潰れそうな、お店の子
経営指導員になって数ヶ月経った頃。
悠斗は、商店街の現状をもっと知るため、定期的に店主たちと話をするようになっていた。
ある日、商店街を歩いていると、
小さな和菓子屋「松田屋」の店先で、ひとりの少年が店番をしていた。
彼の名前は、松田航太。
小学4年生で、店を営む松田和夫と、母の美沙と暮らしていた。
航太は、店先でチラシを配っていた。
必死に呼び込みをしていたが、商店街にはほとんど人がいなかった。
通り過ぎる人も、無関心な様子で誰も足を止めなかった。
悠斗は、航太が持っていたチラシを受け取った。
「頑張ってるな。」
「うん! お父さんのお店、もっとお客さんが来たらいいなって思って!」
航太の笑顔は眩しかった。
だが——
悠斗は、次の日も商店街を歩いていた。
すると、松田屋の店の奥から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「……どうした?」
店の中を覗くと、航太がテーブルにうずくまって泣いていた。
「航太、どうしたんだ?」
悠斗が優しく尋ねると、航太は顔を上げ、涙目で言った。
「学校で……友達に……」
「潰れそうなお店の子って言われた……。」
悠斗は、息をのんだ。
「……そんなことを?」
「『もうすぐお店がなくなるんだろ?』って……」
「『貧乏だから、お菓子も買えないんだろ?』って……」
「……僕、お父さんのお店、なくなってほしくないのに……」
航太は、涙をこらえながらつぶやいた。
悠斗の胸に、過去の自分の影が静かに滲んだ。