プレイベントの歓喜、そして迫り来る嵐
プレイベントは——大成功だった。
朝から準備に追われていた商店街に、ついに訪れた晴れ舞台。開幕の合図とともに、人の波がどっと流れ込んだ。
久しく聞こえなかった子どもたちの笑い声、品定めする主婦たちの会話、老夫婦が懐かしむようにゆっくり歩く姿——。
商店街全体が、まるで時を巻き戻したかのように、生き返っていた。
「おい、見てみろよ……!」
「こんなに賑やかな商店街、何年ぶりだ……?」
「本当に、商店街が蘇るかもしれないな……!」
涙ぐみながら笑う声、誰かの肩を叩いて喜び合う店主たち。
その一人、田中八百屋の茂は、空になった野菜箱を見下ろし、口元を緩めた。
「ふっ……まだやれるじゃねぇか、俺たちもよ」
老いてなお現役の誇りが、その声に滲んでいた。
松田屋の店先では、店主の和夫が売り場から目を離せないほどの人の列に驚いていた。
そのとき、奥から息子の航太が駆け出してきた。
「おじさん、すごいよ! うちのまんじゅう、もう全部売れちゃった!」
航太の笑顔は、朝に見せた不安の影をすっかり消し去っていた。
和夫はそんな息子の頭をくしゃりと撫でながら、目尻を熱くし、ふっとつぶやいた。
「……本当に、やってよかったな。」
かつて、静まり返っていた商店街。
それが今、確かに“拍動”している。
まるで心臓が再び動き始めたように。
悠斗と秋山は、人々の賑わいを背にして、歩道の片隅で立ち止まった。
顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。
「……やったな」
「うん、やったね」
言葉少なに、でも確かに通じ合う達成感。
それは、共に歩んだ日々が報われた瞬間だった。
——しかし、その温かな余韻の中に、ひとつの影が差し込んでいた。
「でも……次は本番の桜川マルシェだよね」
「……三浦さんが、このまま黙ってるとは思えない」
秋山の声が、春の風の中でかすかに震えた。
悠斗は静かに頷いた。
胸の奥に、不穏な予感がじわりと広がっていく。
そして数日後——その直感は、現実のものとなる。
それは、桜川マルシェ本番まで、あと数日に迫った日のことだった。
市役所から一本の電話が入る。
画面に表示された番号を見たとたん、悠斗の心に嫌な汗が滲んだ。
「……はい、森田です」
『あの……大変申し上げにくいのですが、桜川マルシェの開催許可の件で——』
「……え?」
その瞬間、足元から音もなく地面が崩れていくような感覚に襲われた。
「それって……どういうことですか?」
『開催許可が、取り消されました』
時間が止まった。
電話を切った悠斗の顔は、紙のように青ざめていた。
異変を感じ取った秋山が駆け寄る。
「どうしたの!? 何かあったの?」
「……桜川マルシェの開催許可が……取り消された」
「え!? なんで……どうして!?」
秋山の声が裏返った。
「『安全対策が不十分』って……理由だって。でも、そんなの今さら——」
「それ、三浦さんの仕業よね……?」
悠斗は、唇を噛みしめ、静かに頷いた。
いてもたってもいられず、市役所へ向かった。
窓口の職員が申し訳なさそうに差し出したメモの一文。
『商工会が関与しないイベントには、慎重な対応を——』
「誰がこれを言ったんですか?」
「……それは、お答えできません」
でも、もう答えなど要らなかった。
わかっている。三浦誠司だ。
「……最後の最後まで、邪魔をするつもりか」
握った拳から、爪が食い込むほどの力が伝わってきた。
それでも、心は折れなかった。
いや——この一撃が、悠斗たちの“本当の覚悟”に火をつけたのだった。




