そうだ! 昔話をしよう!(19)
雄太に、今の想いを伝える事。
好きです! 付き合って下さい!
この言葉を、どんな形でも良いから……少しでも良いから……伝えたい。
言う事は簡単。
ただ、自分が思っている事を口にするだけ。
勇気がほんの少しあれば出来る。
断られたらティッシュ一箱は涙と鼻水で使ってしまえる自信があるし、同じバイトをしてる関係上……非常に気まずい。
けれど、このままでも……居られない。
言葉では難しいのだが……率直に言うと悔しいのだ。
あたしはアナタが大好きです。
……と、言えない事が。
この三か月、色々考えた。
いきなり卒倒級の緊張感をもれなくプレゼントしてくれた、自分の人生史上最大のサプライズ男の事を。
あれこれ、あれこれ、あれこれ、あれこれ、あれこれ……飽きずに考えた。
本当、馬鹿みたいに考えた。
一心不乱と言う表現はちょっと違うが、ずぅっと考えた。
果たして答えは出た。
自分が生まれて今まで、ここまで人を意識した事なんてない……と。
自分は自分であって。
他人は所詮、他人であって。
これ以上でもこれ以下でもない。
……でも、違う。
違い過ぎた。
なんと言うか、雄太は特別だ。
だって、ずっと考えて居られる。
今日は何してるかな?
ごはん、ちゃんと食べてるかな?
レポート課題が決まらない……って、言ってたな。
ちゃんと頑張ってるのかな?
でも、バイトは来て欲しいな。
こんな事の繰り返しだ。
とっても些末な事だし、他人に対してこんな事を考える必要だって全くない。
けれど考えてしまう。
……考えてると、とっても幸せだから。
そして、思う。
ああ、そうか。
これが好きだと言う事か。
誰かを好きになると言う事か。
中学生でも分かる道理だ。
しかし、里奈にとっては初めての感情だ。
同時に思う。
とっても切実に。
雄太にも、あたしの事を好きだと言って欲しいなぁ……。
ドォォォォォォンッッッッ!
そこまで考えた所で、一際大きな花火が夜空に舞い上がった。
不意にビクゥッッ! っと身体を震わせ……現実に戻って来た。
「だ、大丈夫? 八代さん」
「あは、あはは……うん、大丈夫」
微妙に大袈裟な驚き方をしてしまった里奈を見て、雄太は少し心配そうな声音を吐き出して来た。
里奈は苦笑である。
もう、苦笑以外の表情を浮かべる事が出来なかった。
はてさて。
もう一方の雄太なのだが……こちらは主に一つの問題で悩みあぐねている。
それはズバリ、誕生日プレゼントだ。
千春さん経由で里奈の誕生日を知った雄太は、彼女にとびっきり喜んで貰えるプレゼントを用意しようと一昼夜悩んだ。
そりゃもう、無い知恵使ってフルスロットルである。
しかしながら……悲しいかな? 雄太にはまだ里奈の欲しいプレゼントがどんな物であるか?……最適解と呼べるだけの答えを用意するには至らなかった。
誕生日は来週末。
雄太に残されたタイムリミットは一週間だ。
この一週間で、雄太は里奈が心から喜んでくれる、最高の誕プレを用意しなくてはならない!
何故なら(あわよくば)ここで告白とかしたいと思っているからだ!
正直、まだ知り合って三か月だし……バイト先の子に告白とか、後先と言う単語を辞書で引いておけよ猪野郎! 的な思考ではあるのだが、プレゼント内容によってはそ~ゆ~雰囲気とか流れで出来ないかなぁ……と言う程度であり、雄太としては未だ及び足程度のレベルだったりもする。
まぁ、ここらは草食系男子なのだ。
奥手スペシャルな男なのだ。
けど、本気だった。
真面目に好きなので、確実に付き合って貰える方法を、自分なりに必死で考え……藻掻いた末の顛末だ。
恰好悪いかも知れないし、スマートな事も出来ない不器用な男ではあったが……でも、誠心誠意自分の全てを彼女にぶつけた上で、彼女に振り向いて欲しい。
こんなにも人を好きになる事があるのかと、自分でも驚いてしまうまでに本気だから。
大学の知人から、
「バイト先の子だろ? もう少し後先考えろよ?」
と言われても、
「流石に八代さんはお前に釣り合わないだろ?」
……と茶化されても、
それでも努力したい。
本気の本気で好きだと彼女に言わせたい。
この気持ちだけは、誰になんと言われても最後まで押し通してみせる。
例え「ごめんなさい」と言う返事であったとしても。
正直に言えば、断られる未来しか見えなかった。
……当然だ。
相手は未来の有名ピアニスト。
ポーランドやドイツからも声が掛かっている、世界レベルで著名人になるだろう実力を誇る才女だ。
Fラン大学をどうにか卒業したら、近所の中小企業に就職するか地元となる東北の片田舎に戻って、テキトーに仕事を探す凡百の一人とは雲泥の差なのだ。
そもそも住む世界が違う。
偶然同じバイト先と言う共通点が奇跡的に生まれなかったのなら、自分が彼女の姿を見る事が出来るのは、テレビやネットの画面越しか雑誌の特集で組まれた彼女の写真程度だ。
こうして待ち合わせまでして、二人っきりで花火を見る事が出来る時点で、一般人の雄太からすれば宝くじを一等前後賞で当てた以上の幸運が発生している。
きっと、もう……こんな幸運は一生訪れない。
一生分の幸運を、ここで使い切っているに違いないのだから。
故に、これは雄太にとって一生に一度の特大チャンスだった。
結果はさて置き、最後まで完走したいと思えた。
良かれ悪かれ、思い出にはなるに違いない。
俺はね? 昔さ? 世界的ピアニストの八代里奈に告白したんだ!
……こうと、自慢話程度の事は出来る。
二度言う様で恐縮だが、結果はさて置いて……なのだが。