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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
七章・そうだ! 昔話をしよう!
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そうだ! 昔話をしよう!(14)

 いや、そうじゃないっっ!

 そうじゃないぞ? あたし! どう考えてもそれはないっ!

 里奈は顔を高速で左右にブンブン振って考える。

 そんな里奈は気付いて居なかった。

 コンビニの店舗前の雑踏で、顔をトマト状態にしたまま団扇よりも素早く左右に振っていた現実があった事に。

 周囲の雑踏にいた一人が、

「……なにあれ?」

「さぁ?……扇風機の霊にでも憑りつかれたんじゃない?」

 みたいな会話をされている恥ずかしい事実に!

 どうでも良いけど、扇風機はこんなに高速で首振りをしないと思うぞ。

「あたしは平静……そう、平静。そして今年は平成9年!」

 里奈はブツブツと独り言を呟いていた。

 本人は平静のつもりだったけど、明らかに平静ではなかった。

「あら、里奈? 今来た所? 相変わらず時間ピッタリねぇ~? 電車みたいに正確!」

 ひょんな所から声がした。

 見れば、三十代半ば程度の女性が、にこやかな笑みのまま里奈へと視線を向けている。

「あ、千春叔母さん。約束通り来ましたよ?……全く、あたしもそこまで暇じゃないんですけどねぇ……」

 視線を向けられた三十代半ば程度の女性に対し、里奈も緩やかに笑みを向けながら答えた。

 里奈の言葉にある「千春叔母さん」の件からも分かる通り、彼女は里奈の親の妹である。

 フルネームは七篠千春と言う。

 備考として、三十代半ば程度の外見をしているが、実年齢はもうちょっと上だ。

「それじゃ行こうか? 場所は前にも一回来てるから分かってると思うけど、そこの雑居ビルね?」

 実は若作りな千春叔母さんは、陽気な笑みをほんわかと作りながら近くにあるビルを指差した。

「……そうだねぇ。そうしますか……はぁ、やれやれ」

 千春の言葉に、里奈は一応の相づちを打ってみせた。

 顔は一気に醒めてしまったと言う感じだ。

 少し前まである、超絶不意を突かれたドキドキがまるで夢か幻であったかの様だ。

 果たして瞬時にテンションが落ちてしまった理由は、この先にある。

 コンビニからも見える雑居ビル二階の「七篠子供ピアノ教室」がそれだ。

 少し前にも述べているが、ここに里奈がやって来る目的は「なんちゃって講師」である。

 こんなおかしな言い回しをしているのは他でもない。

 文字通り「なんちゃって」だった。

 臨時講師と表現しても良いかも知れない。

 話しによると、ピアノ教室の講師がまさかの妊娠。

 妊娠がより確実な物かを調べる為に、本日は旦那と一緒に産婦人科へと向かう事になったらしい。

 これが確定事項となれば、彼女にとって記念すべき第一子となり……恐らく、旦那とパーリーピーポーである。

 うん、なんかこの表現もどうなんだろうね。

 何はともあれ、

「本当、目出度い事ではあるんだけどさぁ? 困ってたんだよねぇ……やっぱり、急に休まれるとさぁ? 本当、里奈ちゃんが来てくれて良かったよ~! 後で、バイト代出すからさ?」    

「そうですね……ま、貰える物は貰って置きます」

 千春の言葉に、里奈は義理程度の返事をしてみせた。

 ハッキリ言って面倒である。

 そして、何をして良いのかサッパリ分からない。

 ピアノを弾くのは好きだし、得意だし、子供に教えるのもやぶさかでない。

 しかしながら、これまで誰彼にピアノを教えるなんて事はなかったし……何より、里奈はコミュ障レベルで付き合いが下手だ。

 どのぐらい下手かと言うと? 高校生三年間の生活で、友達はピアノ一台と中学時代からの女友達が一名と言う惨憺たる結果である。

 友達の数にピアノ一台と言う、助数詞からしておかしいだろ?……って、ツッコミを入れたくなる程度には悲惨な有様だった。

 中学時代からの友人が、辛うじて一人いただけマシと言うべきだろうか?

 しかしながら、その友達とも上京して音大に入った所で疎遠になってしまった。

 地元は、東京から地味に遠かった。

 東海道新幹線に乗って二時間と言った所だろうか?

 大阪や京都よりは近いかも知れないけど、やっぱり地味に遠かった。

 某、お茶が美味しいエリアにのぞみが停まらない分だけ時間短縮出来るけど、やっぱり地味に長旅だった。

 ……はい、ごめんなさい。

 ここらの関係で、中学時代まで親友だった唯一無二の友達とも疎遠となってしまい、とうとうまともに会話が出来る相手が上京してゴールインした千春叔母さんと言う、あなたは本当に華の音大生ですか? と言いたくなる残念な状態にまで陥ってしまった。

 極論からして、他人との付き合いが超絶下手くそだった里奈だけに、ピアノ教室で子供に物を教えると言うか、ちゃんと会話が成立するかで戦々恐々としている。

 しかしながら、引き受けてしまった以上、ちゃんとバイト代程度の働きはしなければならない。

 音大生とは言え、来年には成人式を迎える身なのだ。

 ちゃんと責任は負うべきなのである。

 ……でもやりたくないな。

 そんな、地味に憂鬱な感情が里奈の中でグォグォと渦を巻いていた時だった。

「ああ、そうだ? 今日から雑用で、新しいバイト君が入るのよ~?……ほら、そこのコンビニで働いてる子なんだけどね?」

 陽気な口調で、里奈へと千春が言って来た。 

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