そうだ! 脱サラしよう!(7)
「……あ、でも単純に最強クラスの能力を与えるだけじゃつまらないですよね? 私としても、貴方が無双する姿を眺めてるだけじゃ楽しめないと思うんですよ?」
彼女はちょっと悩む様な仕草をしてから声を吐き出す。
一応、本人は本気で悩んでいる模様ではあったのだが、雄太からすればサッパリ理解出来ない内容を、理解して当然の様な物言いで口を動かし続けていたので、もはや会話のキャッチボールを諦めていた。
この時の雄太は思ったのだ。
どうせ何を喋った所で、おかしな返事しかやって来ないと。
ややこしい事態に拍車が掛かるだけの面倒な会話にしかならないと。
経験上、この手の存在は自分こそが正しい事を言っていると信じて疑わない。
そして、正しいと思っているからこそ、相手が言い返して来ないと思っている。
実際は相手が煙たがって口を動かすのも億劫な心理状態に陥っているだけだったのだが。
どうにも面倒になってしまった雄太は、美女に対して余計な反論をする事なくテキトーに話を合わせて置こうと、そこかしこに耳を傾けるフリだけをしていると、これまで悩む仕草を続けていた彼女の表情がぱぁぁっと! 明るくなった。
どうやら何かを思い付いた模様だ。
確実にふざけた思い付きだろうが。
「貴方には、何者にも屈しない力を与えます。サービスして、一国を亡ぼす程の驚異的な能力を与えてあげましょう。ああ、なんて私は優しいんでしょう!」
優しいと言う単語を、一度辞書で調べて来たらどうだろうか?
「けれど、それだけではつまらないので、もれなくオマケとして有名になったら死ぬ呪いもセットで付与して上げます! 頑張って下さいね!」
この直後、雄太の意識は再び得体の知れない謎現象によって消えて行った。