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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
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49

 養護院での楽しい一日を過ごしてから数日、フェリーチェはまた熱心に学ぶことに励んでいた。

来てくださる先生方の教えだけではなく、折々時間を作ってくれる、母のエレンからは刺繍も教わっている。

元々繕い物を養護院で教わっていたフェリーチェは、既になかなかの針運びが出来て、それを見たエレンからもたくさん褒めてもらう事ができ、これならばすぐに大きな作品にも取り掛かる事が出来るだろうと太鼓判をもらった。

近いうちにレース編みも教えてもらう約束もして、手仕事は心の安定に効く事を知ったフェリーチェは心から楽しむ様になった。


繕い物も嫌いじゃなかったけど、刺繍って全然違うんだぁー。

チクチクやってる時はあんまり気付かないんだけど、ばっと布を広げたら結構出来上がってきてたり、下書きに色がどんどん載っていく感じがすごい楽しい!


 ついやりかけが気になって、寝る前に手を伸ばしてしまい、ランプに出来るだけ近寄りちまちまやっていると、ミミにもう寝る時間ですよ!と怒られてしまう夜も何度かあった。


 フェリーチェは更に、学ぶことによって字がスラスラ読める様になり、難しい単語も理解が出来る様になると、本を読む事も楽しくなった。

ムーア公爵家には立派な書籍専用の建物があり、先祖代々の蔵書が天井までぎっしり所狭しと並べられている。

勿論、紙の変色が始まっている様な古い蔵書は難し過ぎてフェリーチェには読む事が出来ないが、見た事もない様な緻密な挿絵を楽しんだり、なるべく子供用の本を探してもらったりして次々にそれらを読み耽った。


 するとある日から、図書室の一角の子供用の本が増やされていることに気づいた。

どうやら最近のフェリーチェの様子を聞きつけた両親が蔵書を増やしてくれた様だ。

そういえば裁縫箱の中の色糸も随分とカラフルに増やされていた。

フェリーチェはありがたく思いながらそれらを読み、ジュリ先生との青空教室に備えて、草花の図鑑を数冊部屋に持ち帰った。


 そんな毎日を過ごしていたフェリーチェは、たまには好きな事をする一日を作りましょうねとエレンに言われて、ぽっかりと何も勉強の時間がない一日を貰った。

エレンには街へ買い物に行こうと誘われたが、ありとあらゆる物が揃えられたフェリーチェには今、欲しい物が全くない。

あれやこれやと並べて何とか街へ連れ出そうとするエレンに丁重に断りを入れて、フェリーチェは部屋に戻った。


お休みかぁ

どうしようかな…


 急な休暇に戸惑ったフェリーチェだったが、眩しげな目で窓を見た。

ポカポカとした日差しが大きな吐き出し窓から差し込んでいて、少し開いた窓からの風がそっとカーテンを揺らしている。


あの木陰で本を読んだら気持ちよさそう!


 部屋に着いてきていたミミに庭に出る事を告げると、ふふふと意味ありげに笑った。

それを不思議に思ったフェリーチェであったが、続けてミミに後でお茶とおやつの差し入れに行きますと言われて、そのまま本一冊と刺繍道具のセットを抱えて庭へ出たのだった。


 てくてくと以前セドリックと語り合った木陰を目指して、フェリーチェは歩いて行った。

広い庭を横切り、木の生い茂る一角まで行くのはかなりの距離があるが、方々に咲き乱れる季節の花々を見ているだけですぐに着いてしまった気がした。


ううう、さっき見た葉っぱがとっても気になるけど…もう!せっかくなら図鑑も持ってくれば良かった!


 もう来た道を戻るのも惜しい距離で、フェリーチェは自分の不覚を悔しく思いながら、ふと見上げた目的地に違和感を感じた。


あれ?前に来た時と随分変わった気がするんだけど…


 こんもりと涼しげに茂った木々の間に、見慣れぬ建物が建っている。

更に近づくとそれは壁も設てある東屋であった。

多少の雨は凌げ、冬でも最低限の壁によって風が吹き込まない作りになっている。

柔らかそうなクッションが何個も置かれたベンチは、円形建物に沿ってくるりと半円を作っている。

真ん中には木製の可愛らしいが大きめのテーブルが置かれて、お茶も勉強もしっかりできそうだ。


「えええ!何これ?一体どうして!?」

驚きのあまり、つい大きな声での独り言が出てしまったフェリーチェに、どこぞから声が掛かった。

「あれ?もしかしてフェリ?」

半分東屋に入っていたフェリーチェは、急いで声の主を探すが誰もいない。


「はい…フェリーチェですけど…どこ?あなた誰ですか?」

「やっぱりフェリかぁ。ははは、ここだよここ!」

それは若い男の声だが、なんだか聞き覚えがある。

フェリーチェはキョロキョロ見渡し、東屋の後ろまで回り込もうとした。

「違う違う!上、上だよ!」

ハッと慌てて見上げると、そこには弾ける様な笑顔で手を振るニ番目の兄のマークがいた。


 兄が手を振っているのは、木の上に出来た小さな家の窓からだった。

そのツリーハウスはこぢんまりとしているが、木々に溶け込む様な深い緑色の屋根に、無垢材の様な素朴な壁板にアーチ型のドアや、ガラスも嵌め込まれたしっかりとした窓も設えてある。


 あんぐりと見上げるフェリーチェは、迎えに降りてきたマークに連れられてツリーハウスへ続く階段を登った。

階段は、丘陵面と斜めに生えた大木の構造をうまく使った緩い階段になっているので、梯子や縄梯子などとは違って、長いスカートを履いたフェリーチェでも普通に登る事が出来る。


「おいで、フェリ。本当はここは君のツリーハウスなんだけどね、君はなかなか忙しくってここに来れてなかったからさあ、悪いけど僕が先に使わせて貰っちゃってたんだ」


 室内は二人が入ると少し狭く感じるが、それでもフェリより大きなマークでも天井に頭がつかえることもない。もっと背の高いソニーでもギリギリ大丈夫なのではないだろうか?

中には小さなテーブルセットと本棚、物が置ける棚がある。窓際には大きなソファが置いてあって、どうやらマークはそこで昼寝でもしていた様だ。


 口を開けたままぐるりと一周見渡したフェリーチェに、マークが続ける。

「前にさ、兄上とそこで会ったんだって?座って色々話したって兄上が僕たちに言ったんだ。

そしたらさあ!くくく…父様が、ならそこもフェリーチェが居心地いい様にしよう!って言い出しちゃったんだよ。

兄上もまたそこにフェリが来るか分からないからって言って止めてるのにだよ?

ははは!それからすぐに庭師全員集めて…庭師頭のドニなんて、最近でかい仕事やってなかったからって一緒に張り切り出して、親方が言うならって若手も張り切り出して!内装はワタクシに任せて!って母様まで張り切り出して。兄上は頭抱えてさあ!

いやぁ、あの状況をフェリにも見てもらいたかったなぁ」


 マークは腕を組んで目を瞑り、うんうんと楽しそうにその時を思い出している様だ。

「私の…ために?」

パッと目を開けたマークはフェリーチェの手を掬うと窓際にソファへ誘った。

「そうだよ!ここはフェリーチェのツリーハウスだよ!

気づくまで内緒にしててサプライズにするんだって。みんないつ見つけるかって、早く教えたかったけどウズウズこの日を待ってたんだ」


 あの意味深なミミの笑顔に合点のいったフェリーチェだった。

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