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4. デートは嬉しい事と聞きましたわ!



「陛下! 今後のご予定をお聞きしたいですの!」


    ( 「きゅ、急にどうし)  (たんだ?」)

 執務室のドアを豪快に開けてそう言うと、陛下は当たり前ですが驚かれた様子でペンを置いて下さりました。

 そうして私はつらつらと事情を説明し始めますの。



 数日間過ごしてわかりましたのは、(わたくし)と陛下が顔を合わせるのが、食事中や廊下ですれ違った時のみということですの。つまり笑ってもらおうにも、お互い接点がなさすぎるのですわ。

 焦った私は、クロエに相談致しました。


『どうしましょう。こんな調子では陛下の怖ーーーい顔が治るのは百年後だわ!』

 

 クロエは少し黙って考えた後、いつものように淡々とこう言いましたの。


『デートのお誘いというのは、多くの男性にとって嬉しいものと聞きますよ。してみたらいかがでしょう?』


 ……というわけで、



「デートのお誘いに来たのでずわ゛!」

 

 あああああああああ、また!! 私は!!!

 陛下は吹き出した後、手で額を抑えましたの。

 ちょっと笑わないで下さい……って、わ、私、何かしてしまいましたの?


    ( 「……アレッタ嬢、)    (デートというのは」)

「男女が一緒にお出かけすることではなくて? よく父母がしておりましたわ」


 ほ、本当にどうしましたの陛下。

 公務室の窓からはそよそよと春の暖かい風が入ってきていますのに。

 そんな、岩のように固まってしまわれて。



    ( 「……今日の午後と)    (来月の第三木曜日の午)    (前が空いてイマス」)

 絞り出したような、カタコトな言葉が、部屋に響きましたの。どうしてカタコトなのかはわからないけれど……。

 今日の午後と来月。ん? ……今日ですの!?

 さっすが私変なところを当てますわね。しかし善は急げですわ。


「わかりましたわ陛下! 当日になってしまって大変申し訳ないのですが、今日の午後でどうでしょう?」


    ( 「承知した……」)

「城下町を巡ろうと思いますの。公務としての視察か、お忍びで羽を伸ばすかはお任せしますの」


 少しでも楽になる方を。私はどちらでも構いませんし。

 というか、当日になってしまって本当に申し訳ないですわ……。本当はご予定があるとかでなければいいのですが。ジェームスにも聞いてみましょう。


   ( 「公務でも、い) (いのか」)

「勿論ですの!」


  ( 「すまないが公)    (務扱いで……」)

「では、午後に王門で!」


 これ以上公務のお邪魔をしてもいけませんし、さっさとお暇しますの。



「ねぇ、クロエ。今日の午後、城下町で視察も兼ねて陛下とデートすることになったの!」

「……展開早すぎませんか? というかまさかの公務デートですか」

「どうすればまた笑ってくれるかしら! とりあえずポケットマネーと、ハンカチと」

「聞いてませんし……」


 私がいそいそと支度し始めると、クロエは大きなため息をつきました。私がムッと振り返れば、酷く呆れたような顔。

 何が言いたいんですの! 何が!


「お嬢様、その前にお召し物をどうするかですよ。公務だというのにその格好で行くつもりですか?」


 そういえば、着道楽よりもスイーツ、いうなれば花よりケーキだった私はそんなに服を持ってきておりませんわね。加えて私が基本的に好んでいるのは裕福な庶民程度の服。

 確かに公務だというのに、庶民のような服はいけませんわ。入城した時のドレスは……ヤケで選んだ見るからに悪女なものですし。



「失礼致します。アレッタ様、ジェームスでございます」

「ああ、ジェームス。わざわざ来てくれてありがとうございますわ」

「陛下の午後の予定は元々空いておりました。それと……」


 ジェームスは少し、困った様子。言いづらいことなのかしら。


「ダグラス様から、やはりお忍びで、と言付けを預かっております」


 お忍びに変更……。私はドレス選びがなくなって嬉しいですが、陛下は大丈夫なのかしら?

 

 とにもかくにも変更となったので、いつも通りの服装で、髪型だけハーフアップからサイドにまとめた形に変えることに。

 ……クロエの機嫌がいいのは……なぜかしら。



         * 


「陛下、お待たせしt……なんですのその格好は!?」


    ( 「……何かおかしい)  (だろうか?」)

 おかしいもなにも……黒い帽子、黒いメガネ、黒いマフラー、黒いコート。おまけに白い手袋。

 どこからどう見ても不審極まりないですの! 不審者ですの!?


「陛下、その帽子とコートを貸してくださいまし」


 陛下は首を傾げながらも脱いで渡してくださいました。

 ああ、よかった。中は普段のベストですわ。

 今日は暖かい日だというのに、こんな格好では目立ちますの。……帽子は私が被って、コートは腕にかければいいかしら。マフラーはきっと顔の傷を隠すためでしょうし。


「陛下、今度からお忍びはもう少し紛れられる服装にしてくださいまし!」


 なぜ、そんなに驚いているのかはわかりませんけれど。もちろん表情筋は一ミリも動いてませんけども。人に被られたくないほど大事な帽子だったのかしら?

 そんなことを考えていたら、陛下が帽子の位置を直してくださいました。


    ( 「わかった。帽子、)    (よく似合っている」)

「恐縮ですわ! さぁ行きましょう」


 少しは怪しさも減ったところで、城外に出ようとしましたら、


    ( 「……エスコート、)    (させてくれないか」)

 と、たどたどしくも陛下が手を差し伸べてくださいましたの。エスコートなんて何年ぶりでしょう。あの浮気殿下は全くする素振りすらなかったですし。






「ダグラス様、いくらアレッタ様のご提案とはいえ初デートが公務、はいかがなものかと」

「……!?(そういうものなのか)」

「これはエスコートを教え込む必要がありそうですな」

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