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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
48/59

48

「マイン先生…ごめんなさい」


 また一行で食堂に戻った後、フェリーチェはおずおずとマイン先生に詫びた。

食堂では公爵家が持ち込んだケーキや果物が皆に振る舞われ、また茶会が始まっている。

ヘナとエルザたちのはしゃぐ様な声と、何故かまだ残っているフォード神がゼン神と共にソニーやドーンと新しい院長が何やら難しい話をしている様だ。


「何がごめんなさいなのですか?」

「私が…沢山泣いてしまって、せっかくのマイン先生のお別れの機会を台無しにしてしまいました」

申し訳なさに少し泣きそうになりながら、フェリーチェは下を向いてしまった。

ふむ…と一息つくと、マイン先生は優しい声で隣の席に着く様にフェリーチェを促した。


「フェリ、どうぞ聞いてください。

私は今日、人の身で一生に一度も出会う事もない様な素晴らしい奇跡と遭遇したのです。

まず、死者となってしまった可愛い教え子と再び会う事が出来た上に、互いの心残りを話し合う事ができました。

第二に、巡礼地を司る神に直接お目見えする事が出来ただけでもあり得ない事であるのに、更に主神まで…ですから私の心はこれ以上無いほど満たされていますよ。今日は連れて来ていただいて本当に良かったです。

それよりも貴女のことですよ」

先生が怒っていなかった事に安心しつつも、フェリーチェの事とは何の事だろうとキョトンとしてしまった。


「先程のケリガン様の言葉にもありましたが、実は貴女はたくさんの愛と幸せを皆に与えているのです。

では貴女は?貴女の愛は?幸せは?貴女はどう思いますか?」

フェリーチェは考えてもみなかった言葉を先生から投げかけられて、問いの意味すらも分からず固まってしまった。

いや、愛も幸せも単語としては知っているし、意味も分かる。

だがそれを『貴女は?』と問われて自分事として考えた途端さっぱり分からなくなる。

なんと答えるのが正解なのかも分からないまま、フェリーチェはおずおずと先生に分かりませんと正直に答えた。


「そうですか」

フェリーチェの返事にそう言うと、また先生は考え込む様にふむと一息ついた後、パッと笑顔を見せて両手を広げフェリーチェを抱き寄せた。

「では一緒に考えていきましょう。それでも分からなければ一緒にどこまでも答えを探していきましょうね。

そうね多分、これは私だけの助けでは見つけられないものだから、色んな人を巻き込みながら協力を得ましょうね。

フェリ、大丈夫…ゆっくり探していきましょう。

でも最初に言っておきますが、これはケリガン様から預かった、大切な貴女と私の約束と宿題だからちゃんと終わらせなきゃいけないわ。

でも貴女がね、例えここに戻る事になったとしても、私は貴女の先生としてここに教えに通います。ですからいくら時間がかかったとしても一緒に一つづつ答えを探していきましょうね」


