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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
5/59

5

 だんだんと祭りの準備が進んでいる様子は、仕事でたまにしか街に出ないエルにも感じ取る事ができた。

大きな通りの上に吊り下げられ飾られた、それぞれ趣向を凝らした花装飾を見る為か、顔を上げて歩く人たちが増えた様な気がする。


 今日のエルは、役場のゴードンに呼び出されて、役場前の広場で供物所の設置の手伝いに駆り出されている。

だが簡易テントを建てて、その中に頑丈で重い板を何枚も階段状になる様に並べて設置するのは、勿論エルには無理だ。

ゴードンは初めて顔を合わせて挨拶した時に、一瞬片眉を上げたが、まさかこんなに幼い子供が手伝いに現れるとは思っていなかったからだろう。

それでもエルにも出来る、木屑の掃除や釘や部品をいろんな場所へ配りに行くなどの小さい仕事を割り振ってくれた。


 「おお、段々祭壇ぽくなってきてるじゃないか」

何かの手配に席を外していたゴードンが戻ってくるなり感心した様に供物置きを眺めながら言った。

「エルはそろそろ役場にある白い布を運び出して、あそこのシートの上に纏めて置いていってくれ」

「はい。わかりました」

「ああ、それとくれぐれも無理してたくさん運ばない様にな。落として汚す方が事だから、時間がかかっても何往復でもするんだ」


 あまり役に立ってる気がしていなかったエルは、新しい仕事に少し喜んだ。そんなエルの様子を感じ取った様にゴードンは釘を刺した。

「その布はこの供物置き場の板の上に掛ける布で、供物を取りに来る神様たちの目に触れるものだから綺麗にしとかないといけないもんなんだ。だから丁寧に運ぶんだぞ。

…しかしなぁ、こうやってまた神様をお迎えする準備が出来るってのは何だか感慨深いもんだな。例年当日までにはここにバーっと花や食いもんとかいろんな品々が並ぶんだ。それはそれはなかなか壮観だぞ。

そうだ、終わるまでにお下がりを幾つかお前にも持たせてやるから、最終日は帰る前に俺に忘れずに声を掛けるんだぞ」


 確かにゾーイ婆はしこたま貰って持ち帰れとは言っていたけども、そんなに上手くはいかないであろうと思っていたエルはゴードンの言葉に驚いた。

幼い身で養護院から手伝いに来たエルに同情してくれたのだろうか。

先程までもエルに無理をさせない作業ばかり当てがうゴードンはそっけなく見えても優しい気質の様だ。


「はい、ありがとうございます!頑張って運びます!」

エルはぴょこんと頭を下げると、急いで役場の方へ走り出そうとした。

「危ないから作業中は走るな!」

ゴードンの大きな声が追いかけてきて、エルは慌ててスピードを落とす。

早足をしながら役場に入るエルの口元は自然と笑顔になってしまっていた。

作業の手伝い賃と共に、祭り当日には現物支給も確定したのだ。頬が緩むのも当たり前であった。


 エルが空回り気味の勢いで仕事を終わらせ、他の現場から戻るドーンに拾って貰い馬車で養護院に帰ると何だか院の様子がおかしかった。


「どうかしたの?」

青い顔をして廊下を小走りで移動していたヘナを捕まえてエルが聞いた。

エルの姿を認めたケリーは、エルの両肩を掴んだと思うと食いつく様に言った。


「それがね、ケリー先生が!…ケリー先生が死んじゃったの」

「え!?」

「朝から姿を見せないからどうしたのかってみんな心配してたんだけど、農場の裏側の小屋の中で首を吊ってたのよ。多分…自…殺…なんじゃないかって最初はみんな言ってたの」

「嘘!え、でも最初は…って?」

そこからヘナは左右を見渡し、廊下の隅にエルを引き摺る様に身を寄せさせると小声で言った。

「梁から先生を下ろして見てみたら、首の跡がロープの跡と合わない所があるって。私、大人たちがコソコソそう言ってるの聞いちゃった」


 エルは背筋が自然に震えるのを初めて感じた。

誰かがケリー先生を殺したかもしれないのだ。

美人で所作も美しく、優しい先生だったケリー先生を。

怖い。


「おいヘナ!お前何言ってんだ!」

エルよりずっと後ろにいたはずのドーンさんが怒鳴る様にヘナの発言を遮った。

「だ、だって、だってみんながそう言ってたし!私は先生を見せて貰えなかったけど…みんなそう言ってたし!だってそうじゃなきゃ!そうじゃなきゃケリー先生が自分から死んじゃう理由なんか無いじゃない!」

叫ぶ様にヘナがドーンに言い返した。


 その時にふと、エルは数日前の応接室での院長先生とケリー先生のやり取りを思い出した。

「あれ…あれってもしかして」

そう言いかけたエルの思考を遮る様に更に他の声が掛かった。


「そこで何を揉めているんですか」

エルがハッと顔を上げると廊下の先から院長が歩いてきていた。

施設にいないのが当たり前の院長が廊下を歩いているのは違和感しか感じなかったが、今がそのくらいの非常事態だという事が、その違和感のせいで余計に身に染みてくる。


「いや、何でもないですよ」

ドーンがバツが悪そうに答えた。

「何だか不穏な噂が一人歩きしている様ですが…滅多な事は口にするものじゃないですよ。ここの印象が悪くなれば仕事も寄付も集まらなくなりますからね」

口を尖らせて下を向いてしまったヘナを見やると院長はそう言った。

そして一瞬エルも見た院長だったが、その一瞬がエルは本当に恐ろしかった。

あの会話を聞いていた事が院長にバレたなら…そう考えてしまったのだ。


 そんな考えを察したかの様に、院長はエルから通り過ぎてドーンを見たはずの視線をすぐにエルに戻した。

恐怖に耐えきれずエルは視線を逸らして下を向く。

「わかりましたね」

しばらくするとそう言い残して離れていく足音が聞こえて、エルは心からホッとした。


「確かになぁ、祭り前に死人の穢れがとか何とか言われちまったら、今受けてる仕事も切られちまうかもしれねえ。ヘナもエルも分かったな?黙ってろよ」

そう言い残してドーンも慌ただしく大人たちが集まっているであろう部屋を目指して歩き去っていった。


「私、嘘なんか吐いてないのに…」

足元をもじもじさせて、つまらなそうにヘナが呟いた。

「ヘナは嘘吐きじゃ無いよ」

パッと頭を上げて、ヘナはエルを見た。

「だって…だって。ケリー先生が自分で死んじゃうはずないもん」

エルはあの会話を聞いてしまった分、何だかモヤモヤするものを胸の中に抱え込んでた。

何と表現して良いのかも、聞いてしまった事を誰かに言った方が良いのかも分からないまま、苦いものが上がってくる様な嫌な気持ちになっていた。


「エルありがと!」

嬉しそうに笑うヘナを見ながら、エルの頭の中はどうしようどうしようとばかり考えていた。

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