そうだ! 昔話をしよう!(10)
「お兄様! 一体全体これはどぉぉぉぉぉぉ言う事ですか! いきなり居なくなって18年と7時間3分24秒もほっつき歩いて! 私は……私は、ずっと寂しかったのですよ!」
ポカンとなっていた雄太を前に、亜明は瞳一杯に涙を浮かべながらもがなり立てた。
亜明の感覚からすれば、笑えなかったのだ。
「私は、こんなにも長い時間を、お兄様から離れた記憶なんてございません! もうすぐ二十年! 二十年ですよ? 一日千秋の想いでお兄様を待っていた私が十八年! かなり待ったとは思いませんか!」
「……宇宙意思なら、一億年会ってなくても「よう、久しぶり。意外と早く顔を合わせたな」……ってなる物じゃないのか?」
「あなたは黙ってて!」
遮二無二騒ぎ立てる亜明を前に、不思議そうな顔をして軽く反論して来た里奈がいた所で、亜明がソッコー怒鳴り返した。
里奈は苦笑してしまう。
なんだか良く分からないが、感情が先を行き過ぎていてまともな会話にはならないと言う事だけは理解出来た。
そこで里奈は、軽く肩をすくめた状態になってから雄太へと目配せし……軽く腰を浮かせた。
雄太に目配せした里奈の目は言っている。
面倒だからパス。
「……里奈……お前なぁ……」
雄太は地味に苦い顔になってしまった。
この十八年、面倒事が発生した場合は、根本的に雄太がどうにかするのが暗黙のルールとなっていた。
厳密に言うと、一方的に里奈へと問題を押し付けられる事が常習化してしまったのだ。
甚だおかしな話だし、極めて遺憾ではあるのだが……逆に言えば、それだけ絶大なる信頼を雄太に抱いている。
概ね面倒な話になったとしても、頼れる旦那がどうにかしてくれると本気で信じていた。
そして、雄太も里奈の信頼と期待に応え続けて来たからこその顛末である。
心を許せるだけの信頼を、絶対的な信用を18年掛けて構築していた。
だからこそ出来る、自然の態度と言えた。
「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
よって、ベットから腰を上げ、近くにあった椅子に座った直後……未だベットで上半身を起こしたままにしていた雄太へと超速で抱き着いていた亜明を見ても、少し驚いただけで終わっている。
里奈にとって初対面ではあったが、どうやら雄太にとって妹に値する存在である事に間違いはないらしい。
だから里奈としても、内心は少し「微笑ましい光景だねぇ……」などと、ほんわかしている。
地球にやって来て十八年。
この世界に来て、家族と言う概念を知った。
親がいて、兄弟がいて、子供がいて。
そして、将来を誓ったパートナーがいる。
それらは互いに家族と言う絆があって……温もりがあって。
言葉では表現出来ない程、確かな愛情が存在していた。
宇宙を漂っていた頃、自分にも家族と形容出来るだろう存在はいたが、地球に住む家族とは文字通り別の存在と言えた。
この地球にある家族とは比較するのもおこがましいまでに……その絆は希薄で皆無に等しく、ただ宇宙の中で類似する存在である「だけ」で終わっていた。
故に、思えた。
この世界にいる兄と妹の再会は……強い家族の絆がある雄太と亜明の再会を邪魔しては行けない……と。
「おいおい亜明。高々18年だぞ? 言う程の事か?」
「何を言いますか! 私にとって十億年より長く感じましたよ! お兄様が居ないと言う憂鬱が続く永遠回帰が、私の中にある時間の概念を大きく狂わせました! お兄様に会えない一秒一秒が、永久に続く悲哀となって堂々巡りし、悠久の悲痛となって私の心を閉じ込めました!……本当に……本当に長かったんです!」
苦笑交じりのまま答える雄太に、亜明は瞳から滝の様に涙を流しながらも反論した。
きっと言葉の額面通りだったのだろう。
亜明は未だかつてないまでに、ゆっくり感じた時間の中で……常に雄太との再会が来る日を待ちわびていたに違いない。
だからと言うのも変な話なのだが、
「そうか……すまない、もっと早くお前に顔を向けて置けばよかったよ」
雄太は柔和に微笑み、泣きながらしがみ付いて来た亜明の肩越しに自分の腕を絡めた。
そこからしばらく、雄太と亜明の二人は抱き合っていた。
それはそれは……もう、久しく会ってなかった恋人同士であったかの様に。
「……なぁ、雄太? この子、本当にお前の妹なんだよな? まさか浮気相手って事はないだろ?」
あまりにも熱烈な抱擁を続け、頬に何度となくキスまでして来た挙句……唇をも交わしそうになっていた雄太と亜明の二人を見て、里奈の眉間にちょっとだけ皺が寄っていた。
「いや、本当に妹だぞ? 厳密に言うのなら俺の分身だから、親と表現しても構わない相手なんだが」
「いいえ! 違います! 妹です! 娘は嫌です! なんか子供っぽいから嫌です! 常に同列にして、同世代でなければ私の気が済みません!」
雄太の言葉に亜明は猛烈に反論していた。
なんだか良く分からない不明瞭な拘りが亜明の中にあった事だけは理解出来る台詞だった。
結局は意味不明と言う事だった。