そうだ! 昔話をしよう!(33)
泣いたらダメだと思った。
最後の最後。
雄太が目にする事が出来る最後の里奈を……その姿を見る時の自分は……絶対に泣いちゃダメだと思えた。
思えてならなかった。
きっと、泣いたら怒られる。
コラッ! そこは笑う所でしょ!……と、怒鳴って来る。
だから、笑う。
しっかり……にっこり、柔和に。
でも、瞳は正直だ。
心は正直だ。
どうしても……どう足掻いても、どんなに頑張っても。
瞳から涙が零れ落ちて仕方ない。
悔しくなる。
こんな顔を、里奈は絶対に求めていない。
足掻け! せめて、里奈の顔に涙が落ちるなんて醜態を晒さない様に。
必死で顎に右腕を絡めた。
滴る涙が落ちない様に。
時間にして凡そ三十秒。
それが、雄太が彼女を見送った最後の別れに費やした時間。
たった三十秒。
実に……儚い三十秒だった。
本当は、もっと見ていたかった。
語りかけてやりたかった。
痛かったか?
苦しくなかったか?
変われる物なら、マジで俺が代わってやりたいよ!
「ちく……しょう……く……く……そぉ……っ!」
焼香を済ませて間もなく、トイレへと向かった雄太は個室で力無く呟いた。
悔しさで肩が震えた。
「うぅぅ……すぅ……はぁ……っ!」
嗚咽が漏れる。
「うぁぁぁぁぁぁっっっ!」
間もなく、声を出して泣いた。
泣き崩れた。
もうダメだった。
限界だった。
追憶の里奈が……彼女が、雄太の前に次々とやって来た。
コンビニで初めて出会った時……魂が揺れた。
後で里奈から聞いた。
里奈もまた、同じであったと。
お互い、初めてあった瞬間……強烈な一目惚れをしていた……と。
花火大会で花火を見に来たのに、花火を見た記憶がまともになかった……あの日。
絶対に無理だと分かっていても、撃沈覚悟で告白したいが故に、馬鹿なりに無い知恵絞って一生懸命に考えた誕生日プレゼント。
恋人になる権利が欲しいと言われた……あの瞬間は、一生忘れそうにない。
クリスマス・プレゼントが同棲する権利。
もう、流石に驚かなかったよ……いや、嘘です……インパクトありました!
相変わらずみょうちきりんな物を要求するよ、お前は。
結果的に買ったペアリング。
勢いで買ったけど……買って良かったと思っている。
ペアリングを購入してすぐ、指にはめていた里奈の笑顔は……ビックリする位、キラキラ光っていた。
イルミネーションの光が、とってもちっぽけに見えるまでに、息を飲んでしまう程の輝きを見せていた。
本当に、可愛かった……綺麗だった。
最高の笑顔だった。
喧嘩別れして、一週間会わなかったあの日。
地元まで追いかけて来てくれた……あの日。
里奈には恥ずかしくて言えなかったけど……本当は嬉しかった。
自分なんかの為に東北の片田舎まで来てくれて……本気で嬉しかった。
ありがとう!
心から言いたい。
お前が好きでいてくれて良かった。
好きになってくれて良かった。
里奈がくれた温もりは……忘れない。
俺を愛してくれて……ありがとう。
「うぁぁぁぁぁぁっっっ!」
……泣いた。
がむしゃらに泣いた。
思い出の中にいる里奈は、沢山の喜怒哀楽で満ち満ちていた。
笑ったり、怒ったり、泣いたり、楽しんたり。
忙しなく、様々な顔を次々と見せている。
最高に……イイ女だった。
里奈以上の女性に逢う事は、もう一生ないだろう。
いつか……そう、いつか。
もし、自分の願いが叶うのであれば。
もう一度……一度だけで良いから……里奈に逢いたい。
時は平成11年……晩秋。
間もなくミレニアムを迎え、世間ではY2K問題も色々と賑わっていた20世紀末。
今から約二十三年前に起こった、雄太の昔話である。
~to be continued~