心配性で何が悪い!〜超ネガティブ&自己肯定感ゼロ女子が異世界で重宝される話〜
「今日も疲れた……でも明日も残業かな。電車遅延したらどうしよう。あ、でも今日雨降るって言ってたっけ?傘忘れてない?あ、持ってた。でも壊れるかも……」
私、雨井憂子は今日も一人で心配事を呟きながら終電に揺られていた。27歳、独身、趣味は心配すること。いや、趣味じゃないけど、気がつくと何でも心配している。
電車が急ブレーキをかけた瞬間、意識が飛んだ。
「おめでとうございます!異世界転移者の憂子様!」
目を開けると、やたら明るい笑顔の女性が手を振っていた。周りは石造りの建物で、中世ヨーロッパみたいな感じ。
「え、えーっと……これ夢じゃないですよね?夢だったら恥ずかしいし、でも夢じゃなかったら帰れないし、どうしよう……」
「ご安心ください!ここは異世界転移者歓迎センターです!新しい人生の始まりですよ!」
受付の女性はキラキラした目で説明してくれたけど、私はもう不安で仕方がない。
「でも、私なんかが異世界に来ちゃって大丈夫なんですか?迷惑じゃないですか?それに、家族に心配かけちゃうし、会社にも連絡しないと……でも異世界からどうやって連絡を……」
「憂子様、まずは魔法適性検査を受けてみましょう!」
「ま、魔法?!でも私、運動神経悪いし、失敗したらどうなるんですか?痛いですか?死にますか?周りに迷惑かけませんか?」
受付の女性は困った顔をした。
「そんなこと……考えたことないですね」
検査室に通されると、水晶玉のようなものがあった。
「手を置いて、何か思い浮かべてください」
「何かって……でも変なこと考えちゃったらどうしよう。恥ずかしい思い出とか出てきたら……あ、でも何も浮かばなかったら能力ないってことですよね。やっぱり私なんかには無理ですよね……」
手を置いた瞬間、水晶玉が光った。
「す、すごい!」
検査官が目を丸くしている。
「何がすごいんですか?やっぱり失敗しましたか?ごめんなさい、私のせいで……死んでお詫びを、いや、死体の処理費用と埋葬費用でさらにご迷惑になってしまう……土に還るのも時間がかかる上に環境汚染になりそうだし……」
「い、いえ、とんでもございません!憂子様は『危険予知』『リスク分析』『慎重判断』のスキルをお持ちです!この世界では非常に珍しい能力です!おめでとうございます!」
「え?でも私、ただの心配性なだけで……石橋を叩いて自分が今叩いたことで壊れたかもって思うと結局渡れないような……ああ、本当に情けなくてごめんなさい」
「素晴らしい!そこまで慎重に考えられるなんて!あなたなら最高の冒険者になれるはずです!」
翌日、ほぼ無理矢理ギルドに登録することになった。冒険者なんて私には無理だ。でも、大量に押し寄せてきたギルド関係者たちを私ごときが断れるはずがない。
「ここがギルドです!」案内してくれたのは、やたら前向きそうな青年だった。「僕、勇者のアキラです!一緒に冒険しませんか!」
「で、でも私、足手まといになっちゃいます……戦えないし、魔法も使えないし……もうほんと、いざという時の非常食ぐらいにしか……ごめんなさい、私みたいなのを食べるくらいなら飢え死にした方がましですよね……使えなくてすみません……」
「え……あ、いや、だ、大丈夫です!僕たちがいますから!」
パーティーメンバーを紹介された。僧侶のユカリさんと魔法使いのタクヤくん。みんなやたら前向きで明るい。ここの人間は皆そうなのだろうか。
「今日はゴブリン退治です!楽勝楽勝!」アキラくんがぶんぶん剣を振る。
「で、でも……ゴブリンって群れで行動するって聞いたことが……複数いたらどうします?それに、逃げ道は確保してますか?怪我したときの応急処置道具は?……すみません、私ごときが皆さまに意見するなんて……土下座でも切腹でも……あ、でも血で汚してしまうと掃除のお手間を……この体に血が通っててごめんなさい……」
「そんなの考えすぎだよ、だいじょーぶ!それにしても憂子ちゃんって面白いね」ユカリさんはなぜかくすくす笑っていた。
森に向かう途中、アキラくんが「ショートカットしましょう!」と古い吊り橋を指差した。
「ちょっと待ってください!その橋、ロープがほつれてません?木材も朽ちてそうです。重量制限とかありますよね?みんなで渡ったら……あ、すみません……また余計なことを……」
「おう、姉ちゃん、よく分かったな」
通りかかった村人が話しかけてきた。
「その橋、先週商人が渡ろうとしてまた崩れ落ちたんだとよ。あれで9回目くらいじゃないかね。まあ、死人はそのうちの半分くらいだしきっと大丈夫だろうよ!」
ははは、と笑って去っていったそのおじさんの話を聞いて、さすがのみんなも青ざめていた。
