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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
20/59

20

「まあまあ、エル?フェリーチェ?うーん、えっとぉ…全くもってめんどくさいなぁ…まあ良いや。

えっとお嬢ちゃんが怯えちゃってるじゃん!ソニーもちょっと落ち着きなよ」


 ピンク頭神が助け舟を出してくれた。

ようやく名が知れたが、どうやら新たに呼ばれた男の名はソニーと言うらしい。

「で…ですが!」

「ハイハイ。あのね簡単にポイって戻せるならさぁ、とっくに君のお家に戻してんの!

そんなのにわざわざここに君を呼んだのにはね、多分調整が必要だって思ったからなんだよ」

「調整ですか?」

「そう、調整だよ。だあってさあー、お嬢ちゃんにしてみたら…えっと今何歳だっけ?」

急にエルに話が振られて慌てて答える。

「多分七歳です」

エルの答えを聞いたピンク頭神は、改めてソニーに向き直ると人差し指をピンと立てて、ソニーの鼻先に突き立てた。


「ほら今、七歳だって。考えてもみなよ、このお嬢ちゃんは二歳で攫われて五年も本来の流れと違う流れの学習させられちゃってたんだよ?」

「学習ですか?」

「そうそう、学習。遺物が学習の指輪だったんだよ。だからさっき言った様に指輪に刻まれた文字の中にLがあったってワケ。

そんでさぁ、今までの五年間はムーア家で蝶よ花よと育てられるはずだった本来の流れから、お嬢ちゃんは指輪の力で強制的に孤児として養護院で育ったんだよ?どんな生活してきたか、君にだって何となくでも想像はつくだろ?」

思い詰めた怖い顔から何とも言えない様な表情に変わったソニーは、エルを見たままそっと頷いた。


「だぁーから、ここで調整だよ!ソニーは家に戻したい。俺たち神も家に戻った方がいいと思ってる。だけどお嬢ちゃんは何かに引っかかってる。だから調整!」

腕を組んでフンと鼻息を一つ吐いたピンク頭神は得意げに締め括った。


「それで、其方は何に引っ掛かっていて本来の流れに戻るのを躊躇しておるのだ?」

これまで空気の様になって見守っていた黒髪のゼン神が真横から声をかけてきて、エルは反射的に驚いてしまった。

「え、え…えっと」

そう声を出してみたものの、全くエルの頭の中は整わず、言いたい事も何も出てこない。

「落ち着くが良い。まずは其方の事を聞こうか。

今はどこに住んでどの様に暮らしておる?普段は何をしておる?」


 エルは大きく息を吸って吐いて、気持ちを落ち着かせた。

「私は養護院で生活しています。本当だったら捨てられた時は孤児院に行かなくちゃいけない歳だったらしいけど、院のみんながみんなで育てるからって言ってくれたので養護院に置いてもらえたそうです。

