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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
30/59

30

 一度部屋で落ち着く様にとフェリーチェはエレンに連れられて、屋敷の奥にある部屋にそっと入った。

そこには養護院の応接室より広く美しい部屋があるが、だから何なのだと、フェリーチェはキョトンとエレンとそれに付き添う侍女長のサリーを交互に見上げた。


「ここはね、貴女の部屋なのよ!」

ウキウキとした気持ちを抑え切れないという様に、両手を広げてエレンが言った。

「私…の、部屋…ですか?」

今まで貰った部屋は相部屋用の無骨な二段ベットが置かれただけの子供部屋しかエルは知らない。

ここには毛足の長い絨毯が敷かれ、小さなティーテーブルセットや大きな鏡の付いた鏡台、天蓋付きの大きなベッド、奥にはウォークインクローゼットやバス、トイレにつながる扉まである。


「ここで何人と…誰と住むのですか?」

「ここのお家はね、そうねぇ何人も住んでいるわ。でもこのお部屋に住むのは貴女だけよ」

「私だけでこんなに広いお部屋に!?」

キョロキョロと部屋を見渡しながらフェリーチェは驚きの声を上げた。


「そうよ。えっとね、貴女のお父様はここのお家の持ち主なのよ?だからその娘であるあなたも同じくらい良いお部屋に住むの。せっかくお父様が大きなお家持ってるんだから、ふふふ、その娘がそれくらい良い思いしても良いと思わない?

それにね、このお部屋は貴女が…少し…お家を空ける前にも住んでいたお部屋なのよ?」

呆然とフェリーチェは部屋を見渡した。二歳の子供がこの部屋に住んでいたとは想像もつかない。

「元々は赤ちゃん用のお部屋になっていたから、貴女が大きくなったら喜んでくれるかしら?って想像しながらわたくしが模様替えしたの。どうかしら?気に入ってくれたかしら?」

少し緊張気味にエレンがフェリーチェに聞く。


 フェリーチェはおずおずと窓辺に寄り外を見る。

そこには整えられた美しい庭が見え、部屋から直接庭に出られる様に小さなポーチと階段が付いていた。

そして振り返って部屋を見ると、窓から差し込む日の光で磨き込まれた家具がピカピカと輝き、少し開けられた窓から吹き込む風によって布類が小さくはためいている。

「まるで夢のようなお部屋です。こんな綺麗なお部屋に住んで良いなんて…」

「良いに決まってるわ。ずっと貴女のお部屋だったんですもの」


 未だ部屋のあちこちに興味深げに目を走らせているフェリーチェを見ているだけで、エレンの心にどんどん血が通っていくのを感じていた。

「それでね、フェリーチェもきっと疲れているとは思うのだけど、お風呂に入ってもらってお着替えしてもらっても良いかしら?うちの使用人たちが貴女をおめかししたくってずっと待っているのよ。もちろん私もなんだけども」

少しエレンの目がギラっと光った気がして、一瞬何かの恐怖を感じたエルだったが、こんな綺麗なお屋敷とお部屋に、フェリーチェが汚れたままでいて良いはずはない事はすぐに理解した。


 フェリーチェの頷きを確認したサリーは、すぐ様廊下に待機していた一団を呼び込み、準備に取り掛からせた。

結構な人数が入室してきたのを見てフェリーチェは、これは確かに部屋が大きくないと入り切れないなと納得していた。

この後、妙にハイテンションな使用人たちにスッキリサッパリ全身を洗われ、ファッションショーに突入する事を知らないフェリーチェはまだ呑気だったのだ。


 その間、エレンはサリーの給仕でお茶を嗜んでいた。

風呂からはフェリーチェの悲鳴や侍女たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。

幼かった頃のフェリーチェはお風呂で水遊びをするのが大好きで、入浴時間は侍女たちも一緒になって湯を掛け合っては楽しそうな笑い声が響いていたものだった。

そんな思い出が蘇る度にエレンの喉が震える。


「奥様…」

「おかしいわね。そこにわたくしの娘が居るのに。これが夢だったらどうしようって怖いのよ。

いいえ、そうではないわね。いっそその夢に浸れるならそれで良いの。でもね、目覚めるのが怖いの」

「奥様!エレン様!お嬢様はお戻りになられました!現実、ここにおられます。もう二度とあの様な事にはなりませぬ。この私が身を挺しましても!必ず!」

「ありがとう、サリー。そうねぇ、わたくしもまだ色々と追い付いていないのよね。段々…これを現実だと、正しい道に戻ったのだと実感できる様になるわよね」


 目の淵に滲んだ涙を指先で押さえると、エレンが小さく息を吐いた。

「そろそろ上がってくるわね。あの子に何を着せるか、サリーも一緒に見てくれるかしら?」

そう言いながらエレンは立ち上がってクローゼットへ向かった。


 まだ既製品の少ししか埋まっていない、フェリーチェのクローゼットはがらんとしていて、隙間だらけの家族としての年月を表しているかの様だった。

「もっともっと埋めていかなくてはならないわね」

「はい、明日には商人を数名呼び寄せております」


 明日…愛しい娘とのこれからを考えられる幸せに、また喉の奥が震えてしまったエレンであった。

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