個別支援の限界ー悠斗の決断
悠斗は、松田屋の支援を考えながら、一つの壁にぶつかっていた。
「個別の店を支援するだけじゃ、根本的な解決にはならない。」
松田屋の売上を上げる方法はいくらでも考えられる。
SNSの活用、新商品の開発、PR活動——。
でも、それでは「潰れそうなお店の子」と言われる航太の悔しさを、本当の意味で解決できるわけじゃない。
「もし、松田屋の売上が一時的に戻ったとしても、商店街全体の流れが変わらなければ、また同じ問題が起こる。」
悠斗は、夜遅くまで商工会の会議室で考え続けた。
「……なら、商店街全体を変えるしかない。」
「一店舗ずつ支援するんじゃなくて、商店街に人を呼び戻す仕組みを作るんだ。」
悠斗は、机に向かい、何枚もの紙にアイデアを書き出した。
「桜川マルシェ」——商店街に人を呼び戻すためのイベント。
「祭りみたいなイベントを作れば、家族連れも来る。」
「商店だけじゃなくて、農家や職人ともコラボすれば、幅広い層にアピールできる。」
「ただ買い物するだけじゃなくて、体験型のブースも作れば、SNSでも拡散されやすい。」
次々とアイデアが形になっていく。
悠斗はもう一度、松田屋を訪れた。
航太は、カウンターの隅で宿題をしていた。
「航太。」
「ん?」
「……お前のお店だけじゃなくて、商店街全体を元気にすることにした。」
「そしたら、松田屋も、ほかの店も、お客さんがたくさん来てくれるようになると思う。」
航太は、少し考えて——
「そしたら、もう『潰れそうなお店の子』って言われなくなる?」
「……そうだな。」
悠斗は、優しく航太の頭を撫でた。
「大丈夫だ。お前の店も、商店街も、絶対に潰させない。」
航太の瞳が、少しだけ明るくなった。
「じゃあ……僕も手伝う!」
「え?」
「だって、僕のお店のためなんだから!」
航太の真っ直ぐな言葉に、悠斗は思わず笑ってしまった。
「よし、じゃあ一緒にやろう!」
こうして、「桜川マルシェ」は、単なるイベントではなく、「商店街の未来を取り戻す」ための戦いとなった。
そして、航太のためにも、「潰れそうなお店の子」なんて言わせない未来を作るための、一歩だった。