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小さなお家が何故か増えた。
ある日、ドニたちがドヤドヤと材料を運び込んできたと思っていると、とんたんこんと工事が始まり、数日かけて兄たちの小さなお家を作り始めた。
フェリーチェはこうやって自分の小さなお家も出来たのかと思うと興味津々で作業を見守った。
ジュリ先生に授業内容を変更して工事見学をお願いした事もあった。
だって今日は屋根を作ると聞いたら、どうやって屋根を乗せるのかが気になって仕方がなかったのだ。
フェリーチェは下で矢印の様な形の屋根の作って上に被せるのかと考えていたが、全く違っていたのでそれはそれでとても勉強になった。本物の家造りとは積み木とは違う物だったと知れたのだ。
今度フェリーチェも家を作ってみたいと言うと、ドニはガハハと笑って、まずはこれを振り回せないとと金槌を貸してくれた。軽々と渡してくれたドニの手から金槌を受け取ると腕が引っこ抜けるかと思うくらいの重さでフェリーチェは驚いた。どうやらフェリーチェでは大工にはなれなそうな事も知った。
自分たちのお家を持った兄たちは折々この場所に訪れる様になり、ドニたちと作るフェリーチェの花壇作りを手伝ってくれたり、反対にシリウスに為に森から落ち葉を何袋も集める手伝いもした。
「シル兄様、この葉っぱこんなにいっぱいどうするの?」
森の中で先を歩いていたシリウスがフェリーチェを振り返った。
「これは堆肥場を作ってみたいんだよ…って!また!フェリはちゃんと手袋しなくっちゃダメだろう!手が荒れちゃったらどうするんだ」
慌ててフェリーチェの近くに戻ってきたシリウスはフェリーチェの両手に手袋を嵌めさせた。
「堆肥場ってね、冬でも発酵のお陰であったかいから虫が卵産みやすいらしいんだ。僕はその実際を見たいし、どのくらいの規模なら卵産みやすいのかも知りたいから実験してみようと思ってね」
「発酵…そう言えば養護院のゴミ捨て場も冬は湯気が出てた!それが発酵?」
「そうきっとそれだね。
それにしてもフェリーチェは虫は怖く無いんだね」
「だって養護院には虫いっぱいいたもの」
シリウスはまたフェリーチェの先を進みながら納得した。
「なるほど。そうかそれでか。学園の女子なんかぎゃーぎゃーうるさいんだ、虫の話すると。
気持ち悪いとかさ。別にそう思うのは勝手だけど、趣味は何ですかって言うから答えたのにそれは無いよね。
そんな事を言うなら、僕だってその香水の匂い気持ち悪いって言いたいよ」
「香水?気持ち悪いの?」
「母様とかフェリみたいにほのかに香るくらいだったら、僕だって良い匂いだなって思うよ?でも学園とかパーティで会う女子ってさあ、本当に鼻が曲がるくらい臭いんだ」
シリウスが胸を押さえて、げーと吐くフリをして顔を顰める。
「そんな話も顔も、学園ではすんなよシリウス」
突然違う声が割り込んできたかと思うと、シリウスの肩に手を回しながらマークが現れた。
「わ!マーク兄様!」
「もう!急に音も無く現れたらびっくりするじゃないか!
それに女子にブツブツ嫌味言われたくないから僕だって学園じゃあ余計な事言わず黙ってるよ」
「あはは、俺は武芸の稽古に来てるからな。お喋りな二人にそっと近付くなんてお手の物さ」
得意げに笑うマークの腹に、シリウスがパンチをお見舞いするが、すぐさま反撃されたシリウスがくすぐり攻撃にあっていた。
「マーク兄様はここで稽古?」
笑わせられ過ぎて息も絶え絶えとなったシリウスをポイと地面に投げ捨てたマークはフェリーチェに笑い掛けた。
「そうだよ。こうやって足場の悪い所で走ったり訓練したりすると脚力とか胆力が付くって言われてるんだ。ほらちょうど良い場所だろ?」
フェリーチェは前後左右上下まで見渡して、確かに密集し過ぎていない木々の間には、剣を振れるであろうスペースもある事に気づいた。
「確かに訓練しやすそう…私も兄様と一緒に訓練しようかな」
「ダメダメ!フェリは女の子なんだから!万が一怪我なんてしちゃったら大変じゃないか!」
急に肩を落としてフェリーチェに走り寄る様子は、どこかソニーを思い出させた。
「でも、運動は体に良いってジュリ先生も…」
「運動ならね、運動なら良いけど、武芸は剣とか使うし絶対ダメ。危ないからダメ!」
「でも、何かあった時に剣とか使えたら…」
ふと、先日読んだ本にあった女剣術師の物語が格好良かった事を思い出したフェリーチェがそう言い切る前に、マークが遮った。
「絶対ダメ!なんかあったら俺がフェリを守る!フェリが気がつく前にはもう俺が敵をやっつけてるくらいに俺は強くなる!だからフェリは危ないことしないでお願い」
最後は懇願になってしまったマークに気押されてフェリーチェは頷いた。
「あれ、声が聞こえたから来てみれば、全員揃ってるんだ」
地面に座り込んだままだったシリウスを助け立たせながら、セドリックが現れた。
「セド兄様!」
「なんかさあ、ちょっと見ない間に家が増えててびっくりなんだけど」
親指で森の外を指差しながらセドリックが笑った。
「僕は虫の研究にちょうど良いから」
「あはは、母様に怒られたろ?」
「セド兄が言い付けるからだろ!」
シリウスがセドリックに体当たりをすると、セドリックは笑いながら受け止めてその脇腹をくすぐった。
アヒャヒャと笑うシリウスの声に負けない声でマークが言った。
「俺はここで鍛錬するのがいいって思ったんだ。
ちょうど良いところにセド兄来てくれたよ!ねえ、これぶら下げるの一緒に手伝ってくれない?」
マークは慌てた様に持っていた袋を漁り、中に入っていたロープの先に木片を縛りつけたものを、セドリックの目の前に掲げた。
「なにこれ?」
フェリーチェが木片を指で突くと、それは不規則にぶらぶらと揺れた。
「これは一人でも対人の練習ができるっていう訓練道具さ」
ふふんと得意げな顔でマークは答えた。




