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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
七章・そうだ! 昔話をしよう!
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そうだ! 昔話をしよう!(31)

「……い~や~だ! 今日は、雄太の実家に戻って挨拶して時以外は離れない! ソッコー新幹線乗るよ? 家に帰るよ? そしたら……今日は一週間分の欲求不満を全て解消する! 今晩は寝かさないから覚悟しときなさい!」

 雄太の胸元に引っ付いた状態のまま、里奈は不敵な笑みをニタリと浮かべて答えた。

 その後、本当に宣言通りの状態になって行くのだが……ちょっと活字でも表現しにくいので割愛して置こう。

 ……まぁ、余談と言う事で。

 余談ついでになるのだが、この騒動が原因で里奈は伝家の宝刀である「○○したら別れる」と言う言葉を口にする事がなくなった。

 むしろ強く拒絶する様になった。

 冗談でも「別れる」なんて台詞を口にしただけで、半ギレ半ベソになっていた。

 こうして伝家の宝刀は禁忌として、二人の間から封印されるのであった。







 秋が来た。

 ほんの少し前までクーラーがないと生きて行けないレベルで暑苦しい状態だったのが、まるで嘘の様に肌寒い。

「今日で十月か」

 部屋にある九月のカレンダーを破き、新しく十月の日付が出て来たカレンダーを軽く見据えながら、雄太は誰に言う訳でもなく口を開く。

 あれから雄太は、休学を取り消す形でどうにか復学を果たした。

 一年の休学と言う名目で休学届を出したが、結果的に休学した期間はたったの十日程度でしかなく……頑張れば進級も可能だった事もあり、休学の取り消しを申請する事でどうにか復学にこぎつけたのであった。

 お陰様で、どうにか四年生にはなれそうである。

 まぁ、一応……なんとかなるんじゃないかなぁ……多分。

「さて、今日はどうするかな」

 カレンダーを破り、早々にゴミ箱へと捨てた雄太は、顔でも「私は暇人です」と言う感じの表情をアリアリと作っていた。

 本日は休日。

 珍しくバイトもなしだ。

 復学と同時に近所で新しいバイトを見付けた雄太ではあったが、奇跡的に一日休みと言う状態だ。

 それならそれで、可愛い彼女とキャッキャウフフすれば良いじゃないの?……と、爆発して欲しいシチュエーションを簡単に予想する事が可能ではあるのだが、残念ながらそれは叶わない。

 現在、里奈は帰郷中である。

 地元へと戻る為、早朝に自宅から出立していた。

「参った……暇だ」

 こうなると、なにをして良いのか分からなくなってしまう。

 彼女が居ないと言う事は、自由度が増すと言う事実に直面するのだが……実際にそうなってしまうと、 

「何をやって良いか分からん」

 雄太は遠い目をして呟いた。

 我ながら里奈に依存し過ぎているなぁ……と、独白してしまう。

 結局のところ、いつも里奈が居た。

 思い返せば、行動の大半に里奈が居なかった試しがない。

 もうちょっと、自主性があっても良かった気がしてならないレベルだ。

「う~ん……」

 取り敢えず、暇を潰せる何かやろう。

 軽く腕組しながら考えるも……大してやりたい事が見付からない。

 やばい、これはやばい!

 折角一人でゆっくり出来る時間が生まれたのだ!

 今後、ここまで一人でゆっくり出来る時間があるか?

 いや、ない! 

 断言してしまったのは他でもない。

 里奈が帰郷している理由がそれだ。

 帰郷の理由……それは、今後の将来について。

 音大を卒業した後、里奈がどんな職に就いてどんな生活をするのか?

 ここら辺を両親に伝える事が目的だった。

 本当は、この他にも雄太と結婚します的な言葉も宣言したい所ではあるのだが……取り敢えず、今回に関しては先送りする予定である。

 それと言うのも、里奈が特別な存在だからと表現するのが妥当であろう。

 簡素に言うのであれば、世界的に有名な演奏者と言う、常人では到底不可能であろう選択肢をゴミ箱にポイッ! っとやってしまう暴挙に出る為、両親と大喧嘩になる事を予測していたからだ。

 つまるにピアニストの道を選ばない。

 その代わりと言うのも変だが、バイトで講師を務めていた七篠子供ピアノ教室に、正式な講師として就職する予定だった。

 予定と述べたが、里奈の中では確定事項レベルだった。

 千春さんの所なら、ある程度の融通が利く。

 小さなコンサートの誘いが来て、小銭稼ぎが出来る時に便利だ。

 ……まぁ、給料はあんまり良くないけど。

 ………。

 閑話休題。

 こんな未来を希望する里奈がいるわけだが……当たり前の当然の様に両親は快く思わない。

 むしろ遺憾の塊染みた態度を露骨に示していた。

 実際問題、電話で大喧嘩していた所を雄太も何回か目の当たりにしている。

 無理もないだろう。

 本当ならスーパースターの道が出来上がっていると言うのに、そのスターロードを自分から放棄しまくり、都内の雑居ビルにある小さなピアノの教室の先生になると言ってるんだから、両親からすれば「正気か!」って台詞を口にしたくなる。

 結果、里奈は直接両親に文句……もとい、説得を試みるべく、朝一番で里帰りする事にしたのだ。

 当初は雄太も一緒に向かおうとしたのだが、里奈に反対されてしまった。

 行けば、両親に殺されかねないから……らしい。

 どうやら雄太は、八代家の面々に殺意すら抱かせている模様である。

 この調子では、結婚をする為に「娘さんを僕に下さい!」的な台詞を宣言した日には、包丁でも飛んで来そうで怖い。

 日を改めて、ちゃんと里奈の御両親には婚姻話しをするつもりなのだが、真面目に命懸けになりそうだと、今から戦々恐々とイメージトレーニングする雄太がいた。

 そんな雄太は知らなかった。

 

 里奈と結婚する日が永遠にやって来ない事実がある事に。


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