39*傍流
「そんなの!私は知らないわ!あの男が勝手にした事ではないの!」
「そうは言ってもね、紛れもなくお前が種子を蒔いたのではないか。
お前が余計な事をしなければ、あの二人は出会わなかったし、お前の姉が殺される事もなく…そもそも階位の足りなかったあの男が院長に就くことも無かったわけだが」
「だけどそれは結果でしか無いですわ!私がいなくてもそうなっていた可能性だって!」
「だからその結果の原因がお前であると申しておるのだ!」
「……」
スージーが何を言っても、上から被せるような皇帝からの断言に、スージーはそれ以上何も言い返せなくなってしまった。
「で、ですが、父上!そうなれば俺は関係無いのでは!?」
間抜けな声が横から聞こえてきて、スージーは目を剥き、
皇帝は心底ウンザリした溜息を吐いた。
「お前は先程から何を聞いていたんだ」
「だから…ですが、スージーがその様な悪女であったと俺は知らなかったのです!俺は騙されていたわけで…だからその…そうだ!俺は被害者な訳です!ですから!」
「最初に言ったはずだがな。そもそもお前がその女を選んだ時点で破滅の始まりであったと。そもそも傀儡にすらなれぬ、ただの阿呆であるならば私はお前らなど要らぬのだよ」
そこでとうとう皇帝は立ち上がった。
「父上!」
「お義父様!」
元皇太子夫婦が共に悲壮な声を上げた。
「ここで達者に暮らすと良い」
「お待ちください!」
皇帝に何とか齧り付こうとする二人を衛兵たちが食い止める。
「もう事態はどうしようもない所まで来ておる。
これには神々まで関わっており、嘘もまやかしも誤魔化しも一切効かぬ。神々は現在は元より過去においても全てお見通しだ。生死すら超越されて全てを詳らかにされている。今更何の言い訳も役に立たないのだよ。故にこの時間すら単なる無駄なのだ」
「神…々…?」
この皇帝の発言にはスージーは呆然とした。
「そうだ。お前が引いたジョーカーとはどんなものだったか分かったであろう?」
そう言い残して皇帝は二人に背を向けて立ち去っていった。
がっくりと膝を付いたスージーの頭の上では元皇太子が何か怒鳴っているが、一切耳に入って来なかった。
スージーの頭の中は大音量で耳鳴りが響き渡り、それは耳障りでうるさいを通り過ぎてガンガンと痛むくらいだ。
痛みだけでもどうにかならないかとこめかみを揉み込むと、ふと、鉄格子の横に揺れてるカーテンの裏に姉の姿が見えた気がした。
あの陰気な姉は、これまで見たこともない様な楽しげな顔でスージーを見てニタニタ笑っていた。
「アンタァああぁぁぁ!何笑ってんのよ!」
カァっと上がった血は沸騰する様に熱く、拳を握ったスージーは姉を目指して振り上げた。
いつの間に逃げたのかそこに姉の姿はない。ただ窓枠を叩いてしまった拳が痛む。だが何処からかクスクス笑う声が響いている。
姉め!何処から見て私をあざ笑っているのか!
北塔の最上階は、食事の時間と定時の身の回りの世話の時間以外、誰もあの重い扉が開ける事はない。
時折奇声を上げ、鼻息も荒く、あちこちからダラダラと血を流しながら何かを探し続ける美しかったはずの妻と、それを茫然と見続けるしかない皇子がそこには残されていた。




