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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
終章・そうだ! これは願望だ!
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そうだ! これは願望だ!

 守ってやれなかった。


 告白をする事だって一生に一度あれば幸運だと思えるまでに最高の彼女を……その人生を。


 叶えてやれなかった。


 里奈が望んだ夢を。

 決して高望みなんてしてなかった……素朴な、当たり前と形容しても過言ではないだろう、極々一般的な……そんな、何処にでもある細やかな家庭を築く事……ただ、それだけの夢を。

 本当に……本当に……細やかでちっぽけで、おざなりですらあった些末な里奈の希望さえも……雄太は叶えてやる事が出来なかった。

 

 どうしてなんだろう?


 望んだ幸せは、そんなに難しい物だったか?

 その喜びは、そこまで手に入れる事が大変な代物だったと言うのか?

 この世に神と言う御大層な存在が君臨しているとするのなら……教えて欲しい。


 里奈が望んだ物は……そんなに贅沢な夢だったのか?


「くそぉぉぉぉぉっっ!」

 雄太は叫ぶ。

 四つん這いになったまま……かつての追憶を、思考の中から引っ張りだして。

 そして実感する。

 今ある世界……そして、この世界にいる赤髪の英雄様が、里奈の生まれ変わりであると。

 初めて会った時から、なんとなく……曖昧にぼんやりとではあるのだが、感じていた。

 魂が揺れた……23年前の感触に近い物をリリアに感じていた。

 けれど、里奈とリリアは全くの別人で。

 雰囲気が何処となく似ている事はあっても、全くの同一視する事は出来なかった。

 結局……雄太にとっての最愛は、里奈だけであったからだ。

 しかしながら、それでもリリアは何処となく里奈に似ていた。

 喋り方、笑顔の作り方、拗ねる姿、誤魔化し方。

 どこを取っても、リリアは里奈にしか見えないまでに良く似ていた。

 だからかも知れない。

 リリアと恋人関係になる事を、自分でも不思議なまでにすんなり受け止める事が出来たのは。

 尤も「恋人になる」と言っても、かつての結婚を前提とした様な……そんな、燃え上がる本気の恋とは大きくかけ離れた物ではあったのだが。

「そうか……そう言う事だったのか」

 雄太は誰に言う訳でもなく呟く。

 四つん這いのまま呟いていた雄太の前には、セシア姫とレンの二人が。

 プラム中心市街地にある公園での事だ。

 ベンチに座っていた雄太が、宇宙意思のレンによって事実を告げられ、そのショックで思わず前のめりになってしまい、そのままベンチから崩れ落ちる様に四つん這いになっていた。

 つまり、前々回の章末。

 正直、かなり前過ぎて良く覚えてない……ゲフンゲフン! タケノコ狩りクエストを終わらせ、報酬を受け取ってしばらく後に、二度目の傷心状態にあるセシアと雑談を交えた会話をしようとしていた直後、突発的にやって来たレンによってお話は急展開しちゃいますよ!……と言う所の続きだ。

「俺はお前を許せない……何故、姉さんに余計な事をした? 別に必要なかった筈だ」

 そうと答えたのはレンだ。

 ショタ系の愛らしい顔付きをしていると言うのに、そこからやって来る言葉は全然可愛くなかった。

「ああ……そうだな」

 レンの言葉に雄太は肯定の言葉だけを弱々しく吐き出した。

「ちょっと待って! 私には良く分かりません! ちゃんと説明してくださいませんか? 何を必要としなかったと言うのです?」

 レンと雄太のやり取りを見て、セシアは眉を釣り上げた状態で話しに割り込んで来た。

 事情を知らないセシアからすれば、レンの一方的なやっかみは、見ていて気分の良い物ではない。

 雄太が何をしたのか知らないが、一方的に責められる様な真似を雄太がやるとは思えなかったからだ。

「お前には関係ない」

 レンはプイッ! っとそっぽを向く形で冷ややかに答えた。

「うぁ……マジで可愛くないんですけど……?」

 セシアは苦々しい顔のままぼやいた。

 この言葉にレンは一気に怒気を孕めた表情になり、セシアを屹然と睨みつける。

「……っ!」

 セシアの顔が大きく強張ってしまう。

 本能レベルでやって来るだろう恐怖を無条件で植え付けられた気持ちで一杯になってしまったのだ。

 だが、この恐怖がどうして自分の精神を根底から揺るがしているのか? その理由だけはなんとなく分かる。

 レンの友人でもあり、なんだかんだでいつも一緒にいるのがナーザスであったからだ。

 とどのつまり、邪神として存在しているレンを、ある程度までは知っていたのだ。

 少なからずセシアは知っている。

 外見こそ十代前半程度にしか見えないが、実年齢はその数倍以上である事を。

 よって子ども扱いする事はないし、それなりの顔馴染みと言う事もあって、比較的くだけた会話をする事が出来る相手でもあったのだが……しかし。

「セシア嬢ちゃん。これはアンタが知る必要のない話しなんだ。余計な事に首を突っ込んで痛い目を見る可能性すらある。下手すりゃ死ぬ。俺も嬢の事は小さい時から見てるからな? ナーザスにも怒られるかも知れないし……悪いけど、黙っててくれないか?」

 凄んだ顔でぴしゃりと言い捨てられると、セシアも返答に困窮してしまう。

 相手は人智の理解を大幅に超越した邪神である。

 単なる人間でしかないセシアからすれば、マジで怒らせると命に関わる一大事ですらあった。

 当然、そこからやって来る畏怖のレベルは想像を絶する!

 しかし……でも、それでも。

 これだけは聞いてみたい。

 それは好奇心などではない。

 強い強い……自分の意思だ。

「何を必要としなかったのです? せめて、これだけでも教えて欲しいの……」

「………」

 切実な表情のまま……恐怖で顔を引き摺らせ、瞳に涙までこさえているセシアを見て、レンは押し黙ってしまった。

 レンとしても、彼女は全くの他人と言う訳ではない。

 ナーザスの幼馴染だ。

「……はぁ。分かったよ……ったく」

 少し根負けした感じでレンは嘆息交じりに答えた。  

 程なくしてレンはセシアへ言う。

「感情だよ」

 ……そうと、抑揚のない言葉で。

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