 マイン先生の胸に中に抱え込まれたまま、フェリーチェはその言葉を聞いていた。

分かるようで分からない言葉であったが、先生たちの心配と真心だけはよく分かった。

しかもどれだけ時間がかかっても良いという。

フェリーチェは甘えるように先生の胸に体重を乗せ、はいと返事をしたのだった。


ーーーーー


 そんなフェリーチェとマイン先生の席から離れた所に一テーブル陣取り、年嵩の男たちが集まりコソコソと話し合っていた。


「ねえソニー、で?で?あれからどうなったのさ?」

「主神フォードよ、この様な場所で話す話題では無いのでは無いですか?」

ウズウズと身を乗り出すフォードを、人の良さそうな笑顔で諌める新院長のウォリスは、見た目と違って主神にすら意見できる芯の通った男であるらしい。

「そうですよ、発表されている以上の事はこの様な場ではとても…」

「本当に…俺だってさあそんなに間抜けじゃないよ!ちゃんと遮音のカーテンを張り巡らしてるってば!」

「おおお!その様な神のみ技を!」

高揚する様な表情を見せるウォリスとキョロキョロと周りを見渡し、指であちこちを突いてみるソニー、そんな二人を憤慨した顔で睥睨している。


 こんなカオスな状況の一角にちょこんと座っているドーンとケビンは顔を見合わせた。

自分たちが何故この場に呼ばれたのが分からない。場違い感にそっと席を外そうかと目で合図を交わした所でソニーが口を開いた。

「分かりました!神のみ技まで出されたのでは、今ここは城の奥の会議室より安心でしょう」

少し浮きかけた尻を諦めて置き直すと、ドーンとケビンも改めてソニーの方へと顔を向けた。


「まあ、あれからと言っても皇太子…元ですが…アンドリュー第一皇子がどうなったとか、侯爵家とか大体の流れはここの人間は知っているわけですよね?院長もそちらのお二人もゼン神からもお伝えされてるとお聞きしておりますが?」

そう問われた養護院組の三人は揃って頷いた。

「いや、そんなゴミ屑カスたちのことなんかどうでもいいんだよ!俺らが気になってるのはお嬢ちゃんの事!公爵家でどうなってんのさ?」

プリプリと頬を膨らますフォードに、済まなそうにソニーは頭を下げた。

「ああ!フェリの事でしたか」

「あったりまえじゃん!あれから三週間近く経ってるじゃん?どう?どんな感じなの?」


 話題がフェリーチェの事だと分かった途端、ドーンとケビンの表情が変わった。

そんな二人に少し笑って頷いたソニーが公爵家でのフェリーチェを語り出した。

「ここでとても大事に育てていただいていた様で、フェリーチェは本当に分別のある心優しい子供ですね。

ここの皆さんにどの様に感謝の気持ちを表せば良いのか分からないほどです。話の前にまずは感謝を述べさせてください」

深く頭を下げたソニーにドーンたちは慌てた。

「そんな。前にも散々礼は頂いております。それにこちらこそ修繕やら寄付やら、それ以上のものを頂いてしまって…」

ケビンが両手で押し返す様にソニーの言葉を遮る。


「この私が何度頭を下げたとて、何度礼を尽くしたとてフェリーチェの命の恩人に報いるほどのものではありません。

ですがこれでは話が進みませんので、また後ほど礼をさせていただきますが…それでフェリーチェですが、貴族令嬢としての生活を過ごし始めております。本来であればもっと幼少期から行う勉学から始めた感じでしょうか。比較的気性の優しい先生方を宛てがっておりますので、まずは慣れる事に重点を置いてですね、のんびりやってもらっています」

「エル…いやフェリーチェか。あいつが貴族令嬢のお勉強ってかぁ」

思わずドーンの口から素直な感想が出てから、しまったと口を手のひらで閉じた。


「ははは、あの子のここでの生活をご存知の方からすれば、あまりの真逆の生活ぶりに驚かれる事でしょうね。ですが一番驚き、戸惑っていているのはフェリーチェでしょう。

ですから貴族としての生活とはどういうものか、そこでフェリーチェなりに生きていけるのか、想像するだけで残念で悲しい事ですが、やはり貴族として生きていくのは無理だと感じるならば、ここに戻す事も念頭に置いております。

私たちの希望よりもフェリーチェの為の幸せ。

それをフェリーチェ自ら考える事が出来る生活を、この三か月間、我が家で過ごさせるつもりなのです」

真剣な目で、養護院での保護者であった二人に語りかけたソニーは最後に椅子の背もたれにドスンと背中を預けた。


「本当はね…正直に言ってしまえば…屋敷の奥深くに閉じ込めて『帰りません』『ずっとここに居ます』ってフェリーチェに言わせるまで、御涙頂戴でも恫喝でも何でもしたい気持ちなのですよ。私の妻もね、恐らく同じ気持ちでしょう。

はぁ…いやいや、そんな事出来るわけないですけどね」

一瞬殺気を放った座の全員に力無く手を振って、ソニーはもう一度ため息をついた。


「だってですね!未だ!未だかつて!再会してから一度もまともに『お父様』『お母様』ってフェリーチェに呼んでもらえてないのですよ?

皆さんにはこんな私の切ない気持ちも是非知っておいていただきたい…」

塩を振られた青菜の様にしおしおとテーブルに突っ伏してしまったソニーを、男たちはどうやって慰めれば良いものかと目配せをしあったが、結局誰も口を開けないのであった。

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