そうだ! 昔話をしよう!(3)
この調子で行けば、ほんの一億年もしない内に宇宙の終焉を迎える事になるだろう。
長い長い宇宙の歴史からすれば、瞬きにも等しい……短い時間だ。
そして、残り幾ばくもないだろう宇宙の終焉を、ただただ漂うと言う不毛かつ無意味な行動を続けて終わりにしよう。
そう思っていた時の事だった。
自分の親が唐突にやって来た。
見れば、兄や弟もいる。
この家族構成を説明するのは少し面倒だ。
厳密に言うのなら、みんな同じ意思から派生した、同じ存在である。
親が、自分の元々と言える存在で……弟や兄が親から生み出された意思だ。
性別の概念はない為、正確には兄でも弟でもないのだが……説明を簡単にする為、あえて兄や弟と定義する。
そこはともかく。
親は言った。
この宇宙は終わるので、多次元宇宙の何処かに引っ越しなさい……と。
終焉を迎える宇宙の象徴とも言えるブラックホールだらけの現状は、ある意味で引っ越しをするのに適している……かも知れなかった。
ブラックホールの中に入れば、どっかには行くからだ。
なんとも曖昧な事を言うのは他でもない。
ブラックホールの先にあるのがどんな場所なのかまでは、実際に入ってみないと分からないからである。
言うなれば、行先の分からない空間転移をする様な物で、ランダムながらも当たりを引けば多次元宇宙の何処かに繋がっている……かも知れないと言う話。
そこでブラックホールに入って、ここではない宇宙の何処かに行けと言う。
当然ながら断った。
別に行きたいとは思わないし、消滅する事に何かを感じる事だってない。
人間とは違い、本能から来る恐怖……生命を脅かされる事で到来するだろう危機感と言う感情は、徹頭徹尾持ち合わせては居なかった。
しかしながら、親は過保護だった。
そして、どうしても自分を生かしたいらしい。
末っ子と表現するのは多少難ありではあるのだが、親は終焉を迎える宇宙でも最終世代に値する新しい存在らしい。
最古の意思がいて、その分身がいて……更に分身が分身を生み……以下略。
この要領で何世代かの分身が生まれ、現在の親が居て……末端世代に今の意思が存在している。
兄や弟も同じだ。
極論からして、親の感覚で行くと意思達はまだ若く……生まれたばかりだと言うのに、宇宙が終焉を迎えてしまう理由で短命に終わってしまうのが余りにも理不尽でいたたまれないのだと言う。
果たして、親は強引に兄と弟……そして、意思の全員をそこらのブラックホールへと強引に押し込み……ついでに自分も入ってしまった。
本当は、親の方は入って来るつもりではなかったのだが、暴れる三人を強引にブラックホールへと近付けたら、自分も吸い込まれてしまうと言う間抜けっぷりを発揮していた。
かくして、終焉を迎えようとしていた宇宙から、四つの意思が別の宇宙へとワープして行くのだった。
ワープして間もなく、親は直ぐに旅立った。
元来、終焉を迎える宇宙に留まり、そこで生涯を閉じようとしていたのだが……結果として生き延びてしまった為、せっかくだから新しい世界を適当に作ってみたくなったそうだ。
そして、ここではない何処かの、今ではない何時かへと消えて行った。
時間と空間は何処なのかは分からないが、きっとそこまで遠くはないだろう。
恐らく同じ宇宙の、過去か未来かの何処かに消えた。
……思えば、時間と空間を操る事が出来たのなら、ブラックホールに放り投げるんじゃなくて、終焉を迎える宇宙の過去へと飛ばしてくれれば良かったんじゃないのかなぁ……とかって、素朴な疑問を持ちながらも、意思は新しく引っ越して来た宇宙を漂ってみせる。
結局はやる事は一緒だった。
一億年程度で消滅する予定だった物が、10の100乗年程度に伸びただけ。
実に残念な伸び方をしてしまった物だ。
終焉を迎える宇宙とは大きく異なり、この宇宙はまだまだ若い宇宙と言えた。
目算で、138憶年と言った所だろうか?
この調子では、気が遠くなる程の時を漂流する羽目になってしまうなぁ……なんて思っていた時だ。
「お前は……俺の分身ではないな?」
声がした。
厳密に言うと、それは声ではない。
宇宙には空気がないので、そもそも音を出す事なんか出来る訳がないからだ。
なので、正確には思念の様な物が飛んで来た。
「そう言うアンタは何者だ?」
「名前はない……強いて言うのであれば、この宇宙が出来た時に、なんの因果があってか同時に生まれて来た奴だ」
この宇宙へと新しくやって来た意思に、別の意思はそうと名乗った。
……でも分かり難いね。
仕方ないので、新しい方は「新意思」で、元から居た方は「旧意思」と言う事にして置こう。
ちょっと苦しい言い回しだが、取り敢えず勘弁してくれたら幸いだ。