で結構。私は私の価値を分かってくれる場所で幸せになります……ああ、そういえばローゼリア王国? 寒すぎて、もうすぐ滅亡するみたいですわね。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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玉座というのは天子や皇帝の座る椅子または、その地位を比喩的に指すもので場所ではありません。 文章から考えると『玉座の間』とかでしょうか?
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