34 *傍流
院長は仕事が捗る様にと、密かに街の中に部屋を借りていた。
そこはケリガンとの逢瀬にも使われていたが、主に院長の隠したい物の置き場でもあった。
そこからは中抜きした金額が几帳面なケリガンの文字で記された台帳が見つかっていたし、鍵のかかる手紙箱には多数の手紙も残されていた。
その手紙箱の中にはケリガンの妹のスージー・ジェンダムの物も多数あった。
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スージーは姉が嫌いであった。
いつも陰気な顔ばかりしていて鬱陶しいが、幸い家ではほぼ顔を合わせないで済んでいる。
だが、スージーは学園では何度もその名前を聞かされた。
お姉様は優秀でいらっしゃるのに…
ケリガン様でしたらこれくらいの事…
スージー様はケリガン様とは全然違われるのですね…
どうやら姉は勉強は出来る様だが、だが実際を見てみろとスージーは言ってやりたかった。
両親に可愛がられているのも、姉の婚約者から優しくされているのも、学園でのカーストの頂点に立つのもスージーなのだ。
何となくムシャクシャしたスージーは、姉が離れた隙に姉の友達を待ち伏せをして呼び止め、相談があると言って女たちに普段の姉の家での様子を語って聞かせた。
まあちょっとした嘘を織り交ぜてだが。
ーーー学園ではおとなしい姉が実は家では継母と異母妹を虐め尽くしている。それでも姉と仲良くしたいので、アドバイスが欲しい。
あんな姉と仲良くする気など更々ないが、それっぽく少し涙を浮かべて上目遣いで見上げれば、姉の友達らしく頭の軽い女たちは、スージーが言った以上の事を根掘り葉掘り聞きたがって、そしてベラベラとありがたくもないアドバイスを得意げに披露してきた。
余りにもくだらなくて何にも役に立たないアドバイスは、スージーは欠伸が出るのを何度も我慢するほどのつまらない内容ばかりだった。
姉の友達の一人が、姉に直接文句を言ってやると息巻いて言うのには本当に焦った。
まあ、あの姉が一人で違うと言い張っても、スージーが泣き真似の一つでもすれば何ら影響を与えないだろうが、めんどくさくなるのは勘弁だったので必死に止めた。
するとその様子を見て、あっちが勝手に姉を庇う健気な妹という印象を持ってくれたらしく、次に学園で見かけた時には姉はひとりぼっちになっていた。
家で見るのと同じ陰気な姉の顔に、胸がスッとした。
あと数年で学園も卒業となるし、結婚の申し込みも幾つも来ていると言われたが、スージーはせっかくなら皇国の女性のトップに立ちたいと思った。
学園では最大派閥の頂点にいるので、何の憂いもなく過ごせていたし、何かあったとしても取り巻きの誰かがどうとでもしてくれた。
それなのに、スージーが下手な貴族に嫁いだ途端、このバランスは簡単にひっくり返るのだ。
考えただけでそんな事は認められないと思った。
スージーのその美貌と明るさで、皇国を遍く照らす陽の光となれる事は明白なのだ。
そう思いついてすぐに母に相談すると、姉が生まれてすぐに結ばれたという皇太子との婚約も、所詮は家との契約なのだから、姉でなくスージーと結び直せば良いと言った。そしてその様に取り計らう約束もしてくれた。
母の言葉通り、姉が一緒に皇城へ行くことも減り、皇太子と随分と親しくなった頃、我が家で開かれた茶会でスージーは倒れた。
苦しくて気持ち悪くて一晩寝込んでしまったが、翌日起き上がって着替えが済む頃にやってきた母が、姉が家から出されたと教えてくれた。
どうやら姉の仕業でスージーはあんなに苦しんだらしい。
姉のくせになんて事を仕出かしたのか!
家を出されて修道院に預けられたらしいが、なぜそんな生温い罰にしたのだろうか。死刑でもおかしくない事をやらかしただろうに。
陰気臭い姉の横顔を思い出しながら、スージーは絶対に姉を許さないと心に決めたのだった。




