そうだ! 脱サラしよう!(6)
「えぇと……んじゃあ、俺はどうすれば良いのかだけでも教えてはくれませんかねぇ?」
もはや完全に投げやり状態となっていた雄太が、ダメ元よろしくな口調で彼女へと尋ねると美女は悪びれた風もなく言った。
「私の暇潰しに付き合って貰おうかと思ってます」
どんな質問をしても理解の範疇を超えた答えだった。
「……そうですか」
もはや呆れを通り越して諦めにも近い顔をして相槌だけを打つ。
ちゃんと言葉が通じている筈だと言うのに、何故か会話が成立しない不可思議現象を前にどんな顔をして良いのかすら分からなくなって来た。
すると、彼女はちょっと拗ねた顔になり、頬を軽く膨らませてから雄太へと答える。
「別に良いじゃないですか? だって貴方はとぉぉぉぉぉっても暇そうな、暇人大王なんですもの」
そこまで言われる筋合いはない。
「会社も辞めてしまいましたし? 曖昧に当てのない旅とかしようと模索してただけですし? 最初から当分自宅へと戻るつもりもなかった? 違いますか?」
否定出来ないのがちょっと辛い。
事実、しばらく家を空ける予定ではあった。
完全に仕事を辞めて、フリーな生活を手に入れた事により、当てのない旅に出る直前ではあったのだから。
しかしながら、当てはないにせよ……海外を通り越して時空を飛び越えてるんじゃないか級の旅をする予定までは考えてなかった。
「言ってる事は地味に当たってはいるんですけど、こんな謎旅をするつもりはなかったんですよ。ちゃんと帰宅する事を前提とした旅をしようとしてましたし」
「ああ、そこは大丈夫です。ちゃんと帰宅する事は出来ますよ?……死ななければ」
サラッと凄い事を口にして来た。
更に美女は言葉を続ける。
「これは私なりの提案であり、貴方の旅をより思い出深い物にする材料の様な物です。決して悪い事ばかりではありませんよ? 良い事ばかりでもありませんけど」
最後の言葉は明らかに余計だった。
「それで、結局……俺はどうするんです? まさかこのままずっとここに居ろと言うんじゃないでしょうね?」
「そこはご心配なく。私もそこまで面倒な事は言いませんから。だって貴方は普通の人間だから食べ物がないと死にますし? ここにはそんな物ありませんし? 気分で空気を入れましたけど、水だってありませんしね?」
態度こそ温和だが、やっぱり何を言ってるのかサッパリ分からない台詞を呼吸をするかの様なナチュラルさで口にして行った彼女は、最後にこう答えた。
「貴方は、私の創った世界で遊んでもらいます……そうですね? 今のままだと簡単に死んでしまうでしょうから、最強クラスの能力を与えてあげましょう? それなら貴方も死なないですし、私の暇潰しを継続出来る。とっても建設的かつ合理的ですね!」
どの口がそんな事を言ってるのだろうか?