そうだ! 助け合おう!(12)
ゾクッ……っと、背筋が冷たくなる様な笑みだった。
その笑みのベクトルが自分に向いていないと言うのに、それでも背筋が凍り付いたかの様な戦慄を抱いてしまう。
もしかして、自分はとんでもない化け物と一緒にここまでやって来てたのではなかろうか?
そんな物は今更でしかないし、出会えたのがリリアだけであった為、どちらにせよ雄太の選択肢は変わらなかったろうが。
「はははっ!……これはまた、素晴らしい!」
鮮血をまき散らしながら、ゼネト=ミギアノスはさも愉快と言わんばかりに甲高く笑う。
「なんでアイツは笑ってられるんだ……?」
その異様な光景を前に、雄太は思わず顔を引き攣らせた。
相手がモンスターである以上、常人と同列にしては行けないのかも知れないが……それでも雄太の常識で言うのなら、確実に出血死は免れない。
あれだけ豪快に鮮血が噴射されているのだ。
本来なら立っている事さえ出来ないだろう。
しかし……だが、それでも尚、彼は笑っていた。
さも痛快だと言わんばかりに、余裕を持って。
「なぁ化け物? 何がそんなにおかしい?」
狂った様に高笑いを続けるゼネト=ミギアノスを前に、リリアは再び両手剣の一撃を浴びせようと右手を大きく振りかぶり……素早く振り下ろした。
その瞬間、リリアの剛剣がピタリと止まった。
「……っ!」
リリアは瞳を大きく見開く。
一体、何が?
動揺の二文字が、脳裏を微かに過った……その時だった。
ブォワァァァァッッ!
強烈な旋風が、ゼネト=ミギアノスを中心にして猛烈に吹き荒れた!
「なっ!……う、うわぁぁぁっっ!」
突発的かつ思わぬ旋風により、リリアは持っていた大剣ごと虚空の彼方へと吹き飛ばされてしまう。
吹き飛んだリリアは、そのまま大広間の壁に激突……しなかった。
「うん、やって見る物だね」
壁に激突する、まさに寸前の所で雄太が両腕を広げてリリアをしっかりと抱きとめる事で、どうにか衝突だけは免れたのだった。
「ハチミツ! お前! 乙女をがっちり抱きしめるとか! どんだけ女タラシなんだよ!」
結果的に身体全体で受け止め、しっかりと抱きかかえて来た雄太に、リリアは憤然とがなり散らしてみせる。
「そんな事を言われてもな……」
他に方法もなかったし、良かれと思ってやっている事なので、ここまで怒り散らされると地味に困る。
正直、リリアからすればもっと若くて恰好の良いイケメンに抱きしめて貰いたかったのかも知れないが、残念ながらここには四十過ぎのオッサンしか居ないのだ。
そして、何より……。
「そろそろ俺の事は「雄太」と呼んではくれないか? リリアさん?」
嘆息交じりに雄太はばやいた。
「ハチミツはハチミツだろ! 大体、さっきからお前はなんだ? 私一人にだけ戦わせて、全然全くこれっっっっぽっちも動いてないじゃないか!」
「いや……そこは、申し訳ありません」
「だろう? だからお前はハチミツで良いんだよ!」
理由になってなかった。