あそこの人たちはみんないい人達ばっかりです。仕事を教えてくれたり遊んでくれたり…教会から来てる先生達は計算と字の練習とか本の読み方を教えてくれます。

普段は…内回りって言って院内の仕事をみんなで順番でやってたりします。内容は掃除と畑仕事とかです。

あ、最近は縫い物とか料理も教えてもらえる様になりました。

時々外回りっていう、商店や農家のお手伝いに行ってお金や食料を貰える仕事にも行っています。

本当だったら今日までお祭りの手伝いに行っていたので、お金とお供えのお下がりを貰えるはずだったんです。それが本当に残念で…」


 どこがポイントだったのかエルにはさっぱり分からないが、話を聞いているソニーが泣き出していた。

それを不思議そうに眺めていると、またゼン神が話しかけてきた。

「其方は皆に大事にされておったのだな」

それに大きく頷こうとすると、ピンク頭神が嘴を差し込んだ。

「でも全員じゃないじゃーん!俺が行った時、めっちゃ絡まれてどつき回されてたよねぇ?」


 エルは何の事かと頭を捻ると、不意にあの意地悪な男たちの顔を思い出した。

「ああ、あの人たち」

エルが言うとガタガタっとソニーの椅子が鳴る。エルが見るとソニーは立ち上がろうとしたのか、随分とおかしな中腰で歯を食いしばっている。


「アレは良いから、先を続けよ」

ソニーを顎でしゃくってからゼン神が先を促す。

「確かにたまにはああいう人たちもいます。

お店に行っても物を売ってくれないで追い出してくる店主さんとか、お手伝いに行った先で意地悪を言う雇主さんとか。

でも今日のあの人たちは特別、久しぶりに嫌な人たちでしたけど…でも院の人たちはみんな優しいから一緒にいれば安心できます」


 ソニーが憤怒の顔を見せている。どうやらエルを怒っているわけではなさそうだが、耳まで真っ赤になった怒り顔を見るだけでも怖くなるのでやめて欲しかった。

「まあアレは俺が遠くにポイっと捨ててきたから、もう安心してていいよー」

そう言ったピンク頭神にソニーが土下座しているのを横目にエルは話を続けた。


「院にはゾーイ婆とケビン爺って言うおじいちゃんとおばあちゃんがいて、色んな事を教えてくれるし手伝ってくれます。

そして私が寝る部屋は子供部屋って呼ばれてて、同じ部屋にはジンとヘナっていう兄妹がいて、私の事を妹の様に可愛がってくれます。

それとドーンさんっていう人はみんなの為に外回りでお金を稼いできてくれて、私たちに俺はみんなの父ちゃんだって言っています。

他にもみんなのお姉ちゃんみたいなエルザとか、変わった事ばっかりを教えてくれるセリアとかたくさんの人が住んでいます。

あとは先生たちも…マーゴ先生は普段は厳しいけど、上手に字が書けた日はコッソリ一つ飴をくれるんです。

バリィ先生は面白くて元気なのですけど、元気すぎて時々マーゴ先生に怒られてる事もあります」

怒ったマーゴ先生に耳を引かれたまま部屋を連れ出される涙目のバリィ先生を思い出して、ふふふと笑ったエルの顔がふと曇った。


「でも…ケリー先生が…すごく優しくて綺麗な先生だったけど…ケリー先生…ケリー先生死んじゃった!」

エルはくしゃりと顔を顰めたと思うと、うっすらとその目の淵に涙を滲ませた。

「先程もその者が死者の列に並んでおるか気にしておったな」

「だって!先生は自殺したからお葬式出来ないって!お墓も作れないって!そんでもう燃やされちゃった!」

もう我慢が出来なくなったエルはわんわんと泣き出した。

「お祭りで神様に死者の列に加えてあげてってお願いしたかったの!先生は自殺じゃないもん!もしそうだったとしても本当に本当にいい先生だったんだもん!」


 泣き叫ぶエルに誰かが抱きついてきた。

「フェリーチェ!可哀想に!ああ、泣くんじゃないよ。お父様が冥界の神に一緒にお頼みしてやろう。

どれだけお布施を積んだとて、お前の望み通りその先生とやらを死者の列に加えていただける様にお願いするからね。これからは何もお前が泣くような事は起こさせないからね。だからフェリーチェ、もう泣くのではないよ」

ソニーはエルを抱きしめ、ドーンさんよりもゴツゴツしていないが、それよりも暖かい手でエルの背中をポンポンと優しくあやした。


 エルは抱きついてきたのがソニーであると気付いた時には驚いて涙も止まってしまった。

どこへ行っても誰かしらに汚いとか臭いとか言われてばかりいたのに、今この人は何の躊躇も無くエルを抱きしめている。

それは、他人から拒絶されるのが当たり前となり、受け入れられる事を諦め、それに対して何の感情も湧かなくなり始めていたエルには驚く様な行動だったからだ。


 まだ会ったばかりだが、エルと同じ色を持つこの人はエルの父だと言い、エルを違う名前で呼ぶ。

先程の混乱と違った混乱がエルの中で渦巻き始めていた。

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