そうだ! 脱サラしよう!(3)
激しい衝突音と砂煙を撒き散らしながらも超絶スピードで飛んで来た大岩は、壁に大きなクレーターの様な物を作った後に地面へと落下して真っ二つに割れていた。
一体……何をどんな風にすれば、自分の身体にも匹敵するだろう岩が、速球自慢の投手にだって負けない速度で飛んで来ると言うのだろう?
雄太は愕然とした顔のまま、心の中で素朴な疑問を抱いた。
そして、その疑問は三秒を必要とせず解かれた。
何故か?
答えは至ってシンプル。
だって、同じ位の岩を持った筋肉ムキムキの大男が、左手一本で岩を持ち上げているのだから。
「……っ!」
雄太は絶句する。
マジで訳わかんない! 何なのあれ? 普通にザックリ言って数トンはありそうなのを片手で持ってるよね? しかもオーバーハンドスローからこっちに向かって投げようとしてるよね! どう考えても片手だけでオリンピックで金メダル取れるよね!
ドコォォォォォッッッ!
そこまで考えた所で雄太の思考は停止した。
理由は簡素な物だった。
オリンピックで金メダルが取れるよね!……なんて、悠長な事を考えてた辺りで岩が雄太の方に飛んで来たからだ。
飛んで来た岩は雄太の全身へと一直線に突き進むと、そのまま雄太の身体にクリティカルヒット。
鈍い音と同時に、大岩の一撃で全身のアチコチがくまなく悲鳴を上げた。
なんだって言うんだよ……?
もはや口を動かす余裕すらなくなっていた雄太は、心の中でのみ呟き……意識を失った。
「ここは天国か?」
お決まりの様な台詞を口にした。
事実、雄太の記憶が正しいのであれば、確実に死から逃れる事は不可避と言える様な経験をしていたのだから、ある意味でそう考えても仕方ないだろう。
ついでに言うのであれば、視点の先にあったのは、現実世界とは隔離されてるんじゃないか?……と、表現出来る程度には現実離れしていた。
辺りには、何もなかった。
そう……何もなかった。
右を見ても左を見ても、白。
空白と言う表現が一番似合いそうな、何もない空間が無駄に存在していた。
それだけに雄太は思った。
これが死後の世界と言うヤツか……と。
しかしながら、雄太の胸中を見越す様な形で、女性の声と思われる物が雄太の耳に入って来た。
「ここは天国なんじゃありませんよ? だって、貴方はまだ死んでいませんもの」
「……っ!」
不意にやって来た女性の声に、雄太は少し驚きながらも視線を向けた。
息を飲む程の美人が、そこに立っていた。