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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
七章・そうだ! 昔話をしよう!
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そうだ! 昔話をしよう!(26)







 雄太は家を出た。

「……真面目に出てくのは新しいなぁ……ちょっとビビるぞ、あたしでも」

 別れる宣言をして数時間後、雄太はテキトーに荷物をバッグにまとめると、そのまま玄関に向かい……自宅から外に出てしまった。

 これら一部始終を見ていた里奈だが……彼を止める事はなかった。

 なんだかんだでたまにやってしまう喧嘩の延長線上にあると思っていたからだ。

 ついでに言うのなら、里奈も里奈で今回は雄太にもしっかり理解して貰いたいと思っている。

 何かと特別扱いして来る冴えない彼氏……と言う、里奈からすれば言葉を耳にしただけで怒りが沸き起こる行為その物だ。

 自分は特別なんかじゃない。

 ただ、ピアノがちょっと上手なだけの一般人だ。

 それ以上にもそれ以下にもならない。

 強いて言うのなら、最近は少しだけ人付き合いが上手くなった。

 コミュ障をこじらせていた里奈は、やっぱり人見知りスペシャルも良いレベルで友達を作る事が出来なかった。

 それを多少なりとも改善してくれたのは雄太だった。

 雄太も雄太で、そこまでコミュニケーションが上手な人間ではなかったが……里奈と比較すればかなりの話し上手と言えた。 

 一般的に人と仲良くなる術を、人並み程度には持ち合わせていたからである。

 この関係で、普段なら会話する事すらままならない彼女のフォローを幾度となく行い……バイト先の人間関係を良好な物にしてくれた。

 また、彼女を無駄にライバル視する他校の生徒とも仲良くなる切っ掛けを作ってくれた。

 今では、メール交換までして、昼休みに良くメールで会話する仲にすらなっていた。

 全て、雄太のお陰だった。 

 そう……雄太のお陰だ。

 今の自分が居るのも……幸せだと思える自分が居るのも雄太のお陰だ。

 安いだけしか取り柄のないボロアパートの……だけど明るい我が家。

 幸せな我が家。

 粗末な部屋でも、幸せでいられるのは雄太のお陰なのだ。

 だから里奈は思う。


 本当に自分の価値を知らないのはあたしなんかじゃない……雄太の方だ!


 雄太は自分をただの人だと言う。

 然したる才能もなく、やりたい事もなく……将来だってぼんやりと「サラリーマンするかな?」とか思っている様な凡人だと思っている。

 そこに価値なんてないと思っている。

 だから知らないのだ。

 自分の価値を。

 雄太が雄太で居てくれて……自分を好きで居てくれて……自分なりに頑張って生活しようとしてくれる事の価値が、ダイヤモンドよりも高いと言う事実に。

「今回はちょっとお灸を据える必要があるかもね」

 自室のテーブルに頬杖をつきながら答えた。

 多少のお金と着替え等をバッグに入れてたから、暫くは戻らないだろうが……精々、三日もすれば帰って来るだろう。

 これはこれで良い薬である。

 後は、どう言い訳をして来るか?

 苦笑交じりに、苦しい言い訳をして来るだろう最愛の彼氏の顔を浮かべながら、里奈はニマニマしながらその日を終えた。

 ……布団が広く感じて、少し眠れなかったのは余談だ。


 



 三日が過ぎた。

 雄太は帰って来ない。

「……中々粘るなぁ……」

 そうと答えた里奈の顔には、少しだけ不安の二文字が浮き上がっていた。

 付き合って二年……ボチボチ三年目を迎える相手だけに、早々簡単に別れるとは思わないし、こんな馬鹿みたいな理由で本当に別れるとも思ってなかった里奈は、そろそろ帰って来る馬鹿野郎を迎える準備なんぞを軽く行っていた。

 近所のスーパーのタイムセールを粘りに粘って買った、すき焼き用の和牛を冷蔵庫に放り込み、いつでも準備出来る様にして置く。

 もしかしたら明日になるかも知れないので、冷凍庫でも良かったかなぁ……なんぞと考えながら。

 だが、雄太は戻って来る事はなく……その日も夜を迎えてしまった。

「………」

 里奈は無言のまま、テーブルに両肘を付いて虚空を見上げる。

 静かだった。

 何も音がなかった。

 否、違う。

「………困ったな、色もないや」

 視界がモノクロに見えた。

 この部屋には……何もない。

 今は、何もない。

「参ったなぁ……どうすれば良いのかも……わかんないや……」

 ポロリ、涙が出た。

 ここ三年、味わった事がなかったんじゃないかと思う。

 

 あなたが居なくて寂しい。


 独りがここまで辛いとは思わなかった。

 胸が痛いと言う感覚が、ここまで辛いとも思わなかった。

 会いたいと言う気持ちが、こんなに自分の中で強く激しく爆発してしまう日が来るなんて……夢にも思わなかった!

「あの馬鹿……真面目に何処にいるんだよぉ……あたしの彼女だろ? 彼女泣かすなよ?……うぅ……ほ、本当に……ぐすっ」

 テーブルに出来た小さな水たまり。

 はけ口が見つからない寂しさと侘しさ。

 その日……里奈は見たくもないテレビを付けたまま寝た。

 音がないと寝れなかった。

 寂しくて頭がおかしくなりそうだった。

 雄太が大学に休学届を出し、地元へと戻っていた事実を知ったのは、この翌日の事だった。






 一週間後。

 とある片田舎のパチ屋に、雄太はいた。

「……お? 雄太、それリーチ目だ!」

「え? マジ? よし来た来た! 俺のメシ代!」

 高校時代の悪友と一緒に近所のパチ屋へとやって来た雄太は、なけなしの金を叩いてスロットなんぞしてた。

 あなたは何をやってるんですか?……って状態だった。

 余談だが、やっている機種は名機と称される花火である。

 四号機初期に色々な人間から愛された有名な機種でもある。

 ……まぁ、これが原因で消費者金融のお世話になった人間も一杯いるんだろうけどねぇ。

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