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形見じゃなくて呪いの指輪だった件  作者: よしこ
一章
11/59

11*傍流

 下準備はジンが自分の部屋に帰ったであろう時間から更に暫くしてから始めた。


 まずは俺がジンが帰った後に無い頭を捻り絞って考え付いた、今出来る一番いい考えを持ってケビン爺さんの部屋に行った。


 そっとノックすると、今まで寝ていた様には見えない出立ちで爺さんが小さくドアを開けた。

「なんだ」

「遅くに悪いな。ちょっと聞いてほしい話があるんだ。厄介な話なんで中に入れてくんねえかな」

小声でやり取りすると、一度爺さんの姿が消えてからドアが大きく開かれた。入れと言う事であろう。


 ケビン爺さんはジンやヘナを揶揄ったり、エルを甘やかす時にはおくびにも出さないが、ドーンに分かる程度の只者とは思えない身のこなしを時折見せる。

詳しく聞いた事はないし、今後も聞く気すらないが、この爺さんは過去何をやってたんだろうなあと思う事も度々だ。


 ベッド以外、物のほとんど置かれてないがらんとした室内の椅子に座る様に促される。

「なんか飲むかい?」

「ありがてえが、これからの事を考えるとゆっくりしてる暇がねえんだ」

どう言う事だ?と言う表情で、爺さんが片眉を上げる。


「さっきなあ、ジンが俺の部屋に来たんだ。ケリー先生の件だったよ」

「お前、子供らに首を突っ込ませたのか」

小さな怒りを含んだ声の爺さんに、とんだ冤罪だなと俺は苦笑する。

「まさか。だがエルが院長とケリー先生の喧嘩を見てたらしい。それを聞いたジンが俺に伝えにきた」

「喧嘩だと?」

「ああ、エルの聞き齧りだから大した情報はねえ。だが多いとか何とか言ったケリー先生に院長がキレたってよ」


 背をそらしてケビン爺さんが腕を組んだ。

「そりゃあ…」

「ああ、多分金だろうな。あの若いのが来てから随分とここでの生活もカツカツになっちまった。疫病の時ですら、減らされたとは言えそれなりの援助はあったんだ。おかしいなぁとは思ってたんだ。だが、まあ最低限の生活は出来てるし面倒はごめんだから文句は言わなかったけどな」

俺はガリガリと首の後ろを掻きむしる。


「だがケリー先生は何だって…」

「先生はあの暗殺騒動の首謀者だって言われてるだろ?

そんで院長もありゃあ実は貴族の出身だ。男爵んとこの三番目だか四番目だか…だったかな?だからあいつ最初っから個人的にケリー先生の事知ってたんじゃねえかなぁ」

「ああ、騒動ってあれか…婚約者にちょっかい出した女を殺そうとしたってやつじゃったか」

爺さんは遠くを見る様な目をした。

俺だって生身の先生を知れば、あんな事件の人間と同一人物である事を忘れてしまっていた。何なら陰謀か冤罪だったんじゃないかとも思っている。


「院長が脅したか、逆に優しくするなりして色で引いたか…まあそんな事はどうでも良いか。単純に考えて便利に裏金作りを手伝わせていたが刃向かわれて…という可能性が出てきた訳か」

「自殺に見せかけりゃあ、多くの人目に触れる厄介な葬式もしねえで棺桶に入れて蓋出来る。更にさっさと燃やしちまえるしお手軽だ。そりゃいそいそと教会に報告するよな」

「考えとしてはあり得るな」

「証拠も何もねえから騒ぐこともできねえし、むしろ騒いでじゃあなんで院長を疑うんだって話になったらエルの名前を出さなきゃならなくなる。それだけはまずいだろ?」


 誰に憚ることなく、エルを猫可愛がりしている爺さんが眉を逆立てて言った。

「当たり前だ!人一人殺してるかもしれん奴にエルの名前を出すなど、ワシが許さん!」

「分かってる、分かってるから落ち着いてくれ」

そこで俺は一度椅子を座り直して、そろそろ痛くなってきた尻を置き直した。


「だけどよう、やっちゃいけねえ事に関わったとしても、このまま自殺って事で燃やされてしまう先生が気の毒でな。子供達も落ち込んでたし。

そこで爺さんにも手伝ってもらいてえ事があるんだ。時間がねえから今晩中にだ」

「っておい、これからか?」

「そうだ。明日には燃やされちまうからな」

「…もしかしてすり替えか?」

「流石、養護院の知恵者で生き字引だな。察しがいい」

満足気な俺の言葉を聞いて、爺さんは肩を落として背中を丸めた。


「そんな分かりやすいおべっか使ってんじゃないわい…しかしすり替えかの」

「ああ、子供らの為にも、まあ俺の気持ち的にも…あの可哀想な先生をちゃんと葬ってやって墓を作ってやりたくてな。何よりあのいけ好かねえ院長に一矢報いてえ」

「まあの、確かに子供らを大事にしていた先生であったな。ここでジジイからもその礼を返すのも良いかもしれんの」


 爺さんはそう言って立ち上がると顎をドアに向けた。

「そうと決まれば行くぞ。物置に疫病の時期にすぐに納められる様にと幾つか棺の予備が準備されておったはずだ。それを使うぞ。

それとお前は厨房に寄って残飯バケツを持ってこい。丁度昨夜デカい牛の塊が寄付されてきてたからの。

デカいのはありがたいが、人にやるもんだからと面倒がって骨付きのまま持ってきやがったとゾーイが怒っておったから、まだ残っておるだろう。その中にはダミーにちょうどいい骨もなんぼかあるだろうよ」


 これには俺だけでは考え付かなかったアイデアをくれる爺さんに、声を掛けて本当に良かったと思った。

最悪今晩中に箱を作って先生をそこに移すつもりでいた。棺の予備があるなら大分時間短縮出来そうだ。

行き当たりばったりでどうにか誤魔化そうとは思っていたが、骨まであるなら明日燃やした灰を持ち帰る教会の人間にも疑われずに済みそうだ。


 それから爺さんと俺は先生の棺をそのまま違う建物に移動し、その後倉庫にあった棺を聖堂へ運び込むと埃を払い磨き上げ、牛のちょうど良さそうな骨を納め、重さで疑われない様に木材も詰め込み、蓋に釘を打った。

これら全てが終わる頃には夜が明ける寸前だった。


 大きなあくびをしながら爺さんと別れると、ベッドに転がって窓の外を見た。明るさから見ればまだ少し眠れそうだ。

俺は枕の上で頭の後ろに手を組むと鼻歌が出そうになった。体は疲れたがいい気分だ。ザマアミロってやつだ。


 だがあの院長にこれ以上良い様にされるのはごめんだ。

出来るだけ早急に先生の墓を作るのも、あの院長を密かに探るのもきっと骨が折れる事だろう。

だが俺はあいつらの父ちゃんだ。

子供たち三人の顔が浮かぶ。

あいつらの為になる事はやらなきゃならない。


 寝坊だけはしない様に、出来ればゾーイ婆さんが気を利かせて起こしに来てくれる様にと祈りながら、枕をちょうどいい高さに整え直すと俺は一眠りする事にした。

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