「憂子ちゃんのおかげで助かった……」
「でも、遠回りにすることになって……ごめんなさい。皆さんを疲れさせてしまいました……」
「何言ってるんだ!君がいなかったら僕たちは死んでいたよ!」
ゴブリンの巣穴に着くと、アキラくんが「突っ込むぞ!」と意気込んでいる。
「ちょっと待ってください! 入り口は一つですけど、他に出口はありますか? 中の構造はどうなってるんでしょう? 罠があったらどうします? 逃げ場がなかったら……」
「憂子ちゃん、心配しすぎー!」
「で、でも……もし私たちが全滅したら、誰も街に知らせに帰れませんよね?それに、ゴブリンが逆襲してきたら街の人たちが危険だし……」
結局、私の提案で慎重に偵察してから作戦を立てることになった。案の定、巣穴には複数の出入り口があって、罠も仕掛けられていた。
「すごいな、憂子は。そんなことまで考えられるなんて」タクヤくんが感心してくれた。
「でも、考えすぎた結果行動が遅くなって……私がいない方がスムーズだったのでは……」
「そんなことない!」みんなが口を揃えて言ってくれた。
無事にゴブリンを退治して街に戻ると、私の噂が広がっていた。
「あの子、『慎重の天才』らしいよ」
「危険を事前に察知するんだって」
私は居心地が悪かった。みんなに注目されるなんて、迷惑をかけてるんじゃないだろうか。噂が独り歩きしていたらどうしよう……。
数日後、ギルドマスターに呼ばれた。
「憂子さん、君のような人材を待っていました」
「で、でも私、何も特別じゃないんです。噂で誇張されただけで、ただの心配性で……」
「それが素晴らしいんです!この街の人々は楽観的すぎるところがあって。君のような慎重さが必要だったんです。ぜひ我々の力になってもらいたい!」
その日から、街の人々が私に安全対策の相談をしに来るようになった。
「新しい橋の設計、問題ないでしょうか?」
「この薬草の保存方法、リスクはありませんか?」
私は一生懸命考えて答えた。でも、いつも最後に「でも私の判断が間違ってたらごめんなさい」と付け加えずにはいられなかった。
ある日、街に魔物の大群が押し寄せてきた。
「大丈夫!きっと何とかなる!」街の人々は相変わらず楽観的だった。
でも私は違った。
「やっぱり最悪の事態になった……でも、想定はしてたから」
私は事前に考えていた避難ルートや備蓄場所、防御ポイントを住民に指示した。
「でも……私の判断が間違ってたらどうしよう……みんなを危険にさらしちゃう……」
そんな不安を抱きながらも、必死に指揮を取った。
魔物が去った後、街の被害は最小限に抑えられていた。
「憂子のおかげだ!」
「君がいなければ、街は全滅していた」
みんなが口々に感謝してくれる。でも私は……。
「でも……もっと早く気づいてれば、もっと準備できてたのに……私なんかのせいで被害が出て。本当に申し訳なくて、どうお詫びしたら……消えてなくなりたいです……でも消える技術も持ってないし、中途半端に透明になって余計怖がらせちゃいそうで……」
その時、ギルドマスターが私の肩に手を置いた。
「憂子さん、君の『心配する力』は、この街の宝です」
「え……?」
「君はいつも『もしも』を考える。それは素晴らしいことです。楽観的なのも良いけれど、慎重さがなければ人は生きていけない」
アキラくんも頷いた。「憂子がいなかったら、僕たちはとっくに死んでたよ。足を引っ張るどころか、命の恩人だ」
ユカリさんとタクヤくんも「そうそう!」と同意してくれる。
街の人々も温かい笑顔で見つめてくれている。
「心配性で……慎重すぎるのも……悪いことじゃないのかな」
私は生まれて初めて、自分のことを少しだけ認められたような気がした。
「でも、やっぱり明日も何か起きそうで不安だけど……」
そうつぶやく私を、みんなが優しく見守ってくれていた。
石橋を叩いて渡れない私でも、誰かの役に立てるんだ。心配性で何が悪い。私は私のままでいいんだ。
そう思えた瞬間、この異世界が少しだけ明るく見えた。あ、でも明日の天気が心配だな.…..雨降るかな...…傘、どこで買えるんだろう...…。
「憂子〜、また心配してる!」
みんなの笑い声に包まれて、私は小さく微笑んだ。心配性な自分を、初めて嫌いじゃないと思えた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
面白かったら☆評価してくださると、作者が喜びの舞いを踊ります。
ネガティブになったり、自分に自信が持てなくなったり……。
そんな時にこの物語を読んで、少しでも元気になってくれる人がいたら嬉しいです!
読者の皆様、本当にありがとうございました!!!!!!