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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
18/59

18

 エルの返事を聞いたゼン神は、一つ頷くと語り出した。


「数年前にの、ある屋敷で神降ろしの儀式が行われた」

「神降ろし?」

「ああ、神降ろしとは今やっておる祭りを小規模に行う事よ。それなりの手順がある故、普通はおいそれとは行えない儀式であるが、その家では切実な願いがあったのだ」

そこでピンク頭神が思い出した様に椅子を作り出すとエルを座らせた。その気遣いは話が長くなるからなのか、エルがひっくり返る様な話が始まるからなのか。


「そこにの、数柱の神が降りた。

聞けばある子供を探して欲しいとの願いであった。

政敵に誘拐されてしまった娘の行方だ。

その家でも追っ手は出して犯人グループにまであと一歩の所まで追い付いたのであるが、そこからふつりと途切れてしまったそうだ」

あまりな話にエルはダラダラ汗をかき始めた。

「それ以上打つ手無く、どうしようもなくなった所で我々が降ろされた。

そしてそこの家の者が掴んでおった最後の足跡までは我々も追えたのであるが、やはりそこで途切れてしまった。

神にしても追えないとはどういう事かと思っていたが、だがこの指輪が使われておったとすればそれも納得だ。

我々も長年この一連の道具など、もうこの世に無いと思い込んでいたので、それを念頭に置いて探す事もしていなかった故」


 そこでピンク頭神が横から口を出した。

「今日会ったあの街の近くで、令嬢誘拐に一枚噛んでるって言われてた元公爵家の使用人がタチの悪い薬の中毒になってるの見つかってたんだけどねえ。すっかり壊れちゃっててもう話なんか聞ける状況じゃなかったらしいよー。

そんですぐ死んじゃったらしいし。

でももっとその周辺探してれば、その時点でお嬢ちゃんは見つかってたかもしれないんだなー。うわぁ悔しいなぁ」


 エルの記憶に残っていたあの涙を流す男は誘拐犯だったのか…エルを捨てる事に罪悪感を抱いて泣く父では無かった事を残念に思う気持ちが湧いてきたが、それよりも気になった単語があった事を思い出した。


「あの…公爵家って?令嬢?私が?まさかですよね?」

身元が分かりそうな事は素直にエルは嬉しかった。

だがこの話の流れから想定できるお家は、流石に今と生活水準が大きく違いそうなお家でありそうで尻込みしてしまう。

神様の言う事とはいえ俄かには信じきれなかったし、何よりも信じたく無かったのかもしれない。


 だがそんなエルの考えをピンク頭がバッサリと切って捨てた。

「うん、まさしくその髪色と目の色は公爵家の色だよ。

あそこの家族ってさぁ、外から入ってきた人以外見事に同じ色で笑っちゃうよ。まあ神降ろし出来るくらいの力のある家だから、血の力も強いんだろうねぇ」

何を思い出したのかクスリとピンク頭神は笑うと、少し大きめの声を出した。

「ねえちょっと、みんな聞いてたんでしょ?どうしよう?これ」


 すると何処からか声が響いた。

女性の声の様だ。

「どうするも何も…早く元に戻してらっしゃい。本当の元の所にね」

まるで捨て猫の様な扱いのそれを聞いたエルは慌てた。

「ちょっと待って!元に戻すの待ってください!だって!だって今まで孤児だったのに急に家族って言われても!私ももう養護院のみんなが家族みたいだし!…急に困るって言うか…それに今更あっちも困るんじゃ」

「じゃあ養護院に戻る?その髪色と目の色で?すぐに見つかって新たな敵がやって来るか、公爵家かどっちが先に来るか分かんないわよ?」

無碍もなく女性の声もばっさりとエルの言葉を斬る。


「あ!ならもう一度指輪を!」

更に慌てたエルの発言を、これにはピンク頭神がチッチッチと人差し指を振って答えた。

「それは俺が壊しちゃったし、神の道具は禁止されちゃってるからもう作れない」

「何で!」

「何でさ!むしろこっちが何でって聞きたいよ。本当の家族のとこに戻りゃいいじゃん!」

「だって…」


だって、多分ガッカリされる。


 今まで浴びてきた罵る声を思い出して、エルは肩を落として小さくなった。


 その時エルが目線を感じてふと顔を上げると、そこには白く短いクルクルの癖毛を持つ女の人がいつの間にか立っていた。その人はまるでふわふわの白い羊を頭に乗せているかの様だ。


「貴女…」

眠そうな目でエルを見る女の人は、声からするとさっき話をした姿無き女性の神とは別らしい。

「貴女、何か…祈りを…持ってい…る…わね。それ…元の居場所に戻れ…ば叶うわよ」

「え!?」


 エルの祈りといえばケリー先生の事だ。

椅子から勢い良く立ち上がったエルは、胸の前で指を組んで羊の様な神を見上げた。

「ケリー先生を死者の列に加えてもらえるんですか?」

「う…ん…元々その者は…ちゃんと列…に並んでいるわ。でも…人の世で言う名誉は…貴女が正しい場…所へ戻る事によって正される…と出ているわ」

「この神は運命を司る神だからね。この神様が言うならそうなるぞ」

ヒョコっとピンクの頭が飛び出してきて説明を加えてくれた。


「貴女は…正しい流…れから指輪の力で無…理矢理外されて…正しい流…れ以外のもの…を学ばされ…たのね…真逆のものを」

「なるほど、そういう『学習』か。誘拐犯は単なる色変えに使ったつもりだったんだろうがなぁ…たまたまとは言え上手くいったもんだ」

「そう…だから元…の流れに戻…る事…が自然。歪み…も直す…事が出来る」

「私が歪み?」

「とても…とても小…さい歪み。でも貴女の…今ま…での苦労に報うな…ら私は…貴女に戻…るべきと予言…を込めてア…ドバイスする」


 エルが見つめる運命の神の瞳は、真横の瞳孔の周りは様々な色合いが不思議に入り混じりながら、水に浮かぶ油の膜の様にゆらゆらと揺れていた。

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