そうだ! 助け合おう!(11)
完全に人間を捨ててますね? 分かります……と、誰に言う訳でもなく心の中で頷く雄太が居る中、リリアの両手剣が素早く振り下ろされる。
速い……なんて物ではない!
片手で剣を振り下ろしている筈だと言うのに、その速度は刹那の動きだ。
見る者によっては、何が起こったのか分からないだろう。
否……大半の人間であるのなら、振り下ろされた事すらその瞳に映す事なく……何も分からぬまま全身を一刀両断されていたに違いない。
更に振り下ろされたと同時にやって来た剣圧は、あたかもソニックブームか何かと勘違いしてしまうんじゃないか級の衝撃波が周囲にまき散らされていた。
「おいおい、冗談だろ?」
突発的にやって来た衝撃波を受け、思わず両腕でガードした雄太は唖然とした面持ちで口を動かして行く。
少し前まではゲーム染みた光景を前に、少し物見遊山な心境でその場を見ていたのだが、身体全体で感じた強烈な衝撃波を受けた事で、その印象をガラリと変えた。
否が応でも理解してしまう。
これはゲームなんかじゃない。
紛れもない現実だ!……と。
仮に仮想現実と言うものが存在していたとしても、ここまで生々しくもリアルに表現する事が出来る物なのか?
近未来であるのならそれもあるいは可能なのかも知れない……知れないが、雄太の知る限りでここまで現実味のある仮想空間を可能にしているとは到底思えなかった。
他方、それでいてこの世界が自分の知っている世界とも思えない。
つまり、それは。
「やっぱり異世界だって言うんだろうな……ここは」
もはや、否定する材料が見当たらない。
自分の知る力学的な法則を最初からかなぐり捨て、自分の中にある常識すら全く通用しない。
これらを強引であっても正当に判断するのであれば、答えは一つしかなかった。
ここは異世界だ。
「薄々は気付いていたし、なんとなく理解していた気がしてたんだけど……改めて実感させられた気がする」
さて、どうした物やら。
途方に暮れる様な、そうでもない様な?
自分でも良く分からないとばかりに、顎に手を当て思案に耽る雄太が居る中……リリアは右手の剛剣を一瞬も休ませる事なく振り抜き続けた。
果たして。
「……っ! しまっ……ぐはぁっ!」
優に百を超える高速の白刃が空を切り、同じ数の衝撃波をばらまきながら……しかし、勢いを衰えさせる事なく襲ったリリアの斬撃が、遂にゼネト=ミギアノスの右肩を捉えた。
直後、彼の右肩から脇腹に掛けて真っ赤な鮮血が舞う。
「へぇ? モンスターでも、血の色は赤いんだな? てっきり違う色かと思ったよ?」
勢い良く吹き出る鮮血を前に、リリアは返り血を浴びながらも妖艶に笑った。