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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
七章・そうだ! 昔話をしよう!
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そうだ! 昔話をしよう!(6)

 他方、旧意思の方は平凡な青年風の恰好をしていた。

 特徴的と言えば黒髪なのだろうが、それ以外に特筆する部分がない。

 美形と言えば美形にも取れるのだろうが……なんともはや、影が薄い顔立ちなのだ。

 目は大きくも小さくもないが……良い印象はもちろん、悪い印象を与えるには至らない。

 鼻立ちも高くも低くもなく、一言で言うのなら特徴として印象に残り難い。

 頬も同じで……強いて言うのなら健康的な肌をしていると言う程度なのだが、若い男性であるのならスキンケアなんぞしなくても、なんらかのストレスや欲求不満とかで肌荒れでもしてないのなら、普通はこんな物である。

 つまりは平均的と言いたい。

 体躯も右習えで、背丈も標準的な挙句、肉体的な特徴もこれと言ってない。

 強いて言うのなら、腹筋が鍛えられているのかなぁ……とか、上腕二頭筋辺りが少し筋肉質なのかなぁ……とか、細かい部分を言えばソフトに身体が鍛えられている側面を持つが、こんなのはじっくり見ないと分からない事だし、パッと見では分からない事柄だ。

 総じて第一印象が「普通の男子」になりがちな姿と言える。

 きっと、服装に気を付けて、それなりの恰好をすれば恰好良いだろう……多分。

 閑話休題。

 名前がないと面倒なので、美女へと変化した新意思には「里奈」と言う名前を、青年の姿に変わった旧意思には「雄太」と言う名前で呼び合う事にした。

 セカンドネームは一応ある。

 市ヶ谷と言う、純和風の名前だ。

 セカンドネームは互いに一緒で、夫婦と言う事にして置いた。

 互いに同い年程度の男女で一緒に動く場合だと、夫婦にして置いた方が何かと都合が良いからだ。

 名前が和風なのは他でもない。

 地球に降り立った場所が偶発的に日本であったからだ。

 ここで、ある筈もない出生届を捏造し、日本生まれと言う事にして置いた。

 ついでに、ある筈もない預金口座に、これまたあろう筈もない謎の大金が用意されており……これを元手に世界を当てなく放浪していた。

 こうして、この文節の冒頭に繋がっている。

「うーん……地図を見る限りだと、100キロぐらい南にフィレンツェがあるみたいだから、北イタリアか?……ま、南に行けば色々な文化と芸術が待っているかも知れないな?」

 新意思こと里奈の言葉に、旧意思こと雄太は手元の大きな地図を広げながらも声を返した。

 見れば、そこには雄大な大自然。

 木々と山に囲まれた長閑な風景が生まれていた。

「なるほど、なるほど。それじゃ、このまま南下して行って、近くの村に立ち寄りながらまったり進んで行きましょうか」

 そう答えた里奈は、意気揚々と歩き出す。

 向かった先は、山道にポツンと止まっている一台の車だ。

 車と表現したが、普通の乗用車ではなく、キャンピングカーに近いトラックだ。

 生活をして行く上で、そこそこ使えるスペースが混在している。

 元々は荷台だった部分を、あれこれと工夫する事で生活するのにそこまでの不便を感じない程度の状態に少しずつ改造していた。

 このトラックもどきのキャンピングカーに乗りながら、雄太と里奈の二人は悠々自適な旅を続けていた。

 旅の内容は、まさに悠々自適。

 特に目的もなく、単に面白そうだと思えた村や町があったら、そこに立ち寄っては気ままに生活していた。

 そんな……良くも悪くも自由奔放な生活は、里奈の性質を大きく変えた。

 例として、トラックを運転してしばらく行った先にあった、小さな農村では……この村で自慢の果実を御馳走になった後、そのお礼として里奈が近所の学校にあるオルガンで聞きかじった音楽を披露しては、子供達に沢山の拍手と喝采を浴びていた。

 北欧から南下してイタリアへとやって来るまでの間、偶発的にピアノを弾く事となり……周囲の人間、特に雄太から褒められた里奈は、いつの間にか趣味として楽器を手に取っては、周囲の人間に披露する事が多くなっていた。

 その腕前はかなりの物と言える。

 最初こそ、楽器の弾き方が分からずに困惑していたのだが……演奏のイロハを軽く聞いただけで、スグにこの世ならざる不思議な音色を奏でるまでに至った。

 ともすれば、宇宙意思であるからこそ可能にしていた芸当であったのかも知れない。

 まさに人間業とは思えない、人間には不可能にも近いであろう神秘の音色を生み出す彼女は、ちょっとした都市伝説の様な存在にまでなっていたのだが……余談程度にして置こう。

 この様な感じで、なんちゃって楽団みたいな事をしては、諸国漫遊の旅を謳歌していた里奈と雄太。

 地球に降り立って十年程度の時間が経過していた。

 この十年は、里奈の中にある思考の変革史とも言えた。

 地球に降り立った当初、里奈の感情は空虚なままだった。

 何に対しても興味を抱く事はなく、存在している物に何も求めず、期待せず……ただ、認識だけが思考の片隅に留まるだけで終わっていた。

 だが、雄太と二人で歩き……旅をし、色々な乗り物に乗って、特徴的な町や村を散策し、海を越えて山を越えた事で、色々な物や者に興味を持つ様になった。

 最初に興味を持ったのは……雄太だった。

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