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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
14/59

14

 とうとう祭りが始まった。

エルは供物所のテントの中にいたので見えはしなかったが、ここの領主様と教会の偉い人たちが何処かで神様を呼ぶ儀式をして、広場で祭りの開会の挨拶をしたらしい。その瞬間に音だけの花火が数発上がった。


 その音に飛び上がるほど驚いたエルを見て一頻り笑ったゴードンは、後は頼んだぞと言って受付へ向かって行った。

そこで受け取られた供物を、先日同様、棚に並べていくのがエルの仕事だ。

既に所狭しと並べられている中に、更に届いた品物を倒さない様に並べていくのは、小柄なエルが一番上手だった。

中には重たい果物のカゴやお酒などもあったが、それらは大人達が担当してくれた。

その人達は話し掛けてきたり、エルに積極的に関わろうとしてくることはないが、嫌味を言ったり意地の悪いこともしてこない大人達ばかりで安心して働く事が出来た。


 作業にもすっかり慣れ、要領を得てせっせと働くエルに誰かが声を掛けた。

ゴードンさんからの伝言で、次の鐘が鳴るまで休憩に入って良いとのことだった。あっという間だったが気付けば昼まで1時間ほど前で、もう随分長い時間働いていた様だ。

知らず浮かんでいた汗を拭いながら、エルはテントから出た。


 朝一番にテントに入ってから、祭りが始まっても外に出ていなかったエルは驚いた。

「うわぁ!凄い人!」


エルザが言っていた通り、こんなにこの街に人が住んでいたなんて!


 親子連れや友達同士、恋人同士と思われる人たちが連れ立って通りを練り歩き、ひしめき合っている。エルも何とかすれ違える事ができるくらいの人混みだ。

多くの人が晴れ着や一張羅に身を包んでいるので、街中の飾り付けと相まって、視界の全てが一層華やかに見える。

大通りの両脇や広場をぐるりと囲んで物を売る屋台が建っている。

もちろん朝から皆準備していたので店が立つのはエルも知っていたが、品物はまだ並んでいなかったのでどんな店が立つのかまでは全く分からなかった。


 タレ付き肉を焼くような香ばしい良い匂いが辺りに漂う。

匂いを感じた途端ぐうっとエルに腹が鳴る。

墓参りのあの後、ケビン爺からも小遣いを貰ったのでエルの昼飯は屋台で買うつもりでいた。だがその前に先生の墓を飾る品々を買いに行く事かねばならない。

エルザからも良い物から先に売れていく事を聞いていたので、さっさと買い物を済ませてしまった方が良いだろうと考えたのだ。


 つい食べ物に気が向いてしまうが、エルは何とか目を引き離し花屋を探して歩いた。

何軒か花屋はあったが、お供え用の切花や晴れ着を飾るコサージュばかりでなかなか苗を扱う店は無かった。

それでも数件花屋を巡ると沢山の小さな鉢植えを扱う店を見つけた。何処かの花農家の出張販売の様だ。


「あのう…」

「はい、いらっしゃい!」

エルが恐る恐る声を上げると、日に焼けた元気なおばさんが答えてくれた。

「お嬢ちゃん何かお探しですか?」

意地悪な大人たちに汚いと言われてしまった服装は、少ない手持ちの中で一番綺麗な服を探し、髪の毛はせっかくのお祭りだからとゾーイ婆が三つ編みにしてくれた。

そんな努力のおかげか、お店の人に普通に接して貰えてエルはまずはホッとした。


「私、花壇を作りたくて…あの…ブルーデイジーというお花はありますか?」

ドーンとケビン爺には墓の前でああ言ったが、エルは実際の花を見たこともない。だからどうやって探したら良いのかも分からなかったのだ。

ここにきて珍しくて手に入りにくい花だったらどうしようか心配になってしまい、エルは内心でどうか扱いがあります様にと祈った。


 おばさんは笑顔のまま、ああ!と言い、ちょっと待っててねと店の端からコンテナを持ってきた。

「このコンテナに入ってるの全部ブルーデイジーよ。幾つか売れちゃったけど、全部で…えーと、8個苗があるわね。苗は小さいしまだ花はないけど、これからどんどん咲くわよ。幾つ持っていく?」

花畑を作るには苗はいっぱい欲しいが予算というものがある。

「あのう…これって一つ幾らくらいするのですか?」

「そうねぇ、じゃあ今日はお祭りだからお嬢ちゃんにオマケしちゃうわね」

そう言いながら教えてくれた金額は、エルが覚悟していた金額よりも全然安い価格だった。それなら全部買って行ってもお釣りが出るくらいだ。


 パッと笑顔になったエルは大きな声で「全部下さい!」と言った。

「ハイハイ、毎度あり!」と笑顔を返してくれたおばさんは丁寧に一つ一つを新聞紙に包み、エルが運びやすい様に袋に入れてくれながら、育てるコツやうまく育てればどんどん増えることを教えてくれた。

受け取った袋はエルには少し重かったが、それでも一つ先生の願いが叶えられた事を嬉しく思ってそれすらも気にならなかった。


 おばさんに礼を言って店を出ると、エルは次にお墓のシンボルになる物を探す事にした。

それがどんな物が相応しいのか検討もつかないが、墓石代わりになる物が欲しいと思う。

おばさんのおまけのお陰で大分予算には余裕がある。上手くいけばドーンにお釣りを返す事が出来るかもしれない。


 片手に苗の入った袋を下げ、片手で胸元の指輪を弄りながら人混みを避けつつ店を覗く。早くしないと休憩時間が終わってしまい昼飯を食いっぱぐれてしまう。

少し慌てながら見ていない屋台を探す。

エルザの言っていた眩いアクセサリーや綺麗なリボンのお店もあったが素通りだ。


 美味しそうなパンの店を苦労しながら通り過ぎると、そこには石の彫り物や焼き物で作られた人形を扱う屋台があった。

エルがふと足を止めると、吸い込まれる様に一つの人形に目が行った。


 綺麗な女の人が赤ちゃんを抱っこしている。その顔に先生の面影がある様な気がしたのだ。

近寄ってよく見ても、小ぶりで色付けされていない真っ白なその陶器の人形は優しい笑顔で赤ちゃんを見つめている。


 どうしてもその人形が欲しくなったエルが店のおじさんに値段を聞くと悩む様な金額だった。

ドーンに貰ったお金では足りないのだ。だがケビン爺に貰ったお小遣いを足せば何とか買える。

邪魔そうに睨みつけるおじさんの前で暫く悩んだ後、エルは結局その人形を買うことにした。

エルのお昼ご飯は我慢すれば良いが、この人形が誰かに買われてしまうのが嫌だった。


 エルは小銭ばかりの支払いを済ますと、おじさんにしっしと追い出される様に屋台から出た。

感じの悪い接客態度には少し傷ついたが、思いがけず良い買い物ができて満足だった。

これで先生の良いお墓が作ることができる。

お花の管理は難しいかもしれないが、エルは毎日頑張るつもりだ。


 青く揺れる沢山の小さな花の中に、白くて優しい小さな先生が笑っている所を想像するだけでエルの口角が上がってくる。


 相変わらず腹の虫は泣き叫んでいるが、最初の鐘が鳴り出した中、包みを抱え直してエルは供物所のテントへ向かって走り出した。

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