そうだ! 助け合おう!(8)
「あんな芸当が出来るのなら、ハチミツはかなり有名所の冒険者なんだろう?……でもおかしいんだよねぇ? あたしゃ、アンタを初めて知った。まるでこれが初めてのダンジョン攻略をしてるんじゃないかと疑いたくなるまでに」
まるでも何も、初のダンジョン攻略だった。
厳密に言うのなら、本人も無自覚のままやっている、初のダンジョン攻略だった。
「ちょっと、事情がありましてねぇ……ははは」
雄太は軽くお茶を濁す事にする。
きっと、これまでの自分が辿って来た経緯を話した所で、彼女の理解を得る事は極めて困難だろう。
何よりそこまで面倒な話をする必要性も感じられない。
だって、このダンジョンを抜けたらサヨナラする程度の間柄なんだもの。
「……ま、とにかく期待してるよ? 本当は私一人で終わらせる予定だったんだけど、まさかこの私より先に攻略しちゃうとは思わなかったしね?」
そうと答えた所で、リリアは歩を止める。
同時に雄太も足を止めた。
理由は眼前にある。
「なんだ、この馬鹿デカい扉は?」
それは扉と言うよりも門に近い。
高さ数メートルはあるだろう巨大な扉だ。
見た所、特殊な金属か何かで作られた代物に見える。
いかにも、この先にボスが待ち受けていますよと言わんばかりの扉だ。
「もう説明しなくても分かるだろう? この先にゼネト=ミギアノスが待ち構えてる。心の準備は出来たかい?」
いいえと言いたい。
「そうですね……分かりました」
雄太は渋々ながらも頷いてみせる。
どう足掻いた所で、この扉の先へと進まない限り、野垂れ死にするかないのだ。
「ヨシ! そう来ないとね!」
ドカァッッッ!
言うなり、リリアは巨大扉をグーで殴った。
見事にグーパンだった。
痛くないのかな?……とかって言いたくなるまでに豪快な全力パンチだった。
しかし、彼女の表情を見る限り全く問題はないのだろう。
そして、彼女放ったグーパンの威力は、雄太の想像を遥かに凌駕している事も。
ギィィィッ……バタンッッ!
ド派手に殴り付けた事で、ひしゃがれた古い金属製の音を出しながらも扉が開いて行く。
数トンはあろう大岩を片手でヒョイと持ち上げていた狼男の時も思ったが、この世界の物理的な法則は一体どうなっているのだろうか?
「行くぞ? ハチミツ!」
リリアはニッ!……と、笑って言う。
いい加減、その甘そうなあだ名で呼ぶのは辞めて欲しい所だ。
雄太はリリアと共に、ゆっくりと扉の向こう側へと歩いて行く。
やたら広い洞穴が広がっていた。
簡素に言うのなら、ちょっとした体育館程度の広さはあったのではないだろうか?
天然の巨大鍾乳洞であったのなら、確実に観光スポットとして重宝されそうだ。