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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
25/59

25

 随分と遅れてエルの情報を耳に入れた院長が、夜中に慌ただしく戻ってきたそうだが、疲労困憊で倒れる様にベッドに入ったエルは、とっくに子供部屋で夢の中であった。

マーゴたち修道女からの話を聞き、エルの起床時間まで待ち切れなかった院長は、夜明けにはエルを叩き起こそうとしたらしいが、ドーンやケビン爺など、院の殆どの大人たちが全力で止めたらしい。


 院長の突入阻止のためなら肉体言語も止むなし。といった風な大人たちの様子に渋々諦めた院長は、その後食堂で今か今かとエルの目覚めを待っていたようだったが、疲れ切っていたエルが目を覚ましたのは、昼もとっくに過ぎた時間だった。


 パチリと目覚めた後、ふああああと大きな欠伸をして目を擦ったエルに、この部屋には見慣れぬ鮮やかなピンク色が視界に飛び込んできた。

ギョッとそちらを向いたエルは、そこにピンク頭神の姿を見つけると、あまりの驚きにベッドの一番奥まで逃げ込んで体を震わせた。


「お?お嬢ちゃん起きた?おっはよー!めっちゃ良く寝てたねー。

暇だったからさぁここの本読ませて貰っちゃったけど、これ面白いねえ。所謂トンデモ本だわぁー」

そう言うピンク頭神が持っていたのは、字を覚えるために先生から貸してもらった、子供向けの聖書であった。

「それって…トンデモ…本なの?」

パラパラとページを捲るピンク頭神は、例えばー、ええーっとねぇと言いながらどこかのページを探していた。


「あったあった。ここ!ここ!」

ピンク頭神が指差した一節は、それは過去に失せ物をして、それを元に人生と心を失った男の話で、時間を司る神が男を憐れに思い時間を巻き戻し、男に新たな人生を歩ませる話であった。

「こんなん無理に決まってるっしょー!」

ピンク頭神は爆笑した。

「え…無理なの?神様って万能じゃあないの?」


 ピンク頭神はキョトンとした顔でエルを見た。

「んなはずないじゃん!だったらお嬢ちゃんを誘拐される前に時間を戻せば万事解決だし、この世の大体のお困り事全て解決しちゃうんじゃない?」

エルは確かにそうだなと思いながら頷いた。

「俺くらいになれば?めーっちゃ頑張れば?出来るのかもしれないけどぉ、でもさ基本的に時間の流れは一方通行だし、その流れにある万事は必然であったりする訳。

お嬢ちゃんも辛い思いしたかもしれないけどさあ、でもいい勉強はしたと思うんだよねえ。

本来の流れで生きてたら、ぜぇーったいにこういう場所で生活する人間のことなんて、ちらりとも頭に浮かばなかっただろうしねー」


 人差し指でくるくると頭上を指し示しながら語るピンク頭神を見ながら、エルの脳裏にはあの時仕事に行った先の貴族親子の顔と蔑む言葉を思い出していた。

下手したらエルがあんな人間になっていたのかもしれない…背筋がふるりと震えた。

「そうかも…しれません」

「でしょう?だから俺らも時間は弄らないし、まあ基本無理。そんなのになんで人間が神なら出来る!みたいに言っちゃってんの?だから祈りなさいって何?って感じなワケよ。俺らの名前使って勝手に商売し始めちゃってるのかな?って穿っちゃうよねえ」

ピンク頭神は昏い笑みを浮かべた。口元は笑顔なのに目の奥がどす黒く見える。


 更にエルが怯えた事に気づいた神は気を取り直し、陽気にエルに話しかけた。

「そうそう、そんな事より肝心な話忘れてたー!公爵家のお迎え、今日来るから」

「えええ!」

「さっきお嬢ちゃんがまだ寝てるって連絡送っといたから、ちょっと遅らせてくれるらしいよ。えっと三時くらいには着くって言ってたかな?」

エルが慌てて時計を見ると、昼もとっくに過ぎてすでに一時近くになっている。

「ええええ、もうすぐ来ちゃうじゃないですか!じゅ…準備も何も…」

「ああ、そういうの何にも持ってこなくていいって言ってたよ。ただお嬢ちゃんがこれだけは絶対に持ってなきゃ心配とか不安とか思うものだけ持っといでって」


 ピンク頭神が言った言葉に、エルはつい胸元に指輪を探してしまった。

「あ…」

いつもの感触がない事で、昨日知った衝撃の事実を思い出した。

「あれは…結局呪いの指輪だったわけですよね」

「まあカテゴリー的にはそうなっちゃうのかなあ?

