そうだ! これは願望だ!(3)
すっかり雑言の矛先が雄太から亜明に変わってしまった中、
「……ねぇ、雄太。これはどう言う事なのかな? 可能な限り説明して欲しいんだけど?」
隣の席に座っていたセシアが、それとなく雄太へと尋ねてみせた。
「えぇ……と、そうですねぇ……」
雄太は誤魔化し半分の愛想笑いを顔に作りながらも返答してからセシアへと言った。
「俺が余計な事をしたせいで、リリアが後々悲しむ事になると言う事です」
あるいは絶望か?
こんな事を胸中で後付けしつつ……言葉を飲み込んで。
「うーん……つまり、リリアさんって本当は人間じゃなくて、邪神の仲間って事で良いのかな?……それで、ものすごぉぉぉぉく長生きする」
「邪神ではないんですが、その解釈で当たってます。そして、このレンって言う少年は俺に言ってます「お前は無責任だ!」と」
「無責任?……どうして? 聞いている限りだと、雄太もただの人間と言うわけじゃないんでしょう? リリアさんの孤独が原因であるのなら、あなたが一緒に居れば良いんじゃありませんか?」
セシアは笑みで答えた。
少し陰りのある笑みではあったが……それでも、しっかりと。
結局の所、セシアは認めていたのだ。
リリアと雄太の中に生まれている絆の強さを。
その気持ちを。
「一緒に……居られれば良かったのですが……ね」
苦笑交じりに雄太はセシアへ答えた。
「……? どうしてそうなるのですか? 一緒に居れば良い。それだけの話しではありませんか?」
セシアは小首を傾げた。
経緯こそ色々あった模様だが、今はこうして再び出会ったのだ。
それならそれで、今度こそ一緒に居れば良いだけ。
特に反対する相手だって居ないのでは?
そう思った時、雄太の口が再び動いた。
「どうやら、リリアの兄弟達が俺を嫌っているみたいなので……」
言ってから雄太はレンを軽く見据えた。
セシアは目をミミズにする。
「ああ……あれですか」
「はい、そうです」
セシアの言葉に、雄太はどんよりとした表情のまま相づちを打った。
「確かに邪神の反対を押し切るのは骨が折れそうですね……」
「そうなんですよ……はぁ」
「けど、それだけですよね?」
「……へ?」
雄太はポカンとなってしまった。
なんとも前向き過ぎて、思わず唖然としてしまった。
「反対してるなら、ちゃんと対話して解決しましょう! 言葉が通じる相手なのです! ちゃんと誠意を持って接すれば、いずれ分かって貰える日が来ると思うんですよ!」
「……はは……そ、そうですね」
瞳をキラキラ輝かせて言うセシアの言葉に、雄太は愛想笑いを顔に浮かべる事しか出来なかった。
「まぁ、善処します」
少し間を置いてから雄太は答える。
一応の肯定的な台詞ではあったが……実に曖昧で気合とは無縁の語気だった。
他方、口喧嘩を派手にやっていた亜明とレンの二人は……。
「だ・か・ら! 言ってるじゃありませんか! 感情と言う概念を知った発端はお兄様であったかも知れませんが、それは偶然お兄様であっただけで、他の誰かに教わる可能性は十分あったのです! 私達の宇宙に来た時点で、遅かれ早かれ知的生命体の住む惑星に訪れる可能性はありましたし、そこで知る事になります! よってお兄様は悪くありません! 何万年先か何億年先なのかは分かりませんが、それが早くなっただけなんですからねっ!」
「加害者のクセになんでそこまで横柄な態度を太々しく取れるんだよアホ! そもそも、能力が俺の半分にも満たない雑魚のクセになんでそこまでデカい面出来るんだよオメーはよっ!」
思い切りヒートアップしていた。
周囲を見れば、地味に怪訝な顔をしている通行人が、可能な限りこちらを見ない様にして散歩している姿が見える。
公園だから仕方ない所もあるのだが、犬の散歩にやって来たオジサンは口元を引き攣らせながらも、全力で他人のフリしながら早足にベンチ前を通過して行った。
……まぁ、本当に他人なんだけどね。
近道としてベンチ前を通過しようとしていた学生コンビっぽい女子二人は、軽くひそひそ話をしながら横切っていた。
ものすごぉ~く恥ずかしかった。
「そろそろ止めようか」
「そ、そうですね……」
苦笑交じりに言う雄太に、セシアも苦笑のまま頷いた。
程なくしてベンチから立ち上がって、猛剣幕で激論を続ける亜明とレンの二人へと向かった瞬間……視界が変わった。
「……は?」
雄太はポカンとなり、
「……え?」
セシアは地味に眉を顰めて驚いてみせる。
果たして。
「どうやら、あなたは理解してない模様ですね? この三橋亜明が不意を突かれた「だけ」であった事を」
額に怒りマークを何個も作りつつ、目からビームでも出そうな勢いで鋭い眼光を飛ばしまくる亜明と、
「……ほう? それじゃ、なにか? こないだ俺にあっさりボコられたのは不意打ちだったからとでも言いたいのか?」
こちらも怒り心頭状態のまま、後ろに強烈な炎を背負い込みつつも両手をポキポキ鳴らしてみせるレンの姿があった。
もう、ここまで一触即発と言う四字熟語が似合うシチュエーションはないと言いたくなってしまうまでの構図が出来上がっていた。
そして、気付けば二人の……否、雄太とセシアの二人を含めた四人の背景が変わっていた。
恐らく何らかの方法で、四人をプラム中心市街地の公園から別の場所へと空間転移させたのだろう。
パッと見る限り正確な場所まで認識する事は出来なかったが……恐らく、何処かの郊外に当たる平原だと言う事だけは分かる。
地平線こそ見えないが、ヘクタールレベルで広い平原だった。
「……あの、雄太さん? 私達って……何処に飛ばされんでしょう?」
セシアは額に冷や汗を思い切り流しながらも雄太に尋ねた。
「何処なのかは分かりませんが……平原経由、天国行きにならない事だけは祈ろうかと思います」
「待って! ねぇ、待って! 私、まだちゃんとした彼氏も出来ない内に死ぬのは嫌なんですけど! ちょっ……ねぇ! 本当、勘弁して欲しいんですけど!」
蒼白な顔で、実際に両手を握って祈りを捧げていた雄太と、地味に大人げなく泣き叫ぶセシアの二人をバックに、今にも取っ組み合いの喧嘩と言うか……戦闘的な何かを始めようとしていた亜明とレンの二人がいた。