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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
21/59

21

 そんな親子の姿に呆れた様にゼン神が言った。


「だからの、先程も運命の神もその者は既に死者の列に並んでおると言ったであろうが。

我が主神が最も嫌う自らで自らを亡くした者であれば、いくら布施を積み上げられたとてその列に並ぶことは絶対に無い。なのになぜお前は、かの者が自ら亡くしたと申すのだ?」

改めてそう聞かれると、ヘナとジンからそう言われた事しか事実がないエルは戸惑ってしまった。

「え…だってそう聞いたから…院長先生がケリー先生はコッソリ悪い事もしてたって言ってて…それに実際死んだ次の日、お祭りの前にはもう燃やされちゃってたし。

え、本当に違うの?私、お祭りの間は神様がお願いを聞いてくれるって言われたから、だからどうにか先生を死者の列に並ばせてあげてくださいってお願いしようと…」


 そこで今度はソニーが口を開いた。

「ねえフェリーチェ、先程から名の出ているケリー先生とは、もしかして修道女ケリーなのかな?

元侯爵家の令嬢であった?二十代くらいの女性ではないかな?」

「年齢は確か二十二歳って言ってましたが、それ以外はわかんないです。聞いた事があるのは先生は元貴族だったって事だけで。元貴族だったから動き方とかもすっごく綺麗なんだなって思ってたんです。他の先生とも全然違ってて…」

「ふむ、恐らくジェンダム侯爵家の令嬢であったケリガン嬢でありそうだね。年に何人かは修道女になる令嬢もいるが、その年頃でケリーという名であれば当たりだと思うが。

そうか、かの令嬢がフェリーチェの先生になっていたのか」

「とても優しくしてくれました」

「で、その先生が自殺を?その…院長先生がそう言ったのかい?」


 ソニーの問いにエルが首を横に振る。

「子供部屋でヘナとジンから聞きました。

でも翌日には院で燃やした後、院長先生が纏めた灰を教会に持って行っちゃったんです。

だから中身空っぽだけど…だけどみんなで院の裏庭にお墓を作ったの…あ!」

「どうしたのだ?」


 聞き返されてもエルは口を両手で塞いで、下を向いてもじもじすることしか出来なかった。

ソニーは根気良くエルに問いただした。

「ここにいる私も神々もフェリーチェの事が知りたいのだよ。何も恐れる事は無いんだ。ここで口にした事は大体の事以上は外に漏れる事は無いんだ。だから全て話して良いんだよ」

そう言うソニーにゼン神はちらりと目配せしたが、ソニーはそれを無視してエルに話しかけた。

「それで?裏庭の先生のお墓はエルが作ったのかい?」


 あれだけドーンに口止めされていたのにペロリと秘密を口にしてしまった自分の落ち度にガックリしながら、神の前でここまで問いただされるともう黙っている事は出来ないとエルは観念する。

「いいえ…ドーンさんとケビン爺と一緒に…でもこれは内緒にしておかなきゃ駄目って言われてたの!そんなのに私、喋っちゃった。どうしよう…」

「ああ、フェリーチェ。大丈夫だよ。ほらご覧、お父様だって神々だって怒っておられないだろう?

皆フェリーチェの話が聞きたいだけなんだから、心配なんかしないで何でも話してごらん」

恐々とエルが周りを見渡すと、見える範囲にいるピンク頭神もゼン神も先程から表情を変えてはいなかった。


「多分ねー、そのドーンって人間は、教会の施設内で神の教えに逆らった事を大っぴらに出来ないから内緒にしとけって言ったんだと思うけどさあ、でももう神様にまでバレちゃったんだから、まーったく気にしなくって良いよお。しかも本人はもう死者の列に並んでるって神々直々のお墨付きが付いた人間のお墓なんだから、これからは堂々と大事にしてあげなよ」

ピンク頭神の言葉を聞いたエルの両目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。


「これがケリー先生のお墓だよってみんなに教えてあげても良いの?」

「いいよー」

「みんなでお参りして良いの?」

「いいよー」

「本当に良いの?」

「本当にいいよー」

安堵のあまりすんすんと鼻を鳴らして泣いているエルの肩を、ソニーが慰める様に優しく抱いた。


「で、其方が気にしていた事はそれだったのかの?」

未だヒクヒクと鳴ってしまう喉を抑える様にしてエルが答える。

「これもそうですけど…私、ただの平民です。いえ平民以下です。それなのに貴族様のお家に入るとか想像できないし、本当に良いのか…」

「当主であるお父様がそうして欲しい、戻ってきて欲しいって言ってるんだよ!?

大体今のこの状態が間違いなんだ!良いに決まってるじゃないか!」

「それに!私…院のみんなが家族だって思ってたんです。だからみんなから離れて遠い所に行くの…怖いです」

これにはソニーも固まり、呆然とした。


「分かった!なるほどなるほど、そういうわけねー!

お嬢ちゃんは神へのお願い事にするくらいケリーの事が一番気になってたけど、それは解決したよね?

あとは新しい環境に慣れるか怖いと。

うんうんじゃあさ、まず試してみれば?そんで駄目ならみんなのとこ戻れば良いじゃん!お試しお試し!まずはチャレンジしてみなよー」

「お試し?」

恐る恐るエルは聞きなれない言葉を口に出してみる。

「そう!一カ月…じゃ短いなぁ。三カ月くらい元のお家にお泊りに行っておいでよ。そんでお互いにやっていけそうか試してみる!おお、これは我ながら良いアイデアじゃん!」

自分の発言を自画自賛しながら、ピンク頭神はホクホクと己の顎を撫で上げた。


「そんな三カ月とは!」

今度はソニーが悲壮な声を上げた。

「なに?短いとか言う?言っちゃう?

俺はお嬢ちゃんの負担も計算に入れてさぁ、そっちにも結構猶予あげたつもりだよ?

良いも悪いもそのくらいの期間があればお互い分かり合えるでしょう?短いって言うならさぁ、その期間中にお嬢ちゃんが三カ月じゃなくて一生ここに居たいって思う様な環境にしてやりゃあ良いだけじゃん」


 これにはソニーも反論できずに黙るしかなかった。

「まあ妥当な纏め方ではないかと私もそう思うが。

本来の流れであるからと言って、無理矢理嵌め込んでも今度はそれが歪みとなってしまっては目も当てられぬ」

スッとゼン神が席を立ちながらそう言うと、エルに手を伸ばした。

その手をエルが不思議そうに眺めていると、更にゼン神が言った。


「私が其方を送って行こう。既にあちらはもう夜になってしまっておる。そしてこの状況を説明する者も必要であろう。

かの者では更なる混乱を起こすであろうから、私が道を示しに参る」

かの者と目で示されたピンク頭神は、苦い物を噛んだのような顔をしてからゼン神に向かってべっと舌を出した。


「では参ろう。其方の迎えについてはこちらで相談の上、決定しまた其方に伝えるとしよう」

ゼン神に手を掬い上げられたエルはその瞬間に視界がブレた。

そして次の瞬間には養護院の皆が揃った食堂に居た。


 何か言い合いをしていたかの様な雰囲気の食堂は、皆がそれぞれ時間が止まったかの様な珍妙な姿であった。

だがそこにいた全員は目を見開いた驚愕の表情で急に現れたエルたちを見ていた。

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