アホ同士でマウント取り合って、お互いを支配下に置くために道具を作りあったのが最初だったわけだしなぁ。

ある神が他の神にイタズラ仕掛けられて、その反撃のために歩いただけで何故か水溜りにハマる呪いをかけたサンダル作り出してプレゼントしたりとか、最初はそのレベルから派生したんだよね」


 エルはあまりのくだらなさに、それに巻き込まれた自分を自分で呪いたくなった。

「そうなんだよー、本当にくだらないんだよ…だからこそ罪悪感もそれを人間に下賜する危機感もまぁーったく持ち合わせなかったんだろうね。

失敗作や不用品を、ありがたがって受け取る人間にポイってやったくらいの感覚だったんじゃない?

だってあいつらにとったら単なるお遊びなんだもん」

ピンク頭神はつまらなそうに唇を尖らせて、聖書のページを人差し指でパラパラパラパラ…と流した。


 そこで急に頭を上げると「だ・か・ら!」と聖書から話した指を天に向けてまたくるくると回した。

エルは嫌な予感がした。

「だからお詫びにいーっぱいお嬢ちゃんを甘やかそうって決めたんだよー。その第一弾としてこれ!」

またエルのおでこがピカーっと光った。

「きゃあ!」

ピンク頭神はふふふと呑気に笑っている。

「なななな!何なんですか!?これは!」

「これ?これは俺の聖痕!お嬢ちゃんは俺の庇護下にあるよぉって一目で分かるようにって」

そこでおでこの光は途切れた。

「でもさぁ、昨日すっ飛んで帰ってきたゼンにぶっ飛ばされちゃったよー。余計な事すんなって。

こんな目立つもん付けてたらお嬢ちゃんがどこにも馴染めないだろうって」


 確かに昨日の夜の先生たちは、エルから一歩も二歩も引いたような態度だった。

いつもの様に歯磨きしなさい、おしゃべりしてないで子供は早く寝なさいなんて事すら言ってはくれなかった。

「だからさあ、付けっぱなしにしとくけど、必要な時以外は機能しない様にしとくから」

エルはそう言われてもよく分からないままだった。

「えっと、必要な時って?」

「分かんないけど」

「…ええっと…機能って?」

「うーん…その時になったらバーン!って感じなのかな?多分?」

エルとピンク頭神は無言で見つめあった。


 その時コンコンと外からドアが叩かれた。

「エル?起きてるか?入るぞ?」

ドーンさんの声だ。

「はい起きてます」

ガチャリとドアが開き、ドーンとケビン爺が入ってきたが、数歩進んだ途端にぴきりと固まり、ピンク頭神を凝視した。

動かないドーンを、いち早く正気に戻ったケビン爺が部屋の中程まで突き入れ、廊下の左右に誰もいない事を確認すると慌ててドアを閉めた。


 見知らぬ男を見つめたまま、まだ固まっているドーンの肩越しにケビン爺がエルに小声で話しかけた。

「エル、このお方はどなたじゃ?」

急に聞かれても、エルはこの神が何神だかは知らなかった。

「ええっと…ピンク頭…の神様?」

エルにはドーンとケビン爺の頭の上に大きなハテナマークが浮かんだのが見えた様な気がした。

だが本当にそれ以上の紹介する術を持たないのだ。

するとピンク頭神が椅子の上で大笑いして、腹を抱えている。

「ははは!あー面白い!お嬢ちゃん、俺の事脳内でそう呼んでたんだね?そっかぁお嬢ちゃんには名乗ってなかったかぁ。ははは!」


 笑い上戸な神だとは思っていたが、今までで一番の笑い声を上げて、椅子からも転がり落ちそうな様子な神を見て、人間たち三人は顔を見合わせた。

「あー!面白かった。ごめんごめん、俺はフォードって言うよ。他の神よりはちょっとは顔が売れてると思ってたんだけどなぁ」

確かにエルですら主神フォードの名前だけ知っていたし礼拝堂にも小さいが主神の石像は置いてあった。


「だって!礼拝堂にある石像はフォード?様に全然似てないもの!」

それに真っ白な石像は、この鮮やかなピンク色を全く想像もつかないものにしていた。

慌てて言い訳を並べたエルをまあまあと両手で制すると、フォード神は言った。

「あはは、別に怒っちゃいないから安心してよ。確かにあれめっちゃオジサンだよね。誰が作ったんだか知らないけど、最初見た時は流石に落ち込んじゃったよー」


「うわぁ、とうとう主神まで降臨かよ…」


 ポンポンとエルとフォード神の間で交わされる会話を聞きながら、ドーンの口からつい言葉がこぼれ落ちてしまったらしい。

それが耳に入って黙った二人が見ると、ドーンは自分で自分の口を塞いでいた。

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