焼き尽くされた希望、そして忍び寄る試練
「おい、森田!!」
騒がしい人波の中、田中茂の怒鳴り声が突き刺さるように響いた。
ただならぬ気配に、悠斗はすぐに走り寄る。
「どうしたんですか!?」
田中は額に脂汗を浮かべながら、焦燥と怒りを隠せない顔で叫んだ。
「……倉庫が……! うちの店の裏の倉庫が、放火された!!」
「なっ……!?」
瞬間、悠斗の背筋を冷たい何かが這い上がる。
空気が凍りついたような静寂。
遠くで何かが爆ぜる音がした。
悠斗は田中と共に裏手へと走った。
その先に見えたのは——
立ち昇る黒煙と、真っ赤な炎に包まれた古びた倉庫の姿だった。
「火事だー!!」
「水! 誰か水を!!」
叫び声が次々と上がり、バケツや消火器を持った人々が集まる。
しかし火はすでに勢いを増し、近づくのも危険なほどだった。
消防車のサイレンが遠くから鳴り響き始める。
しかし、それが到着するまでの数分が、永遠に思えた。
「なぜ……どうしてこんなことに……!」
悠斗は震える声で呟いた。
火の揺らめきが瞳に映り、怒りと悲しみと恐怖が、心の奥底から沸き上がる。
それは、まるで誰かが希望そのものに火を放ったかのようだった。
秋山が駆け寄ってきた。
「悠斗! これって、まさか……三浦さんが……?」
悠斗は拳を強く握った。
「わからない.....。」
視線の先には、どこかの屋上から静かにこちらを見下ろす“影”があった——
それが幻なのか、現実なのか、判別もつかない。
だがひとつ確かなのは、
桜川マルシェの成功を許さない者が、最後の一線を越えてきたということだった。
桜川マルシェは、成功の歓喜のなかで、最も過酷な試練を迎えようとしていた。
——すべてを焼き尽くす“炎”の中で、
悠斗と商店街の人々は、何を選び、何を守るのか。
次なる物語が、静かに動き出していた。