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それからフェリーチェは時間が空くとツリーハウスや東屋に通う様になった。
ツリーハウスの本棚には、まだ少ないが本を数冊置くようになって、その大体は植物図鑑だった。
屋敷近くとは植生が違う木々や草花の観察をしたり、時々それらをスケッチして、エレンに刺繍用の下絵とする指導もして貰ったりもした。
時々エレンやジュリ先生と散歩がてら東屋まで来て、お茶会や勉強をする事もあったし、マイン先生をツリーハウスに招待した事もあった。
そんな中でも相変わらず勉強の日々は続いていたので、秘密基地に通う予定も足すと、更に忙しくなってしまうのであるが、それでもフェリーチェは充実した日々を過ごしていた。
サプライズのあの後日、ソニーにお願いして庭師頭のドニも会わせてもらい、素敵なお家をありがとうとフェリーチェは礼を言った。
スカートを両手で握りしめ、一生懸命に大柄のドニを見上げて心の底からの礼を告げたフェリーチェに、被っていた麦わら帽子を引っさらい手元で引き絞りながら、禿げ上がった頭まで真っ赤になったドニは、もじもじと『とんでもねえ事です』と一言答えるだけで精一杯であった。
それからしばらくその様子を揶揄い、本気で怒ったドニにぶっ飛ばされる弟子が多数いたらしい。
フェリーチェはお礼のついでに、ツリーハウスも周りに花壇を作りたいとドニに相談もした。
養護院の様にブルーデイジーをたくさん植えたかったのだ。
頭を下げるフェリーチェに、ドニは任せておけと分厚い胸を叩いて快諾してくれた。
もちろんフェリーチェは両親にもサプライズの日の夜に感謝を伝えた。
「お…父様、お…母様。素敵なプレゼントありがとうございました。
それに、今までちゃんとお礼を言っていなくてごめんなさい。本とか、刺繍道具とかその他にもいっぱい色々してくださってありがとうございます。私、本当に嬉しかったです」
少しもじもじしてしまったが、ちゃんと思っている事を伝える事が出来た。
ツリーハウスでリリとマークが言っていた言葉がフェリーチェの背を押してくれたのだ。
少しぎこちなくなってしまったが、何とか感謝を込めた笑顔も添えた。
大金持ちであろう両親に返せるものはフェリーチェには何もない。
おずおずと二人に近づくとぎゅっと抱きついた。
すると二人が一瞬ビクッとしたので、反射的にフェリーチェは離れようとした。
ああ、抱きつくなんて図々しくし過ぎちゃった!
私ったらなんて失礼な事を!
どうすれば感謝の気持ちが一番伝わるのか、フェリーチェなりに考え抜いての行動であったが強く後悔した。
失敗した恥ずかしさのあまりに顔がどんどん赤くなっていく。
「ごめんなさ…」
謝ろうとした瞬間、重なるように二人分の腕が逃げようとしたフェリーチェを抱え込んだ。
「フェリーチェ…」
震える母の小さな声が聞こえた。
「ああ!フェリーチェ!」
涙の混じった様な大きな父の声がする。
「お父様…お母様…」
フェリーチェの呼びかけにとうとうソニーが本格的に泣き出した様で、嗚咽と細かな振動が伝わってきた。
「ええ、ええ、そうですよ。貴女のお父様とお母様よ。
わたくしたちの可愛いフェリーチェ…お帰りなさい…お帰りなさい…」
エレンの震える吐息がフェリーチェの頭に近づいたかと思うと、そのまま何度もキスを落とした。
この屋敷の前で再会した時、その後も近づいた時に何度も嗅いだ、甘くて懐かしい様な香りが強くする。
二人の腕の中は、養護院で寂しくなった夜にフェリーチェが両親について何度か夢想した以上の暖かさがあり、一度も想像すらした事も無いくらいの安心感があった。
これが私のお父さんとお母さん…家族。
フェリーチェはくたりと力を抜いて、二人に全てを委ねてみた。
二人は更にきつく力強く抱きしめてくれたのだった。




