表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
13/59

13

 翌日、院長が帰ってきていない事を確認し、一応見張りとしてジンとエラ兄妹を馬車の出入りの見える玄関周りに配置して、エルはドーンに連れられて先生のお墓に向かった。


 ケリー先生のお墓の作られた場所は、建物の裏手にあり、畑や日よけとして残された大きな欅の近くからも離れた場所にあり、これから開墾されたとしてもうっかり掘り起こされる恐れも、欅の根っこのせいで掘るだけでも大変にならなそうな色々と考えられた場所にあった。この短い期間でよく見つけたものだ。


 二人が近付くとその場所には誰かが既に立っていて、よおと振り返ったその人はケビン爺であった。

たたたとエルが走り寄ると、ケビン爺はエルをヒョイと抱っこした。

「ケビン爺!ケビン爺もドーンさんとケリー先生のお墓作ってくれたの?」

エルが顔を覗き込みながらそう問うと、ニッコリとケビン爺は笑った。

「おうよ。あの先生はみんなにいい先生じゃったもんのう。俺だって色々世話になったもんじゃ。だから最後くらい神様に逆らったって良いんじゃねえかって思っての。俺なりの弔い方させてもらう事にしたんじゃよ。

神様だって多分祭り前で忙しいから、ちぃっとばかり地面掘り返したくらいきっと気付きやしないじゃろうよ」


 ケビン爺の言葉を聞きながら足下を見やると、土が掘り返された跡があった。

「何か埋めたの?」

「ああ、一応は墓じゃって言っとるのにただの空っぽじゃ可哀想じゃからな。先生に関わる物を棺に入れて埋めてやったのじゃよ。先生があっち行っても困らない様に後追いでも荷物送ってやらねばのう」

エルはそれを聞いてなるほどと思った。

頭上で大人達が目配せしあっている事など気付きもしない。


 ケビン爺に降ろしてもらうと、埋め戻しされ、まだふかふかしている地面の際ギリギリに膝を突き、エルは指を組み合わせた。

それをおでこに当てると一生懸命に先生に話しかけた。

教会に逆らって内緒で作ったここは、お墓に見せてはいけないので花を供える事すらできない。祈りで気持ちを送る事しか出来ないのだ。


 せめて先生に届く様に、今までの感謝と先生が居なくなって寂しい気持ちを伝えたい。

先生への沢山の礼と共に死者の国を司るという何とかと言う神様にも、どうか先生を受け入れてもらえる様にも祈った。

一心不乱に祈っているとエルは胸がムズムズする様な感覚がして、涙が次々と溢れてきてしまった。つい先日までエルの近くにあった、先生の笑っている顔が思い出されてどうしようもない。


 すんすんと鼻を鳴らしながら立ち上がり、涙を拭くと、大人達を振り返った。

困った様な顔をした二人だったが、ドーンが口を開いた。

「でだ。先生を送る準備はこれで終わりだが、これじゃさっぱりしすぎで、次に墓参りしに来た時に何処だったか分かんなくなりそうだろ?だからエルに後を任せたいんだ」

ドーンは開いた手で掘り返された一帯辺りを指し示した。

ここは院の土地ではあるが、その先の原っぱとの境界線すら無い、何も利用されて無いただの空き地だ。


「見ての通り、何かの邪魔にもならなそうな場所を選んだからな。花植えるとかしたって良い。花壇を作ったでも言っときゃ誤魔化せるだろうし、何よりうっかり足を踏み込みにくくなるだろ。事情知らない奴だろうとあんま墓の上を誰かにズカズカ歩かせたく無いからなぁ」

「確かにそうじゃのう。避けて歩きたくなる様な工夫が必要じゃのう」

「それ私がやって良いの?」

「おう、ヘナと一緒にでもやっても良いさ。大変な作業はジンにでも手伝わせろ」

「俺も手伝うぞ。どうせ内回りしかできんジジイだからの。暇はたっぷりあるぞ」

そう言いながらケビン爺はエルをまた抱っこして涙の跡を袖口で拭いてくれた。


 エルはふとある日のケリー先生との会話を思い出した。二人で字の勉強をしていた時に、挿絵にあった青い花の名前をエルが聞いた時の事だ。

それは雑な絵だったが、先生はブルーデイジーという花ではないかと言った。小さい花は可憐で、豪華ではないがそれでも綺麗な青い色が目を引く、先生が大好きな花だと言っていた。


「じゃあ私、お花植えてあげたいわ!ケリー先生お花好きだったもの。今度院にも一緒にブルーデイジーってお花を植えましょうって約束してたの。お花も可愛いんだけど、筋が入った葉っぱも可愛いんだって先生が言ってたわ。そのお花がいっぱい咲いたお庭を見た事があったんだって!また見たいって言ってたの」

「そりゃあ良いな。祭りには花屋が沢山店を出すからそこで買ってくりゃあ良い」

そう言ったドーンは布袋をエルに渡した。

ケビン爺に抱っこされたまま、ジャラリと音がするその袋を受け取ったエルは不思議そうにドーンを見た。

「大した金額入ってねえけど、幾つか花の苗買っても少しは余るだろ。それで他にもなんか良いもんあったら買ってこい。先生にお前らしい墓作ってやってくれ」


 このお金はドーンが今まで働いて稼いできたお金のほとんどを院に渡しながらも作ってきたへそくりだろう。

ぎゅっと貰った布袋を大事に両手で握りしめたエルは大きく頷いた。

「祭りの間はスリも増えるからの。ちゃんとしまっておくんじゃぞ」

真横からケビン爺の声がしたので、今度はそちらを見てエルはまた神妙な顔で大きく頷いた。責任重大だ。


 もう一度先生のお墓を見ると、エルは先生に心の中で素敵なお墓にしますからねと伝えた。

先生をいつか見たという、沢山のブルーデイジーの中で眠らせてあげたい。


 エルはふと、そこに風に揺れる青い花の群生が見えた様な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