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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
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50

「ここはさ、フェリのもう一つの部屋として使うと良いよ。秘密基地とか隠れ家みたいな感じ?」

マークの不思議な言葉をフェリーチェはつい繰り返す。

「秘密基地?」

「そうそう、秘密基地!自分の部屋なんだけど、母屋にある自分の部屋と違って…うーん、なんて言うのかなぁ…よりプライベートっていうか、公然なんだけど内緒の場所って言うか…もうどっぷり自分の趣味にしていい自分だけの空間って言うか。そう言う感じが秘密基地さ!な?ロマンを感じるだろう?」

「ロマン…ですか」

うっとりと語る兄の話に置いて行かれ気味のフェリーチェだが、なんとか追いつこうと頑張ってみる。


「ここは母屋までなかなか距離があるだろう?だからあそこのまだ空っぽの棚はフェリがここで必要な物を置いておく棚なんだって。例えば趣味の物とか揃えていって、あっちの棚には本とかかな。

えっと実は僕も…コッソリ昼寝用の毛布を運ばせてもらったんだ」

イタズラがバレた子供の様に、マークは小さく舌を出した。

「って言うことは、マーク兄様もここに遊びにきてくれるの?」

「私物まで持ち込んだ後にこう言うのも何だけど…ここはフェリのお家だから、フェリが良いよって言ってくれるなら…」

「もちろんだわ!こんな素敵なお家を一人で使うなんて勿体無いもの!じゃあこれからは二人の秘密基地ね!」


 そこでコンコンとドアが鳴った。

フェリーチェがはあいと返事をすると、ドアが開いてミミがワクワクを隠しきれない表情で入室してきた。

「おやつをお持ちいたしましたよ…あらまあ!マーク坊っちゃままで!」

見つかってはははとこめかみを掻くマークの横から、フェリーチェはミミに駆け寄った。


「もう!ミミもここの事知ってたのね!」

持ってきたバスケットとポットをテーブルに置きながら、ミミがもう我慢できないといった風に吹き出した。

「ふふふ、皆がそれはもうフェリーチェ様がいつお庭にお出になられるか、いつここにお気づきになられるかと首を長くしていたものですよ。きっと今頃、屋敷中の皆がフェリーチェ様がここにお気づきになられた事を知っているでしょうね。

それにここの可愛らしいカーテンも、ここと東屋のクッションも全て奥様がお選びになられたのですよ。それはそれはもう本当に楽しそうに。

ですから今度はここでの必要なもののお買い物に、ぜひ奥様とお出かけになって差し上げてくださいな。きっとお喜びになられますよ」


 ミミにそう言われ、改めてフェリーチェは部屋の小物に目をやった。

可愛いレースの縁取りのカーテンに、優しい色合いのたくさんのクッション。毛足の長いラグまで敷いてある。これをエレンが選んで揃えてくれたのか。

「でも、買い物行ったらたくさんお金使うのに、それなのにお、か…さま喜ぶの?」


 ミミはポットから湯気の立つミルクティーをカップに注ぎながらにっこりと笑って言った。

「ええ、そうですよ。大事な方に何かを与える事は幸せな事なのです。それを見て幸せそうに笑ってくれるだけでそれだけで与えた側も幸せになりますし、きっとその笑顔だけで逆に何かを貰うのでしょうね」

「確かにそうだね。うちは幸いお金がたくさんあるから、こうやってツリーハウスだとか買い物だとか、お金を使う事で愛情を表す事がちょっと目立っちゃうかもしれないけど、例えうちが貧乏だったとしても、うちの両親だったら違う形で与える愛情表現をしてくれたと思うよ。

たくさんハグするだとか、しょっちゅう愛してるって言ってくれるとか。そういうのだったらお金かかんないしねえ」

二人のそんな話を聞いてフェリーチェは呟いた。

「幸せ…笑顔…ハグ…」


 ミミはうんうんと頷きながら、準備のできたテーブルにフェリーチェを誘いながら、ミルクティーとクッキーの山を得意げに指し示して言った。

「ええ、正しく坊っちゃまの仰る通りですわ!

このおやつだって私たち使用人のフェリーチェ様とぼっちゃま方への愛情がたっぷり籠っているのですよ。

さあさあどうぞ召し上がって下さいな」

幸い幾つかツリーハウスに食器を置いていこうと、ミミが気を利かせて余分に持ってきていた茶器によって、マークもお茶のお相伴に与れた。


「うまい。これシモンが入れた紅茶でしょう?」

一口カップに口をつけたマークが、ほうと息を吐きながらミミに聞いた。

「さすが!ご名答にございます!フェリーチェ様がお外に出られたと報告をした途端、シモン様がポットの用意をいそいそとなさり始めまして。菓子係もフェリーチェ様がお好きなチョコチップクッキーを急いで拵えておりましたよ」


 本当に屋敷のみんながこのサプライズに興味津々だった様だ。

このクッキーはフェリーチェが好きだった、ゾーイ婆が時々作ってくれたクッキーのレシピを元に、養護院では考えられない高級品であるチョコレートや木の実を混ぜて、さらに美味しく菓子係が作り上げてくれて、初めて食べた時にはフェリーチェが震え上がるくらい感激したクッキーだ。


 ぽりりと齧るとやっぱり美味しい。

でもミミの話を聞いた後だと、なんだか更に美味しくなった気がする。

「ミミ、今日のクッキーとっても美味しいの。みんなの愛情が入っているから?」

フェリーチェに問われたミミは目をまん丸にした。

そしてポンと音が聞こえるほどの笑顔を浮かべて大きく頷いた。

「ええ、ええ、そうでございますとも!どうかミルクティーも頂いて下さいませ。こちらにも愛がたっぷりでございます」

何だか少しミミの目尻に光るものがあった様な気がしたが、フェリーチェは勧められるまま両手でカップを持ってミルクティーを飲んだ。

飲みやすい温度にまで冷めてしまっていたが、甘いクッキーにちょうど良いくらいの甘さ控えめのミルクティーはとても美味しかった。

「本当に本当に美味しい」


 両手を頭の後ろに組んだマークは、少し体を引きながら、そんな二人のやり取りを視界に収めてニコニコと笑っていた。

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