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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
12/59

12

 翌日、役場前の広場では、仕事をする人数がだいぶ減らされていた。

祭りの日も近くなり、供物台やテントなど作り上げるものはあらかた出来上がったので、まだ人手が必要な他所の現場に数人回したとゴードンが教えてくれた。

それによって前日にゴードンが言っていた通り、あの嫌な人たちの顔が無くなっていたのだ。

ゴードンを疑っていたわけでは無いが、エルはテントを恐る恐る覗き込んで、彼らがいないのを自ら確認してかなり安心した。


 供物台が出来上がったのを見越した様に、街の人たちから徐々に供物が集まってきた。

まだ祭り前なので、日持ちがする様な乾物や造花が主だ。

大きな商店からは大きな花輪が何個も運び込まれ、供物所の入り口を飾り、それを見た街の人が供物所が完成した事に気付き、それぞれ供物を運び込むきっかけとなるという宣伝効果を齎していた。

次々と持ち込まれるそれを、身の軽いエルが踏み台などに乗って渡される品物を指示通りの場所に並べていった。

がらんとしたただの棚だったものが段々賑やかになっていき、華やかになるにつれエルもワクワクとしてきた。


 夕刻に差し掛かる頃、まだまだ台の上には隙間はあるものの自分の仕事が完成しつつある事に満足しながら、ドーンの迎えの荷馬車に乗り込んだ。


「祭りの準備もほぼ終盤だなぁ。もう明後日だもんなぁ。全く早いもんだ」

商店街に飾り付けられた花飾りを見上げながら、ドーンもご機嫌そうな顔を見せる。

ドーンは祭り前の高揚感以外にも良い事でもあったのか、なんだかそれは晴れやかな顔に見えて、エルの気持ちも一緒に浮き上がってくる。


「お前明日は休みだろう?祭りで三日間は夜も遅くなるかもしれないから、その前に休ませるって役場の顔役から連絡あったぞ」

ゴードンから明日はゆっくり休んで祭りに備える様に言われていたが、わざわざドーンにまで連絡を入れてくれた様だ。

「はい。明日は主にお酒とか重たい供物が沢山来るみたいだから、私がいた方が邪魔になりそうなのでちょうど良かったです」

「そうか。じゃあ明日、先生のお墓参りに行こうぜ」

思ってもみなかった誘いにバッとドーンの方を向くと、叫ぶ様にエルが言った。

「もう出来上がったんですか!?」

「ああ、我ながら頑張ったんだぜぇ」

鼻高々にドーンが胸を張る。


「あ…ありがとうございます」

エルは震えそうになる声を絞り出した。

「なに言ってんだ、礼言われるほどの事じゃねえよ。俺がやりたかった事をやったまでだ。

だけど俺じゃあ美的センスってのがからっきしねえからよ。明日墓参り行って実際見てから、どういう風にしたら先生が喜びそうな墓になるか考えてくれよ。あからさまに墓ですって風にはできねえけどな」

少し照れくさそうに話すドーンの横顔を見上げながら、明日、ちゃんと先生にお詫びとお礼とお別れを言える事に嬉しく思った。


「明日は祭り前に街の聖堂に教会所属の偉い人たちが集まるらしくて、地区の教父って立場の院長も朝から出かけるっていうんだ。養護院ではトップでも組織内では下っ端だから多分夜中まで戻れないか…いや、祭りが終わるまで院長も帰ってこねえと思う。こりゃあ絶好のチャンスだろう?」

ニヤリと笑ったドーンがちらりとエルを見た。

「ちっとばっかりだけど小遣い持たせてやるからよ、祭りで先生のお墓に置ける様なもん探して買ってきてくれな。これはエルの担当だから任せたぞ」

「はい!がんばります!」


 ポクリポクリと進む荷馬車を引く馬の足音を聞きながら、これから数日続くであろう楽しみが待ち遠しくて、そんな経験のないエルは、どうやって明日までの時間をやり過ごせば良いのかが思いつかなかった。


「ドーンさん、私、明日が待ち遠しいのって初めてです。うわぁ!早く明日にならないかなぁ」

そういえば伝染病の傷跡の深かった街でも貧しい養護院でも、子供も楽しめる様な楽しい催し物などこれまで一切無かった事を思い出したドーンは、幼い子供のそんな言葉に戸惑ったがそれは表に出さずに答えた。

「そうか…そりゃ良かったな。そういやエルは神様へのお願い事は考えたのか?」

「そう言えば…いいえ、まだです」

「なら布団入ってどうしようかなって考えてりゃすぐに明日になっちまってるよ」

そう言って笑うドーンを見上げて、エルはもうお願い事を考え始めていた。だが良いものをパッと思いつかない。


「えっと、時々ゾーイ婆が作ってくれる白いクッキーがいっぱい食べたい…かな。あ…こないだみんなで植えたのに失敗しちゃったニンジンが次は上手くできて欲しい?あ!あれ!みんなの肌着用の布が足りないから欲しいってゾーイ婆達が言ってた!あれ?うーん、こういうの違うの?お願いってどういうのだろ?」

一生懸命に頭を捻り出したエルを見て、ドーンが我慢し切れずに笑い出した。

「ワハハ!いいぞ、そんなんでもなんでもいいんだ。そう思う事で欲しい物を得るために仕事頑張ろうって思うだろうし、みんなの事の為に何が出来るか考えるだろ?

俺は多分それが祈りの根源だと思うんだよ。

助けてって口に出すのも祈りの一つで、それで助けてもらえるのも神の思し召しなのかもしれんしなぁ。

俺はな、とにかく大事なのは希望で、俺もお前も世界中のみーんなが希望を持てよってのが宗教であり、祭りなんだと思うんだよ」


 先程までワクワクとした気持ちが溢れ出た表情をしていたエルは、今はキョトンとした顔でドーンを凝視している。

「ワハハハハ!全く分かんねえってツラをしてるな。

まあいいや、とにかくエルの思うまま神様にお願いしてみな。神様が気が向きゃあ叶えてもらえるだろ。叶わなかったら…まあ自分らで頑張ろうなって話だよ」

そう言ってドーンはエルの頭を鷲掴みにして左右に大きく振った。


 脳みそまでシェイクされそうなぐらい振られながら、エルはお願いを考えるのさえ楽しみになってきて、久しぶりに大きな声をあげて笑ってしまった。

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