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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
七章・そうだ! 昔話をしよう!
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そうだ! 昔話をしよう!


 その日、新しい宇宙が出来た。


 時間はなく、空間もなく、大気もなく……そもそも、物質と言う存在すらもない、まさに「無」と表現出来る場所ではあったが、物質の根本となる粒子だけは生まれた。

 粒子が存在していると言う事は、この世の理を示す為に対となる存在が同時に生まれる事となる。

 反粒子がそれだ。

 粒子は反粒子と同じ数だけ生まれ、互いに衝突しては消える。

 そして、新しい粒子が生まれると、同数の反粒子が生まれて衝突しては……消える。

 これを何回、何十、何百と……数えるのも億劫になってしまう数の粒子と反粒子が衝突して行き……やがて衝突エネルギーを生み出して行く。

 単体のエネルギー量は実に微量で、塵芥にも劣るささやかなエネルギーではあったが、それが何万、何億、何兆、何京、何垓、何穣……それ以上の衝突を続ける事で、エネルギーは強大になって行き、増大に増大を重ねた事でこれまで留まり続けていたエネルギーが肥大化……やがて、実体化して行く。

 肥大に肥大化したエネルギーによって時空が生まれた。

 インフレーションと呼ばれるそれは、瞬きも出来ない一瞬で時間と空間を生み出して行く。

 その一瞬後……時間と言う概念が生まれた直後、溜まりに溜まっていたエネルギーが、瞬時に弾けた。

 俗に言う、ビックバンと言う奴だ。

 時間もない、空間もない、粒子だけがぶつかり合うだけの場所に、時間と空間が生まれた事で防波堤が崩れたかの様に、新しく生まれた時間と空間へと四散した。

 こうして宇宙は誕生した。

 何番目の宇宙なのかは定かではない。

 ザックリと考えても、数えるだけ無駄と思える程度の数には到達している。

 まさに天文学的な数値だ。

 きっと、宇宙の数を数えるなんて事は、自分がこの世に生まれて来た奇跡の数を数えるのと同程度には馬鹿げた行為なのだろう。

 そして、この宇宙に生まれた奇跡を語る事もまた、単なる不毛な話なのかも知れない。

 それはまさに偶然。

 他の宇宙では訪れる事もなかった奇跡的な誕生。

 インフレーションが発生し、爆発的なエネルギーによって時間と空間と……意思が生まれた。

 どうして生まれたのかは謎だ。

 気が狂ってしまうまでの回数だけ衝突した粒子の一つに、一つだけ……なんらかの意思に繋がる種の様な物が偶発的に生まれたからなのか?

 はたまた、ビックバンの瞬間に奇跡的な謎反応が発生し、宇宙の神秘とも取れる正体不明の概念が生まれたのか?

 それは分からない。

 確実に言える事は、新しく生まれたその宇宙には、意思と形容可能な特殊概念が生まれていた。

 時間でもなく、空間でもなく、物質でもない、まさに未知の概念……思考。

 名前も存在しない、まさに未知なる概念は、あたかも別次元の存在であるかの様に、時間と空間に全く縛られる事なく、新しく生まれた宇宙をただただ……ひたすら漂い続けた。





 どれだけの時間が経過したのか?

 そもそも、時間の概念など最初から無意味だと言うばかりに、その意思は宇宙を漂い続けた。

 周囲を見渡すと、遠く闇の空間の果てに光る星の様な物がある。

 どうやら、宇宙が誕生して恒星が生まれる程度の時間が経過した模様だ。

 自分達が知っている宇宙と同じであるとすれば、最低でも五億年は経過していた事になる。

 意思は、そこで一つの恒星……太陽の様な星へと近付く。

 近寄った理由はない。

 ただ、気が向いたから近付いた。

 光る恒星は、七つ程度の惑星を自分の重力圏に置いていた。

 取り敢えず、そこの一つに降り立ち……自分の意思を生み出した。

 生み出した意思は、自分の分身の様な存在だ。

 どうしてこんな事が出来るのかは自分でも分からない。

 気付けば出来る様になっていた。

 恐らくそれは、自分の身体の仕組みを自分で分かる人間なんて医者ぐらいしか居ない……と言っているのと同じ理由だろう。

 意思は、自分の分身に命じて、特殊なエネルギーを生み出させた。

 生命に繋がる……何かを。

 こうして、世界が生まれた。

 




 こんな事を意思は何回か続けた。

 気紛れで、なんとなくやりたいからやった。

 気付けば、自分の分身も増えた。

 永遠にも等しい、億年単位の時間が経過する中、ただただ広がって行く宇宙空間を目的もなく漂い続けては、恒星の中にある惑星に自分の分身を産み落として、世界を創り出して行った。

 そんな事を何回か続けて行く内に、一つの分身だけ……何故かやたら自分に懐いた。

 その分身は、世界を創らず自分と一緒に居たいと言う。

 何故なんだ?……と聞いたら、その分身は言った。


 寂しいからだ……と。


 初めて聞いた。

 寂しいとはどんな事を言うのだろう?

 単体で居る行為に、どの様な思考が生まれるのか?

 意思には良く分からなかった。

 そして、分からなかったから……興味を持った。

 同時に思う。

 分からないのなら、コイツも一緒に連れて行こう。

 そうすれば、言っている意味が分かる時が来るかも知れない。

 こうして、意思は分身と二人で宇宙を漂う事に決めた。

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