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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
35/59

35 *傍流

「なるほど…」


 ゼン神は自身の聖域となった養護院の裏庭に椅子を持ち出し、そこに座りながら目の前で風に揺れるブルーデイジーの下に居る者から話を聞いていた。


 偶々の経緯ではあったが、あの養護院の住人たちがケリガンの棺をすり替え、ここに埋葬してくれたのは僥倖であった。

死者の列に並んだ者の中からケリガンの魂を探し出すのは出来る事には出来るが、こうやって肉体を経由して特定した魂とコンタクトを取る方が楽だ。


 死者の列というものは、商店や役所の仕事の様に行ったその日に受付してもらえて終わる様ものではなく、永遠とも思える様な、時間の概念が消える程の長い行列である。

それはこの世界中から集まってくる、ありとあらゆる魂の列なのであるから長くて当たり前とも言えよう。

その行列の長さこそ、自身の自我も失い、新たな生を授けられるための前世のデリートの時間でもあった。

なので死んでからまだ日が浅い分、体がなくてもケリガンは比較的探しやすかったかもしれないが。


「そういった事情にて其方は殺されたか。そしてその犯人はここの院長であるな。

あい分かった。其方の無念は私たちが果たそう。

また、其方の心残りであった『エル』については安心するが良い。今はここに居らぬが、近いうちに其方に会わせよう」

そう言いながらゼン神が立ち上がったとたん、そこにあった椅子もかき消えた。


「それと、其方は暫くここに留まる様に。近々其方に仕事を与える予定ゆえ」

言い残して立ち去るゼン神の背後では白い靄が深く礼をしていた。


ーーーーー


「父上!何故!?何故なのですか!」


 王族の療養の場とされているが、実際は監禁場所である北棟は、滅多に使われる事は無いというのに綺麗に管理されていて、窓のはめ殺しになった鉄格子も、数人がかりでなければ開け閉め出来ない扉も不気味なくらい黒光りしている。

そこに妃であるスージーと共に連れて来られた皇太子のアンドリューは、身を捩って父に詰め寄ろうとするが、何人もの衛兵にガッチリと捕まっていて、それも叶わない。


「何故…か。そもそもはお前がそこの女と共に在ろうとした事が間違いであったのだ」

皇帝が顎をしゃくってスージーを示すと、そこにあった椅子にドスンと腰を落とした。どうやら暫くは我が子と話す気持ちはある様に見える。


 皇帝は、はあと溜息を一つつくと足を組み、肘当てに乗せた腕に顎を預けた。

「だからあの時何度も何度も、伴侶は大切であるとお前に申したのだ」

「父上!おっしゃる意味が全くわかりません!」

「だがその女は心当たりがある様であるぞ」


 皇太子妃であるスージーを、衛兵たちは乱暴に引っ立ててここまで連れてきた。

道中何度もスージーがそれが王族にする態度かと問いただしても力は弱まる事は無かった。

着いた先は王族の監禁場所である北塔だ。

それに気づいたスージーは踏ん張る様にして何とか中には入るまいとしたが、全く無駄な抵抗で、結局三階建ての塔の最上階まで連れて行かれた。

その最中も口では衛兵たちを罵る言葉を吐きながら、スージーの頭の中はフル回転していた。


一体…一体どの件が原因で私がここに監禁される事になったと言うの?

どうすればこの状況をひっくり返せる?


 イライラと爪を噛みながら、皇帝の話も上の空で相変わらずそんな事を考えていた中での皇帝の発言だ。

一瞬つい表情に出てしまったらしい。


「そんな!酷い!酷いわお義父様!私…私…お義父様にそんな事を言われてしまうのはとっても寂しいですわ!これまで良き娘良き妻であろうと頑張って参りましたのに…」

うっすらと涙を滲ませながら、スージーは跪いて義理の父を見上げた。

この角度が一番可愛らしく見え、そして哀れに見える事は鏡で研究済みだ。


「そうか。なら努力も頑張りも足りなかったのだろうな」

ところが渾身のスージーの演技も皇帝には通じなかった。

つまらないものを見たと言わんばかりの表情で、スージーから目線を切った皇帝は続けて言った。


「まあ、お前たちが阿呆でも怠け者でも何でも良かったのだ。

ケリガンが失脚し、ならばと繰り上がりで他の令嬢を宛てがおうとしたのに、お前がその女を選んだ時点で後の皇帝としては生き人形、傀儡として生かす方向には定まっておった。

その為に支える…いや、お前たちを操る能力のある家臣の選定をやり直し、お前たちを何の権限もない単なる象徴とする次世代に備える準備は進んでおったのだ。

まあ、私が死ぬまでにはお前たちの次も育つであろうから、そんなに長く待つまでもなくお前たちはお役御免だ。その先は箱庭でもくれてやるから、その中で好きに生きれば良いと思っていたのだがなぁ…だがこれでまた計画変更だ」

皇帝はこめかみをもみほぐし、また溜息をついた。


「父…上…?」

「お前は全く何を言われているのか理解できないといった顔であるなぁ。

まあ、そういったところだよ。お前が皇帝の器では無いと言われる所以は。お前みたいな阿呆に国を任せれば数年も持たずに国が傾くわ。

そんなものは今となってはどうでも良い話であるな。それより…」


 そこで皇太子から視線を外した皇帝は再びスージーを見た。

皇帝の昏い伽藍堂の様な目を向けられたスージーは、頭から冷水を浴びた様な心地がして肩を震わせた。

「お前も地位と贅沢だけ求めるだけならば、それくらいの事で済むならばそれで良かったのに…それを…随分と下手を打ち、余計な事をしてくれた様だ」

今度はスージーが混乱した。

「よ…余計な事ですか?一体何のことなのか全く…」


 それを聞いた皇帝は鼻を鳴らした。

「ふん、やりすぎてどれがどれだか分からんか。細かいものはどうでも良い。お前の事など全てとは言えないがこちらでも大体は把握はしておった。

私とて長年政の世界で生きてきた人間だ。綺麗事など言うつもりも毛頭無い。

それに人生には時に、運も博打も必要であることも重々分かっておる。

だがそれを言うならば、お前は運にも見放され博打にも負けたのだ。調子に乗ったお前はよりにもよってジョーカーを引いた愚か者だよ」


 スージーを睨みつける様にしてそう言う皇帝にしてみれば、これまで何度も計画変更を強いた上に、息子を巻き込み、諸共奈落へ落ちていった皇太子妃をできる事ならこの場で縊り殺したいくらいの気持ちだった。

目を見開いて戦慄く、見かけだけ美しい息子の妻に吐き捨てる様に皇帝は続けた。


「分からぬか。ジョーカーはお前の姉であったのだよ」

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