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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
17/59

17

「呪いの指輪?…って何?」


 あれからエルとピンク頭神を取り囲んだ人の渦は、神が街角に降臨したとの噂と、あまりの人混みに何事があったのかと野次馬が野次馬を呼び大混雑となってしまった。

それでピンク頭神がここは祈りが煩いと言ってエルを連れてひとっ飛びしてしまっていた。


 それで落ち着いた先は何人もの人が居るような気配は感じるが、駄々広く薄暗いがらんとしたスペースだった。

部屋の果ては見えないが、見える範囲にはぐるりと円状に太い柱が等間隔で何本も立ち、その前に一つずつ椅子が置いてある。

その遠くには薄いカーテンが見えないほど高い天井から幾重にも吊り下がっていて風も無いのに揺らめいていた。

ピンク頭は円の中の一つの椅子に座り、相変わらず指輪を眺めている。


「どこかにほいっと行きおったと思ってたら、漸く戻ったか。また珍妙な土産まで持ち帰って」

椅子に座るピンク頭の前に所在なく立っていたエルは、不意に背後から声が掛かり、その声にビクリとして振り返った。


 振り返ったエルの真後ろには、いつの間にか引き摺るほどの長い黒髪の男性が立っていて、その男性も指輪を睨みつけるように見ていた。

「ああ、お帰り!ねえねえ見てよこれ!随分と懐かしい品だろぉー?

ちょっと遊び行ったらこれの気配感じて、まさか!と思ったよ。あの時全部潰したと思ってたんだけどねぇ」

ピンク頭神はチラリとも黒髪の男を見ずに答えた。

間に挟まったエルはどうしていいのか分からず、戸惑いつつ二人の会話を聞いていた。


 漸く挙動不審のエルに気付いたように、黒髪の男がエルを見た。

「それで?これは?」

無視されるのも困るが、見知らぬ男性に意識を向けられるのも怖いエルは固まってしまった。

「あはは!それがさぁ聞いてよ!

これを!形見だって!それは大事ぃーにして首からぶら下げてたんだよ、そのお嬢ちゃん」

「ほう…それは…また…」

さもおかしな事をしでかしたかの様にそう言いつけられて、急に恥ずかしくなったエルは下を向いた。

だが意を決して顔をあげて黒髪の男に声を掛けた。

「あの!ここは何処ですか?貴方も誰ですか?そこの…ピンク頭の人が神様だって言うんですけど本当なんですか?」


 今度は黒髪の男が表情を変える番だった。

「お前!この者に何も言わずにここに連れて参ったか!大体なぜ生きる人間をここに連れて参った!?」

急に怒り出した黒髪の男に自分が怒られたかの様にエルは肩を竦ませて怯えた。

「いやいや…其方に怒った訳では無い。いちいちそうやって怯えるでない」

慌ててエルに気を遣ってくれる所を見ると、黒髪の男は根は悪い人ではないのかもしれない。


「だってさあ、あっちで話そうにも人間が集まり過ぎちゃってごちゃごちゃ頭の中が煩かったし、これについてみんなと話したかったし、とにかくこのお嬢ちゃんにも説明しなくちゃいけなかったし。

ほらここに連れてくれば全部一回で終わるでしょ?合理的判断ってやつ」

黒髪の男に説明を終えると、ピンク頭神はエルに向き直った。


「で、お嬢ちゃんのお名前は?」

「え…と、エル…その指輪の読める文字がLだけだったからそれから名前付けられたって」

「なるほどね。確かにこれは『学習』の指輪だからね。Lの字は使われているね」

「学習?」

「そう。昔むかーしはもっといろんな指輪があったの。他の形をとった道具もあったけどね。

何故かこんなのを暇人の中でいろんな技法で作るのが流行っちゃったんだよね…あ、人じゃないか、暇神か。

でもそのブームが加熱しすぎてね、それぞれが俺が作る道具が一番だとか競い合う様になっちゃってさ。そんでそのうち禁忌を犯す馬鹿も出たし、流石にこれはと思った主神が禁止だって言ってもこっそり内緒で作る阿呆も出た。

その競い合いが原因で何神も堕ちていったよ…それが昔むかーしのお話だ。

当時俺らも根こそぎ探し出して回収して、全部壊したつもりだったんだけど、取りこぼしもあったんだろうなぁ。

てかコレがあるって事はまだ残ってるのもあるって事かなぁ?かぁー!めんどくせえけどもう一回浚うかなぁ」

エルに語っていたピンク頭は、最後はもう独り言の様になり、地団駄を踏みながら頭を掻きむしっていた。

「確かに念には念を入れてその方が良いかもしれぬな」

黒髪の男がピンク頭神の言葉に頷いた。


「ああ話が逸れちゃったけど、そんでここは神の庭。人間に伝わってるのとイメージ違うだろうけどね。

ここに入れるのは基本は死者か神様だけって事に一応なってる。

流石にあっち側まで見せれないけど、カーテンの向こう側が死者の列が出来てるとこ。そんでこっち側が神専用スペースね」

それを聞いたエルは言われた意味が理解出来るまで暫く時間が掛かった。


え?神の庭?

