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その夜は、大人たちがバタバタと動き回り、子供たちは早々に部屋に押し込まれてしまった。
ゾーイ婆からも『ただでさえ忙しいんだから、アンタたちまで出てきて余計な手間かけさせるんじゃ無いよ』とまで言われてしまえば、部屋に閉じこもっているしか出来なかった。
それでも一番年嵩のジンは色々聞かされたらしく、エルたちにも今の状況を教えてくれた。
二段ベッドの上段の柵から二本の足をぶらぶらさせながらジンが喋り出した。
「ケリー先生はなぁ…教義を破ったっていうんで、もう棺に納められて、釘留めまで終わっちまったって」
「釘留め?」
「普通の葬式だと、最後にみんなで棺に花入れたり、お別れしたりするじゃんか。だけどフォード様が一番怒るのが自分の命を粗末にする事だからって、そういった普通のお葬式はさせられないんだってさ。だから釘留めしてもう外界と遮断するんだって」
「何それ!」
それを聞いたヘナが憤った様に座っていたベッドから立ち上がって、その上に座る兄に食ってかかった。
「そうは言っても、ここは教会からの援助で運営されてんだから、教会の言う通りにするしかねえだろう。
そんだし、ケリー先生だって出家して修道女としてここに来てたんだから、教会の人なわけだし」
「そんなの分かってるわよ!だけどそれにしたってそんな扱いったら無いわ!」
大人ともよく話をするジンの道理と、まだ子供の域を出ないヘナの感情論とが段々、兄妹喧嘩の様になり始めた二人の会話にエルが口を挟む。
「私たちケリー先生にさよならも言えないの?」
肩を落とし、自分のベッドに力なく座ったまま二人を見上げるエルにジンはバツが悪そうに答えた。
「そう言うことになる…かな…しかも明日農場脇の空き地で燃やすって木材を手配してた」
「明日!?燃やす!?」
またしてもヘナが素っ頓狂な声を上げた。
この国では亡くなった人は棺に入れられ葬式の後、土葬されるのが一般的だ。
火葬されると言うのは伝染病で亡くなった者がやむを得なくか、極悪人、教義に逆らった者など、聞いた人に『何故?』と死因を詮索されてしまう埋葬方法だ。
「先生、燃やされちゃうの?」
更にへにょりと眉を下げたエルに泣き出してしまうのではないかとジンは慌てた。
「エル…」
「だって絶対先生自殺じゃ無いのに…」
エルの呟きにどうやって慰めようかと思案していたジンが眉を顰めた。
「エル…それは…」
「だって、ケリー先生、院長先生と喧嘩してた」
「えっ!」
「応接室で喧嘩してた」
ヘナとジンが顔を見合わせる。
「なんて喧嘩してたんだ?」
「わかんない!先生たちが怖かったから何言ってたかあんまり覚えてなくて。でも多すぎるとか何とか…ケリー先生がそう言ったら院長先生が今まで大丈夫だったって怒って…」
いつの間にかベッドから降りていたジンと一緒に、ヘナも詰める様に近寄って来るのでエルは怯えた。
やっぱりエルは言ってはいけない事を言ってしまったのかもしれない。
そんなエルの様子に我に返った二人は宥める様にエルに問いかける。
「ごめん…ごめん。エルに怒ってるんじゃないんだ。そんな事知らなかったからさ、俺らだってびっくりしたんだよ。だってさ、院長と先生が二人、そういう風に話している所を見た事ないから驚いただけなんだ。だけど…それって一体どういう事なんだ?」
年嵩であるとは言え、まだ子供部屋の住人であるジンにも分からない事や知らされてない事情も多い。
頭を捻る事暫くして、ジンが諦めた様に言った。
「と…とりあえずだ!これは俺たちには手が余る事だ。俺がドーンさんあたりに相談するから!だからお前たちは心配すんな。
な?エルは明日も街に出るんだろ?早く休んで明日に備えた方がいい。とりあえず寝よう。ほらエル、お前歯を磨いたのか?」
ジンはモゾモゾと動き出したエルを寝巻きに着替えさせ、流しに向かわせた。
部屋の外に向かったエルの後ろ姿をそっと確認したジンはヘナに向き返った。
「ヘナ、兄ちゃんが動くから、お前は何にもすんなよ」
「え!だって!」
たった一つ違いの兄の横暴にヘナは怒鳴り出しそうになった。だが、シッと人差し指を口の前に立ててエルを伺う、真剣な兄の様子に気付いて二の句を継げずにいると、ジンが更に声を落として諭す様に続けて言う。
「ヘナ、何か分かったらちゃんと教えるから。だから今は黙ってろ。な?
もしかして…もしかしたらだけど…そのもしかだとしたらこれはマジでヤバいのは分かるだろ?そんでまずその中でも一番ヤバいのはエルなんだ」
院長と先生、二人の喧嘩の目撃者はエルしかいないのだ。
社会の最下層で這いずる様に生きてきた、ジンの危機察知能力が警報を鳴らしている気がしてならない。
ハッと気付いたかの様なヘナの肩に手を置いて、落ち着かせるかの様にヘナにジンは約束した。
「な?俺とお前でエルを守んなきゃいけねえんだ。だからなんか分かったらちゃんと教えるから。だから少し静かに待ってろ」
ヘナは何とか唾を呑み込むと、兄の目を見てそっと頷いた。