私そんなとこにいるの?

え?神様専用スペース?

え?…っていう事は…?


 バッとエルは黒髪の男を見た。

「貴方も神様…なの?」

「その通り、十三神の一柱であるよ。名はゼンと申す」

ポカンと口を開けてエルはゼンと言った神をマジマジと見てしまった。


 確かに死んだ人が行くという神の庭は、広々とした光眩い緑の園かと思っていた。ここはどちらかと言えば建物の中っぽいし、神々の休憩所や会議室の様に見える。

神の庭という所は、死者が寛ぐ場ではなく、死者が神と相見える事ができる場というのが実際のようだ。

今回、エルは死者では無いが、ここが神の領域の中で人間を連れてこれる限界の場所だったのだろう。


 そこでエルは話の本流を思い出して、ハッとした様にピンク頭神を見た。

「で…学習の指輪って結局何なんですか?」

ピンク頭神は頭をガリガリと掻きながら、嫌そうに答えた。

「あの奇天烈な道具の中では比較的まともな部類の道具ではあるみたいだけどねぇ…って言っても比較対象は神の道具の中ではだからね!

で、そんでこれはその名の通り学習させる指輪だ」

「学習させる?」

「語学だったり料理だったり生活だったり…うーん、どうやら解読すると指輪が選ぶ内容は多岐に渡りそうだなぁ。

お嬢ちゃんの場合は何だったんだろうねー?

姿まで変えちまうくらい強制的に学習させられてたみたいだからなぁ」


 指輪を中身まで見通す様な目で眺めていたピンク頭神が不思議な事を言ったが、エルはもう聞いた事をオウム返しする事しか出来なかった。

「変えるって?」

「おや?まだ気付いて無かったかい?指輪がお嬢ちゃんの身から離れたし、俺が指輪の回路を壊したからか、お嬢ちゃん大分変わったよ?

いやー、それも違うか。元に戻ったってのが正解か」

そう言いながらピンク頭神が空中に四角く指を走らせた。


四角く切り取られた空中は小さな鏡となり、それが大きくなってどんとエルの前に置かれた。

「何これ!?」

エルがそれを覗き込むと、汚い格好はそのままだったが、長年慣れ親しんだ色がまるで変わっていた。


 今朝もゾーイ婆に結んでもらった茶色いお下げが薄い水色になっている。眉毛もまつ毛もだ。

薄茶色の瞳の色は金色になって、まんまるの目が鏡の中でこちら側のエルを見返している。

「何かを学習させるために強制的に変えられてたのであろうな。しかもこの色合いは…」

「ああ、こりゃ変えないとすぐ見つかっちまう色だな」

未だ動揺しているエルと違って、神々には全てお見通しらしい。


「ど、ど、どう言う事なんですか!?嘘!?こ、これ元に戻りますか?」

ぶら下がったお下げを掻き寄せる様に直に見てみても、鏡で見た通りの薄い水色の毛束になっていて、エルは混乱の極地にあった。

「だからそれが本来のお嬢ちゃんの色なんだってば。

お嬢ちゃんは指輪をずっと肌身離さずいたし、離れても多少の距離では影響受け続けて色が変わっていたんだろうけどさ。

だけど指輪も壊しちゃったからずっとお嬢ちゃんはその色のままって事」

それを聞いて呆然と立ち尽くすエルの肩をポンとゼン神が叩いた。

「其方、大丈夫か?色々ある所を申し訳ないが、更に其方の身元が分かると思うのだが、それも聞きたいか?」


 半開きになったままの口元を戻すことさえ出来ないエルであるが、身元とは、この機会に絶対に聞かねばならない事であることは分かる。

神の降臨に立ち会う事もであるが、この様に人の身でありながら、生きて神の庭に呼ばれる事は二度と無いであろう。

ごくりと息をを飲んだエルはなんとか言葉を絞り出した。


「は…い。聞きたいです」

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